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2.行方不明のティアラ

 故郷トンモーバに着いた時、俺の長い旅は終わった――。

 ほんの僅かな時間だったけれど、それは何十年にも思えるような内容の濃い物だった。

 だが、何十年の歳月が一瞬の出来事のように思えるよりマシだろう。

 再び籠の中の鳥となった自分――今となってはあの自由な時間が懐かしくさえ感じてしまう。


 今日は良い天気だ。外であの日の出来事を執筆しようか――。


「何一人でエンディング迎えてるのさっ!」

「嫌だっ、あんな針のむしろを味わうぐらいならエンディングを迎えたいっ!」


 トンモーバに帰って来ると、案の定――猫娘・犬二匹・豚を連れて帰る俺を見て、皆がどう迎えていいのかと困惑した表情をしていた。

 今では色んな噂が上乗せされ、奇怪な目で見られているのだが――ファム自身は元々気にしない性格なのか、そんな特異な目で見られていても何とも感じていないようだ。


 外だけではなく、屋敷の中でもそうだった――我々の一行を見たメイド長(四一歳・彼氏いない歴=年齢)は、激怒・困惑・恐怖・愛欲と多種多様な表情を見せた。

 一つおかしい気がするのだが、醜悪な巨体を持つオークを見て『ああ……』熱を帯びた目で彼を見つめ――翌朝になるとメイド服の胸元をはだけアピールしていた。そんな想いに反し、オーク自体は全く相手にしてない……。


「うーん、噂には聞いていたけど、想像を上回るおだやかな国だねー」

「要するにド田舎って事だろ」

「あ、あはは……。

 でも、ボクはこっちのが好きかな。人間は穏やかで暮らしやすそうだし」


 昨晩ファムに『街を案内して!』とせがまれ、この国で唯一賑わう閑静なメインストリートを案内していたものの……僅か一時間足らずで通り過ぎてしまう。

 矛盾しているが、何せこの国には観光名所がない。完全に地元相手の商売だけである為、店が殆どないのだ……。

 迷宮などの人が集められる名所でもあれば、否応なく人が集い、人の流れが出来れば店も出来てゆくのだが……。


 小国のトンモーバにあるのは、広大な農耕地と小ぢんまりした城のみである。

 都市圏のように物と活気にあふれる国ではないが、その広大な農地のおかげで衣食住には困らないので、ファムの言う暮らしやすい国であるのは間違いないだろう。


「でも、これぐらいのどかなら、古典的な手に引っかかったロイルも納得できるかな?」

「あれが普通と言うのだったら、俺はもうこの国から出ない。

 と言うか、ファムだって偽物の地図掴まされて迷宮で迷ってたろっ!」

「あ、あれはしょうがないからっ!」


 思えばあれが全ての発端か……互いに偽物の地図のせいで迷宮を彷徨い、そこで出会ったモグラに連れ回されたのだ。

 キャリオン峡谷では、そこの畑を耕しているコボルド二匹とも出会い――


「なーにやってんだお前ら?」

『この畑のばーさん腰痛めたって言うんで』

『俺たちが代わりに畑仕事してるんでさぁ』


 〔モンド〕と〔バックス〕が畑の傍に顔を向けると、畑の傍に設けられた椅子に腰をかけた白髪の老婆がそっと頭を下げた。

 孫を見るような優しい目で、ザックザックと慣れた手つきでクワで土を掘り起こす双子を見守っているようだ。


 この双子に関しては放っておいてもは特に問題ないだろう。持ち前の愛嬌と懐っこさで人間には受け入れられてゆくはずだ。

 オークは……オーク×年増メイドの新規開拓できるから問題ない、と思う。


「あの二匹とオークを名物にでもしたら?」

「なるほど、なら僻地にモンスターパークでも作ろうか……」

「どうして僻地なの? メインストリートのが良いと思うんだけど」

「それだと周囲の人間が恐れる可能性があるからな。

 それに、人の往来が出来れば道になるし、それを狙って道沿い店が出来る。

 不便なら運輸業が集まる――と発展させられるんだ。国の金で――」

「へぇ……一応は国のこと考えてるんだ」

「そこまでの集客力があれば――だけどな。

 無かったら無駄な施設だし、半端に発展しても損をするだけになるし。

 それに……」

「それに?」

「俺にそこまでの権威が無い!」

「い、威張って言うセリフじゃないよ……」


 いやまぁ確かにそうなんだけどさ……。

 王族と言っても末端もいいとこだし、トンモーバは基本的には女王が国を治めるから男の立場が若干弱い。


「でもおかしな国だよね。王女が結婚したら即位するって」

「陛下ってか親父がやる気ないからね。だけど、色々問題があるんだよなぁ……」

「問題?」

「我が姉の事と、即位にあたって必要となるティアラが――ない」

「ど、どっちも気になるんだけど……ティ、ティアラがないってどういう事!?」

「お前、もしかしてここに来たがったのは、それを盗む気で――」

「い、いやぁ……ちょっと見たかっただけだよっ、うんっ」


 絶対、あわよくば持ち去る気だったなコイツ――。

 現物が無ければ絶対に盗まれる事がないので安心なのだが、本当にあのティアラどこに行ったんだろう……?

