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モグラとマッピング * 依頼受け付け中 *  作者: Biz
3章 ロラドの廃城
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4.そこにあるもの

 一時間ぐらいかけてファムはようやく降りる事が出来た。

 どうやら上の幹に油のようなのが塗られていたらしく、そのせいで爪が引っかからなかったらしい――。樹にしがみついて降りたせいで、内太ももなどにそれがベッタリとついていて妙にエロチックだ。


「う、うぅ……久しぶりに降りられない恐怖を味わったよ……」

「でも何でまた油なんか?」

「あのトカゲ対策にハーピーが塗ったのだろう」

「ああ、なるほど……」


 どうにかして卵を守ろうとした、母の苦肉の策なのだろう――。

 ファムはもう登らないだろうし、地上からは無理だ。

 そうなると、空を飛ぶハーピーに『お前らの巣を襲う蛇を退治したから、代わりに石取って来い』とお願いするしかないのか。


「もしくは諦めるしかないか……」

「うん? ああ、"ブクブク石"のこと?」

「ぶ、"ブクブク石"?」

「あれ、空気を発する石知らない? 水槽とかに入れて魚の飼育する時に使うの。

 確かにこのサイズは凄く珍しいかもだけど……」


 そう言ってポーチから取り出したのは、手の平に収まりきらない程の琥珀色の石だった。

 ファムの反応からして、あまり値が付く代物ではないのだろう。宝石類に疎い俺から見ても、ただの普通の石にしか見ないし、空気を発している感じも全くしない……。


「空気を一定に保つ石――って言ったらいいのかな?

 このサイズならロイルが生き埋めにされても、土の中で快適に暮らせるかもね。

 ああ、でもあんな恐い思いしてコレはなぁ……はぁ、夢に見そう……」

「ふむ。ならこれを食うといい」

「ん? 何かくれるの?」

「口を開けろ」


 それが事件の発端だった――。


 ・

 ・

 ・


 ココが取り出した木の実を口にしたファムは……


「ねぇ~、ロイルぅ……」

「ふぁ、ファムさんもう止めてっ!?」


 一瞬にして見事に出来上がっていた――。

 状態的には酔っ払いだが、それは飲酒による酔いではない。

 何かイケないお薬を飲んだような――あのモグラ、この猫娘にマタタビの実を食わせやがったのだ。

 恐らく中庭に生えていたそれだろう。実自体に効果があまりないと言うが、効果てきめんではないか……いや、それを口に含んでいるからか?

 口の中でそれをモゴモゴと転がし、気だるそうな恍惚の表情を浮かべ、身をよじるファムは何と言うか……大人の色香すら匂わせている。


「わ~ロイルがいっぱいいる~……」


 ゴロニャン状態になり唇は奪われ、あちこちハミハミと甘噛みされまくっていた――。

 その短くザラついた舌で頬やら口やら舐められるたびに、鼻腔を刺激するクセのある匂いをもっと欲してしまいそうになる……。気をしっかり持たなくては、理性から全て持って行かれてしまう。


「ふむ。うむうむ、うむむ――」

「そこのモグラッ、火薬見てニヤけてないで助けろっ! わぶっ……」

「ロイルぅ。ニヤじゃなくて、ニャーだよ~」


 火薬箱を目の前に並べ、腕組みしているモグラは実に嬉しそうだ――。

 所持している爆薬といい、このモグラ……もしかして爆弾マニアなのか?


 ・

 ・

 ・


 いつもの事ながら、帰りの荷物が多い――。

 今回は“ブクブク石"に剣、兵士の日誌と王子の日記、そして猫……。


「うにゅ~……」


 マタタビに酔った猫は熟睡していた。

 帰ると言うと『おぶって~』と背中に飛びつき、そのまま寝てしまったせいだ……。

 軽いので問題ないのが救いか。その代わり腰に下げた、スネークヘッドが所持していた剣が重く感じてしまう。


 色々な意味で重い剣だ――。ファムの斧と同じく、形こそ違うもののモグラのマークが刻まれている。

 恐らくは、この城の抜け穴の完成記念に茶毛モグラが贈呈した物だろう。

 ココがあのスネークヘッドに対して怒っていた理由も分かった。モグラは口や態度は悪いが、仲間を大事にする――その仲間の物を、あんなのに使われるのが我慢ならなかったのだ。


 そのココは『しばらく残る』と別行動を取っている。

 帰り際に『持って行け』と渡されたそれは、俺の物にしろ……と言う事なのだろうか?

 聞こうと思ったが、このモグラはいつも大事な事を言わない。

 それに、ダメならダメと言う奴なので、きっとOKなはずだ。


「あれ? こんな所に通路なんてあったか?」


 そのモグラが作った地図(マップ)を片手に歩いていたのだが、地図上には壁しかない場所に道があった。見落としたのだろうか――?

