表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モグラとマッピング * 依頼受け付け中 *  作者: Biz
3章 ロラドの廃城
16/46

3.報いを受けるべき者は

 王子の部屋に隠されていた日記を見て、全てが判明した。

 まず女王と王子は"親と子"の関係ではなく、"男と女"の関係にあった――。

 壁に開けた穴より父と母の営みを覗き見ては、自慰行為に耽る……ある日、母親の自慰を覗き見て抑えていた愛欲が――と書かれている。

 最初は戸惑っていた母親も、抱かれている内に次第に背徳に溺れたのだと……。


「もう私の女だ――だって」

「うえぇ……気持ち悪い。見つけなきゃ良かったよ……」


 短い舌を出し、嫌悪感を表すファム――まぁ、無理もないだろう。

 日記に残したのは、罪の意識かどこかで真実を知らせておきたかったのか?


「でも、愛も歪めば国を滅ぼすんだね……」

「ふむ。薬も適量を越えれば毒となる、毒も適量であれば薬になる。

 何事も行き過ぎれば身を滅ぼすのだよ」

「モグモグも……それで滅んだの?」

「黒毛モグラは、一度受けた仕事は完遂するまでやる頑固者が多いからな。

 その意味では、行き過ぎた故に身を滅ぼしただろう。

 バルログを掘り起こした方がマシだったかもしれんが――」


 バルログ――ドワーフの強欲が、眠っていた悪魔を呼び起こしてしまった話のあれか。確かドワーフの多くが死に、住処まで奪われたんだったっけ……。

 黒毛モグラは何かを掘り当て、それに近い事をしてしまったのだろうか?


 だが、知れば知るほどモグラ族とは謎の多い種族だ――。

 あれから《スネークヘッド》の襲撃が無かったわけではない。襲撃しようとしていたが、全て未遂に終わっていた。

 敵の気配を感じればそこに睨みを利かせ、退け……熱心に地図を描いているかと思えば、落書きしてたりする。


 その絵にはーー

 今まさに崩れ落ちようとしている柱に、トカゲに襲われる人間、クロスボウを射る猫。

 手先と言うか爪先が器用だが絵心が無い――ってか、そんな不穏な絵を描くんじゃないよ! その人間は俺だろうが!


 ・

 ・

 ・


 ロイド城の地図はあと一部――。

 今俺たちがいる謁見の間と、大樹があるであろう中庭を残すのみである。

 迷宮のようだと言っても《スネークヘッド》によってあちこち封鎖されており、半分以上が瓦礫の山――。中庭をぐるっと囲う部屋と通路のみであり、単に地下牢などを経由して歩くだけの単調な道だった。

 そこからは城の上の回廊に続く瓦礫の階段に、上には衛兵らの詰所があるだけ――それ以外の道や階段は崩され進むことが出来ない。

 これまでの道もほぼ一本道であり、分岐らしい分岐もない。


 ココは、カリッと最後の一線を引き終え地図を片付けると、右手でハンマーをぐるっと回し肩に乗せた。


「ふむ。そろそろの相手をしてやるとしよう」


 ココが吐いた白い煙は、玉座の真上――天井付近より放たれた矢に掻き消された。

 ズンッ――と音を立てて王座に降り立ったのは、緑色のまさに"蛇"と形容するのに相応しい者だ。

 虫はタバコの煙が嫌いだと言うが、この爬虫類もそうなのだろうか?

 いや、イラついているようにも見えるのは、襲いたくても襲えなかったから……だろうな。


 なのに、奴の目は俺をロックオンしていた。

 蛇には熱を感知する目があると言う――こいつにもそれがあるのだろうか? 俺の体温爆上がりしてるしさ……。

 そのギョロっとした黄色い眼に、思わず手にしている槍を握り直してしまう。

 ついさっき、ココに『剣ではなく槍を持て』と指示された為だが……槍なんて使った事ないぞ?


「ふむ。我々は眼中にないようだ。頑張れよ」

「この薄情モグラっ!?」


 ノッシノッシと近くの柱に向かうモグラ。何なの、そう言う決まりでもあるの?

 ファムは予定通り、離れた柱の陰に隠れたが――。


 “蛇頭"ももっと戦い甲斐のある相手を選ぼうよ、ね? そんな刃にモグラマークが付いた曲刀……ファルシオンなんて構えないでさ。

 ああそうか、きっと俺がこの中で一番強いって思われて――


「ゲゲッ――オマエ、ザコ、ヨワイ」

「口に出すなよ畜生っ!?」


 その太い脚をぐっと踏み込んだかと思えば、ゲゲゲェッ――と不気味な爬虫類の鳴き声と打撃音と共に、とんでもない勢いでこちらに向かって飛びかかって来た。


 ココやファムから聞いた通りだ。

 《リザードマン》は好戦的であるが、弱い奴に対しては非常に高慢であると言う。

 それにあまり強いのとは戦わず、群れで動いて弱そうな奴を狩る――言わば雑魚狩りが多い。弱肉強食と言えば聞こえいいが。

 同じ獲物なら弱い奴を狩った方が楽で、効率が良いとの考えだろうか?