 ばーちゃんのは死ぬ前日までは確かにあったと証言されてるのに、ベッドで眠る様に死んでいたのを見つけた時にはもう無くなっていたらしいし。


 ヒントとなるのは、日記にあった『永遠のともだちへ――鍵は嫌いなもの。約束は二人だけの秘密の場所にあるよ――』との一文だけ……。

 いや、これもヒントとは限らないのだけど、よく『あのティアラはあげる約束だからね』と言っていたからだ。


「いくら、ばーちゃんのティアラがレプリカだって言ってもなぁ……

 本物の方もないし、それあげちゃうのもマズいしなぁ……」

「れ、レプリカなの!? あのルビーとかちりばめられた高そうなお宝が!?」


 やっぱりこいつ狙ってたな――。

 だけど、ばーちゃんは"物がなければ女王になれない"と言う固定観念をぶち壊したがっており、『冠が女王ではない』と言って本物を被ろうとしなかった。


「う、うーん……やっぱり、その友達がキーマンだよね? 誰か心当たりあるの?」

「分からん。知り合いや友人に尋ねても――あれ?」

「ひょ、ひょっとして何か分かったっ?」

「いや……ばーちゃんの口から『友達』って言葉聞いた事ないな、って思って。

 全部『友人』や『知り合い』、『アレ』だったし……」

「『アレ』って誰のことかすっごい気になるよ……でも、それって大ヒントじゃない!

 その『友達』って人を探したらいいんだよっ!」

「うーん……それだとなおさらあの懐中時計も必要になるんだよなぁ。

 あれも『友達に返して欲しい』と言われた品だし。

 あーあ、誰かが持って行かなきゃなぁ……」

「う……あ、あれ見つからなかったんだよぉ……」


 ココの部屋を探してみたが何も見つからず、逆に見つかって爆竹を投げ込まれたらしい――。


 ・

 ・

 ・


 ばーちゃんに関する情報をもう一度探そう、と屋敷に戻った時だった。

 噂をすれば何とやら、俺が帰ってきている事を知った姉――ラウラが屋敷にやっ……乗り込んで来ていた。


「お姉さんの問題って……あれ?」

「うん……」


 己で身を守れる為に、と剣術を習い始めた姉は今や騎士団長となっており、甲冑姿で屋敷に来た。時々、この人の頭はどこかイカれてんじゃないかと思う。


『すげぇっ、この国《ジャイアントエイプ》まで飼ってんのかっ』

『しかもゴツい鎧来てる!?』

「女騎士――ノ夢、破れタり……」


 その身内が近くにいること忘れてるモンスター共は言いたい放題だった――。

 ファムも何と言っていいか分からない表情をし、オークに関してはもう絶望を味わっている。


 だが、みんなの反応は分からないでもない――身長180センチの色黒、顔と体躯を全て含めても《ジャイアントエイプ》そっくり。名前だけ可愛いと言われる人だ。

 身内の俺ですら、リノリィの迷宮でその《ジャイアントエイプ》を見かけた時、本気でラウ姉が迷宮に来ていたのかと思ってしまったぐらいなんだし……。


「ローランッ、おお会いたかったぞッ!

 よしよし、冒険に行ってきたんだってなぁー、んんー偉い偉いっ」


 ヘッドロックの体勢で、デカくてゴツゴツした手でなでなでされる――いつも会ったらこうなのだ。

 ラウ姉は見た目はアレだが心根が優しく、こうやって心からの笑顔を見せながら俺の頭を撫でてくれる。嬉しいがゴツい手が痛い。


「ローランに礼を言いたいッ、お姉ちゃんはローランに感謝してるぞーッ!」

「いだだだっ――れ、礼って何っ!?」

「以前、私の似顔絵を描いてくれただろう!」

「う、うん確かに描いた……気がする……」

「そ、それをだな、隣のローアインのご子息の目に留まってなッ!

 その、わ、私と結婚したいと言ってきたんだッ!」

「え、えぇぇぇッ――」


 結婚もビックリだが、あっ、あの絵を送ったの……?

 ラウ姉に言われて似顔絵を描いた――優しさ全開で描いたあの絵を……?


「ローランに、ローアインッ!

 ああ、弟と名が似ているのも何かの縁かッ。うんうんッ」


 縁はあるだろうけど……良縁ではなく因縁になるかもしれないよ?

※次回 5/8 20:20~ 更新予定です

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