 どん付きには壁となっているが、弧を描く一本道の足りない部分を補うような形だ。

 もう襲撃者はいないし、ここは完成した地図を見せつけて『見落としていたぞ』とココに突きつけてやろう。


 そう思って、インクを含んだペンを取り、新しい羊皮紙に黒い線を加えていったのだが――。


「簡単に書いていたけど、意外と難しいなこれ……」


 直接書き加えなくて良かったと思う。真っ直ぐ引けないのはしょうがないとしても、距離感が全く分からない――。縮尺と言うべきか、ココの地図に合うように作ってはいるものの、一メートルですら正確ではない。

 とりあえず、この壁に掛けられた肖像画の位置までは正しい、はずだ。


「"家族"、か――」


 その肖像画には、この城に居た王と王妃、王子と二人の王女が幸せそうな顔で佇んでいる。

 この絵、向こうにあった絵じゃないか? いや、帰りに見たのは椅子だけの絵だったはずだが、どこで見たんだっけか……。


 確か中央に白のドレスを着た王女が姉。花かごを持って座っている姿はまるで花嫁のようだ。

 右に立つ、黄色のドレスを着たのが妹。その反対側に居るのが王子。

 姉の後ろに並ぶ父と母……王と王妃――。


 いつ頃に書かれたのだろう。“家族"と題されたそれは、後に起るであろう悲劇を知らない。

 それを知っているからか、この絵を長く直視する事ができない――。特にこの正面に立つ者を見ているような、長女の瞳が不気味にも見える。


「んん~……」


 背中でスゥスゥと寝息を立てるファムを扉の前に置いて、ゆっくりと音のしない扉を開いた。

 そこは外の光が部屋の中に入らないような、光一つない真っ暗だった。

 かつてのダンジョンのように、カンテラに火を灯し恐る恐る足を踏み入れると、目の前に人のようなのが――


「うわぁッ!?」


 いきなり目の前に飛び込んできたのは、目の前に人の形をした何か――白いドレスを着たマネキンが立っていた。

 先ほどの肖像画に描かれていた、長女のドレスだろうか? それをマネキンが着ていたので肝を冷やしてしまった……。

 扉の前で眠っているファムが『あはは』と笑った気がする……。


「長女の、部屋なのか……?」


 ベッドの掛布団はまくれあがり、つい先ほどまでそこで誰かが休んでいたようでもある。もしこんな状況でなかったら思わずダイブしていたかもしれない。

 頭の中で『どうぞ』と聞こえた気がしたが、お、俺はやらないからな!

 その傍にある机には開かれたままの日記と、黒いインクが付いたペン――ここだけ時が止まっているような印象だ。


「王女の……日記か」


 女性の日記を読むのは少し気が引けるが、ついそこに記された文字に目が奪われ、綺麗な字を追ってしまった――。


【 貴方が欲する情報を与えましょう――。

 朝、お父様は母に首を掻っ切られて死んでいました。

 その母はいません。兄と一緒に逃げたようです。

 私は母と兄の忌々しい関係を知っていました。


 その夜、敵兵が攻めて来ました。城の者は次々と殺されました。

 女はすぐには殺されませんでした。ケダモノの慰み者とされました。

 美しかった妹は犬のように扱われ、全ての男の精を流し込まれました。

 その性器にお父様のそれで栓をした兵がいました。妹は泣き叫びました。

 翌日、妹は城から飛び降りました。だけど首だけはここに残りました。


 その首もすぐにどこかに消えました。

 兵はその首を探したけれど見つかりませんでした。


 だって、私が持っているから―― 】



 何だこれは……。どうしてこの人が、妹の凌辱とその死を知っている?

 兵の日誌には、『第一王女はすぐに自決した』と書かれていたはずだ……。

 それに、最後の『私が持っている』って――。


 何か読んではいけない物を見た気がする。背筋が凍りそうだ……。

 だけど、目がその先に書かれている呪文のような文字を追ってしまう――。



【妹はその後、七十五人の子供を産みました。

 その赤黒い子供は父親を恋しがりました。

 母だけで子供を育てるのは大変です。父親も必要です。

 母となった妹は、一人一人の父親の下へ子供を連れて行きました。

 父親は悲鳴をあげて喜びました。嬉しすぎて助けて欲しいと言ってました。

 赤黒い子供はみな妹に似て元気です。

 へその緒を首に巻きつけるぐらいヤンチャな子供もいました。


 ああ、子供と言えば――母のお腹の子供は私が取り上げました。

 やはり出産とは辛いものなのですね。もう三人も産んでいると言うのに、

 お腹を開かれた母は苦しそうでした。私もいつかはと思うと不安になります。


 ああ、その時に母は『赦して』と何度も懇願しましたが、何の事なのでしょうか?

 母は何を謝り、私たちは一体何を赦すと言うのでしょうか? 】


 ダメだ――これ以上読んではいけない。

 この城には他に――。


【同じモグラの友を持った、北東の小さな国トンモーバの王子様へ――。

 私が生きていたら、もし別の形でお会いしていたなら……。

 私はきっと貴方に恋していた事でしょう……。こんな我が身を呪います……。

 ここにあった記録は全て差し上げます。どうかこの城で起った真実を伝えて下さい―― 】


 思わず日記を閉じてしまった――。

 背後で衣擦れの音が聞こえ、背後にあったマネキンが消えていた――。


 ・

 ・

 ・


 顔が真っ青になっている事だろう――。

 何も言わず、何を知らず幸せそうな寝顔のファムを再びおぶり出口へと急いだ。


 先ほどの肖像画が目に入った。

 中央に血染めのドレスを着た王女。手に妹の頭を持って座っている。

 二人の王女が、それを見る者に微笑みかけた――。


 絵には"姉妹"と題されている。

※次回 5/5 20:20頃更新予定です

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