 だが、決して剣術などが弱いからではない。その荒々しい剣は剛の者であっても侮ってはならないものである。

 それ故に、弱者に対してはナメプとも言われるような、雑で荒い剣を繰り出す。


 その剣術を極めた《スネークヘッド》も例外ではない。

 雑魚を相手にしているからか、素人目に見ても大振りの隙だらけなのが分かる。

 いくら己を"蛇"の名を騙ろうとも、本質は《リザードマン》と何一つ変わらないのだ。なので、相手の攻撃を防ぐのは容易い。


「ぐおぉっ!?」


 ガチンッと音を立て、大振りで叩きつけて来た曲刀を槍の柄で凌いだ――。

 防げるのは良いが、手袋も何も無くまともに受けたせいか、両手が痺れてしまった。

 こんなの数発受けたら武器が握れなくなってしまうぞ……。


「ゲゲッ! ゲゲッ! ザコ! ザコ!」


 よほど格下相手にするのが楽しいのだろう――悔し……うん、ないぞ。

 挑発するように首を傾げこちらを見ている。頭を斜めに向ければ、傾いた柱も真っ直ぐに見えるかもしれない。


「楽しいか?」

「ゲゲッ、タノシイ、タノシイ」

「雑魚ばっか相手にしてるから、注意力散漫になるんだ――」

「ゲッ?」


 ココが傍にあった柱を叩き折り、《スネークヘッド》目がけ石の塊を落さんとしていた。

 その言葉を聞いた爬虫類の黄色い目は、崩れ落ちてくる岩の塊をただ見つめるだけである――。

 だが《スネークヘッド》は一匹狼で生きてきた猛者。油断していたとは言え、そんな簡単に押しつぶされてくれるようなヤワな敵ではない。

 その太い脚で床を蹴り、バッと後ろに飛びのいた――


「ゲァッ――!?」


 だが、簡単に脚を射抜かせてくれる間抜け、ではあったようだ。

 飛んでいる最中に回避行動はとれない――その左腿に鉄の矢が深く突き刺さった。


「ネズミを狩るより簡単だよ!」


 ファムの放ったクロスボウの矢にバランスを崩したトカゲは、倒れた柱の地響きと共に、背中から落ちるようにして地面に落ちた。

 意識を一方向に向け、その意識外の場所から攻撃する――《スネークヘッド》が取った方法と同じである。


「必殺、いいとこ取り――ッ!」


 空中でバランスを崩し、床に落ちたそれにすかさず槍を胸に突き入れた。

 このまま壁に突き刺せば"モズのはやにえ"だろう。トカゲの悲鳴と共に、硬い鱗を突き破った不快感が手に伝わっている。

 だけど《リザードマン》は生命力が強いタフな種族。槍に胸を貫かれてもなお死なない。

 片膝をつき、息も絶え絶えな《スネークヘッド》は剣を構え、なお戦う意思を見せている。このタフさ、最後まで諦めようとする姿は見習うべきだろう。


 剣を構える《スネークヘッド》に対し『虚勢だ』と言わんばかりに、そこにハンマーを肩にしたモグラが近づいて行く――。その足取りに何の躊躇いもない。


「前々からお前たち《スネークヘッド》に言おうと思っていたのだが」

「ゲゲッ――!?」

「足の生えた"蛇"は、"蛇"ではないのだよ」


 所詮はトカゲだ――と、ココは手にしたハンマーを真横に振った。

 《スネークヘッド》の頭部は鈍い音を立て、大きく仰け反った。同時に握られている曲刀が落ちた。

 それでもまだ死なない――高い生命力が仇となっている。その眼は虚ろで何も捉えていない。


「それと、だ――」


 その背には怒りすら感じられる。

 モグラはハンマーを捨て、そのトカゲが握っていた剣を拾い上げた。


「トカゲ如きの存在が、この剣を使うな――」


 ブンッ――とフルスイングされたそれに、トカゲの頭が飛んだ。


 ・

 ・

 ・


 全て作戦通り――。ココが描いた不穏な落書はそれを指示していた。

 俺が囮になる事は聞かされて無いが……このモグラは本当に大事な事を言わない。


 コボルドの王に『ハーピーのいい女がトカゲに食われたから、徹底して殺してくれ』と頼まれていたのもあるだろうが、中々の徹底ぶりである。

 そのハーピーを襲う存在も居なくなった。これでもう何も心配する事は無いだろう。


「すっかり忘れてたけど、奥の樹に石があるんだよな?」

「"浄化の石"でも無さそうだし、何だろう――樹から取れる石って、琥珀(こはく)とかかなぁ」

「あれって地層に埋まってるんじゃなかったか? でも琥珀なら欲しいな」

「お、ロイルも宝石に目覚めた? 《モール》があれば宝石店って名前のダンジョンでごっそり行けるよ!」

「出来るかっ!?」


 どさくさに紛れて何てこと言うんだこいつは――。


「ま、それはまた話し合う事にして、早くお宝を拝みに行こーっ!」


 話し合っても、お前に自首を勧めるだけだからな?

 ファムは目を爛々と耀かせながら、軽い足取りで玉座の横の扉をくぐって行った。

 お気楽極楽、活き活きとしている姿は何とも可愛らしい。


「おおっ、いい中庭じゃないか!」


 扉をくぐったそこは、青々とした芝生の絨毯が敷き詰められた中庭が広がっていた。

 そこだけがロラド城の衰亡を知らず、未だかつての栄華を保っているようだ。

 あれ、半世紀も経過してるのに何でこんな綺麗に手入れされてるんだ……?


「はえー……この樹かぁ。想像してたよりデッカイねぇー……」

「ん? ああ、確かに……。

 俺も現物見るのは初めてだが、ここまで大きいとは思わなかった」

「この樹の上にあるんだよね。よーし、いっちょ見て来ようっー!」


 その先にお宝があるからか、猫の爪を引っ掛けスルスルと駆け上がって行く。

 活発なファムの姿にこちらも元気になりそう……いや、元気になっている、が正しいか。ファムの姿を見ていると、小さな事で悩むのが馬鹿馬鹿しくなる。


「お、降りられないぃ……」


 悩み事なんて実に馬鹿馬鹿しくなる――。

※次回 5/4 20:20頃更新予定です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