1.家に帰ろう
【 一人で遊んでいた子供に友達が出来た。
日が暮れたのに、家に帰りたくないのはどうしてだろう。
まだ明るいままでいてと思うのはどうしてだろう。
あれほど早く帰りたいと思っていたのに、今では帰るなんて考えられない。
こんな一行で帰ったら、何言われるか分かったもんじゃない――】
ロラド城からリノリィに戻るやいなや、俺とファムは休む間もなく馬車に乗り北を目指す事となった――。
リノリィは大陸のほぼ真ん中にあり、目的地のロナイナは東の端に位置しているのだが、今はまだそこに向かわないらしい。
……と言うのも、ココは《モール》の整備を行うので『邪魔だから出て行け』と全員叩き出されていた為だ。
その時に、ロラド城から持って帰って来た剣と、"ワンタイム"と言う恐らく仮死薬までも没収されしまった――剣は分からないでもないが、薬はどうしてか分からない。
まぁ、余程切羽詰ってなきゃ使う機会なんてないので良いのだけど――。
街中には入れないので、猫に犬二匹に豚――に連れられた人間は、強引に馬車に乗せられている。
ファムのフェルプ族は良い印象こそ無いものの、人間とのハーフだからか認知はされていのだが……この犬と豚はまんまモンスターなのである。一緒に居れば悪い奴らじゃないと分かるものの、印象と既有知識がそれの理解を妨げてしまうのだ。
それは多い方が物事をスムーズに進めやすい――しかし、プラスに作用する反面、マイナスにも作用する。そのせいで、いくら友好的であっても、反射的に"敵"と認識してしまい、恐怖と偏見・敵意を生んでしまう恐れがある。
なので、こんな街中で無用な争いと混乱は避けたい所なのだが……。
「な、南のタッキーの街とかはどうだ? 揚げたチキンが美味くて有名――」
『俺たち!』
『バーガー派!』
「お前ら玉ねぎダメなくせに、バーガー食うんじゃねぇよっ!?」
『大丈夫!』
『最悪死にかけるだけ!』
犬の癖にチキンレースでもやってんのかこいつら……?
だが、何としてもこいつらの言う最終目的地に到達させてはならない。
既にもう東の隣国を越え、その先のハイオを越え、ルバニアに差し掛かりつつあった――。
絶対に……絶対に俺の国、トンモーバに到達させてはならない――。
「たまには里帰りしなきゃ! 北北東の端にあるせいか行く機会もないし
ボクもロイルの、その……故郷が見てみたいしさ」
「う、うぅむ……」
ファムが言葉に詰まった理由が分かる――彼女には"故郷"があっても帰れない。
リノリィを発ち、もう二日は経つだろうが、外に出たのは数時間程度――それ以外は馬車に乗りっぱなしなので尻も腰も痛い……。
一日目は野宿だった。
このモンスター共を見て『辺鄙な所に差し掛かったら私を殺すつもりだ』と勘違いしたのだろう――御者が商売道具とも言える馬車を捨て、悲鳴をあげながら逃げ去ったせいだ。
繰り主がいなくなった馬車を放置するわけにもいかないので、しばらくそのまま借りる事にした。金も十分に払っていた事だし。
どこかの街で適当に腰を据え、持ち主に『後で追加料金も支払う』と手紙を送っておこう。
その夜は、暗闇でこの一行に気づかず近づいてきた野盗の皆さまと、火を囲んだ賑やかな夜となった――。
野党の皆さまは、十分あると言ってるのに路銀まで頂戴してくれた。悪い人達ではなさそうだ。うん。
先ほども言ったが、このモンスター共は悪い奴らではない。
オークなんかはリーダー含めたタカ派が壊滅した為、今では村娘を襲う事もなくのんびりと暮らしている。
それに、ハト派のオークはシたければ『苺でどう?』など事前に同意を得てからするらしい……それもダメだが、まぁ襲うよりはマシだろう。
だが、ハト派と言ってもオークはオークであり、そこに女騎士や姫が居る場合は全力で襲撃する――ずいぶんと下半身に正直な奴らだった。
片やコボルドは自由気まま、許される範囲内で二人でキャッキャと遊んでいる。
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二日目に続き三日目も野宿確定だった――。
モンスターに、偏見持つの、やめよう。彼らは、とってもいいやつ。
街に着いても誰もが我々に目を合わそうともせず、宿屋に関しては『客が全員眠れなくなるので平にっ平にっ!』と涙ながらに懇願して来た。
向こうの言い分も尤もであるため、俺たちからも強くは言えない。お布団とベッドはもう諦めよう。
そんな奇妙な一行を受け入れてくれるのは、初めての冒険を終えた後に立ち寄ったような、冒険者が集う小汚いオッサンが集まる酒場ぐらいだった。
ここは金と資格さえあれば何でもいい場所――やはり畏まった所よりも心落ち着く。
「ボクはこのまま野宿ばかりでもいいかなー。
ロイルとのんびり馬車に乗って、のんびり自由な旅するのも楽しいからね」
「た、確かにそうだけどさ……少し臭いが、な」
「ここに来る通行証みたいなものと思えば気楽だよ。それにボクらも誰も気にしないし。
オヤジさんっビールもう一杯ッ! ロイルも……うーん、全然臭いしないよ?」
『んだんだ』
『まだヌルいでさ』
ビール片手に鼻をスンスン鳴らすファムに双子のコボルド――。
ファムはニンニクチップがたっぷりかかった串焼き肉を片手にしているので微妙な所だが、嗅覚が鋭いモンドとバックスも『え、人間ってこの程度で臭いの?』と言った表情をしている。
オークも含め、獣たちはみな同じ意見のようだ……少し安心したような、しないような。
ここは、陸の最大都市とも言えるヨーク――の外れの外れな町の酒場。
都心部は闇が落ちる事が無いと言われるほど、街は活気づき時間を問わず明るい。
だが、光あれば陰あり。どんよりと暗い辺鄙な町でも、この酒場だけは明るく盛況だった。
ヨークの中心部を通ると問題が多いので、俺たちは迂回するルートを取っていた。
もう色々諦めた。これで我が国の民が大騒ぎするならもう『俺は王族の血を引いてんだぞ!』と職権乱用して強引に認めさせるしかない。
自分の住む国と屋敷だけでも受け入れてくれ、そしてゆっくり休ませてほしい――。
思えば、リュックを背負い『ちょっと旅に出て来るわ』的なノリで国を出たあの日から始まったのか――。
迷宮に足を踏み入れ、他種族の戦争に首を突っ込み、大スクープを入手し……今は、ちょっと人とは違う仲間を連れて家に帰ろうとしている。いや、仲間ではないな。
「あ゛ーっ、やっぱビールはいいなーっ!
ん、ボクの顔じっと見てどうしたの? 何かついてる?」
「いや、何かいいなぁって思ってさ」
「な゛っ!? ななななっ何言い出すんだよっ、酔ってんのっ!?」
こいつらは腹を割って話せる"友"――だな。
ファムに関してはそれ以上だろう。共に居ると心落ち着き、心許せるような存在だった。
確かに冒険をした結果、ロラド城の真相と言う大スクープが得られた――。
今はそんな物書きのネタよりも、こう言った"友"を得られた事の方が大きいかもしれない。
※次回 5/7 20:20~ 更新予定です




