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モグラとマッピング * 依頼受け付け中 *  作者: Biz
3章 ロラドの廃城
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2.城内に潜むもの

 ゴトリと音立てて這い出したそこは、槍や剣が乱雑に転がっている所だった。

 起らくは武器庫だろう……ここが襲撃された時に全て持って行ったのか、弓が転がっていても矢が見当たらない。


「もおーホコリっぽいなぁ……ぐしゅんッ」


 我々が来た事で半世紀分ホコリが舞い、先ほどからファムがくしゃみし続けていた――。

 眉間にシワを寄せながらくしゃみをするたび、細い腰に携えている黒光りする斧が揺れる。ココが『材料が余った』と、コボルドの洞窟で作ったファム用のハンドアックスだった。柄尻の部分にはモグラマークが刻印されている。


 そして俺には――何もない。あるとしたらペン先を直してもらっただけだ。

 いや、確かにペンは物書きの武器だし、すっごいスラスラ書けるようになるのは嬉しいんだけどさ……。


「……せめてこの剣でも持って行こう」


 剣に厚く積もった黒いホコリを強く吹いた。それにまたファムがくしゃみをした。

 剣術なんて無いにも等しいが、手ぶらに比べればいくらかマシだろう。

 しかし、ここにあるのは錆の浮いた武器だけ。防具類は別の場所だろうか? できれば鎧も欲しい所だけど。

 いやでも、半世紀以上の前の皮鎧は流石に臭そうだ……恐らく錆てるだろうが、プレートアーマーとか、チェインメイルのがいいか。


「んー……皮鎧姿も似合ってたけど、ボクはその姿のがいいと思うな」

「そ、そうか? だけど一撃くらったら終わりの縛り状態だしさ……」

「金属鎧を装備して、鈍くささアップする方が危険だよ。

 ロイルはただでさえ危なっかしくて、目が離せられないんだから」


 左様か――。

 何も言い返せないのが非常に悔しいが、ファムの言うのも一理ある。

 確かにこの中では、俺が一番鈍くさく危なっかしいだろう……モグラも見た目に反して身軽だし。

 それに、皮鎧なんて気休め程度なので、モンスターの腕力で一撃喰らえば終わり――。一発耐えたら御の字程度の物だ。動きも制限されてしまうのもあって、敵の攻撃を躱すのが精いっぱいな俺には、ただの枷となるだけだろう。


「でも、せめて胸当てぐらいは欲しいな」

「じゃあ、ボクのブラする?」

「出来るかっ!?」


 確かに胸当てだが防御力皆無だろ!

 そもそも男がそれを装備して何を守ると言うのだ。色んなのを失うだけじゃないか。

 効果があるとすれば胸元の引き締めぐらいだろう。サイズは……まぁちょうど合うかもしれないが。


「むー、何かよからぬ事考えてるでしょっ! ボクはまだまだ成長期なんだからねっ」

「ふむ。脳みそは死ぬまで成長するらしいからな」

「違うよっ!? まだだもんっ、まだおっきくなるもんっ!」


 武器庫を出た廊下にファムの往生際の悪い声が響く。

 敵《スネークヘッド》と呼ばれるそれが潜んでいるかもしれないのに、何と呑気な物だと思うが、どんな場所でもいつもの空気を出せる――この俺たちのパーティーであり、強みであるだろう。


 ロラド城の内部は予想していた以上に酷く荒れていた。

 壁は崩れ、大小様々の瓦礫が床に転がり落ちており、その中には割れたガラスの破片も混じっている。

 足元をよく見ていないと、もし転んだりしたら大変な事になってしまうな……。

 屋根の一部も落ちている。そこから差し込む陽の光は、白骨化した者の魂を導くかのような光にも見えた――。


「……」


 しかし、何だこの違和感――。

 襲撃されてそのままなのは分かるのだけど、何か妙な感じがしてならない。


「ロイルどうしたの?」

「いや、何か妙だなって思ってさ……」

「妙? ボクは全然何も感じないけど……」


 どう表現して良いものか、何かおかしいんだよな。

 確かに荒廃と、天井から差し込む陽の光の対比は絵になるが……オークとの戦争の直後だからか、この妙に綺麗に整った状態が――ん? きれいに……?


「そうか! 戦争があったにしては“綺麗すぎる”んだ!」

「ん、んん? どゆこと?」


 さっきの武器庫から違和感があったのはそれか!

 まず瓦礫が一定方向に対して――侵入者を許したにしては崩れ方が大げさだし、片側だけ崩れた跡が多く、意図的に崩したような印象すらある。

 しかも、ガラスは破片から見るに食器っぽいが、どうしてこんな廊下に……?


 次に、武器庫のことだ。弓があるのに矢がない――それはどこにある?

 ここで撃ち合ったのなら、どこかに折れた矢なり転がっていてもいいはずだ。なのにそれがない。

 あるのは、死体に刺さっていたであろうそれ――。


「ろ、ロイル、突然黙りこくって一体どうしたのさ!?」

「そもそも、こんな通路で弓を射るか……? 廊下に横たわっている骨まで一方向、後ろから撃たれているような――」


 まさかこの悪路は、と振り返った瞬間だった――。

 目の前の視界を何かの板が遮り、それにガッと突き刺さる音が聞こえた。


 それが高くにある、柱の上から射られた矢だと気づくのに時間がかかった……。ココが近くにあった盾を投げていなければ、額にそれが突き刺さっていたことだろう。

 柱に潜んでいた者は、引き際を知っている――と言わんばかりに、二度目を射ることはせず、すぐにその場を去って行ったようだ。


「――ロイルッ、だ、大丈夫!?」

「あ、あぁ……大丈夫だ。俺、ユニコーンになってないよな?」

「ロイルは処女好き?」

「うん」

「じゃあなってる」

「マジで!?」

「ふむ。問題無さそうだ」


 額に手を当てても矢は刺さっていない。生きている――ようだ。

 一瞬でも遅れていれば死んでいたであろう者の会話ではない気がするが、その軽いやり取りのお蔭で深いショックは無かった。


 しかし、今のが《スネークヘッド》か?

 "蛇"の名に偽り無し、気配を消し静かに獲物を狙う――中々狡猾な奴だ。

 仕留めそこなえばすぐに身を引いて態勢を立て直す。そして再び襲う――奴は再三にわたりこうして襲撃してくるだろう。

 いくら剛の者でも気を休ませなければいつか疲弊する。恐らく奴はそれを狙っているはずだ。


 だが、目の前のモグラはそれを知ってか知らずか、いつものようにパイプタバコをプカリと吹かせるだけ。手には羊皮紙にペン――いつものマップ作りスタイルとなっている。

 見る者によってはただのポーズだと思われるかもしれないが、スラスラと羊皮紙にこの城の地図を書き加えている姿に隙はない。


「お、宝石はっけーん☆」


 この猫も色んな意味で隙がない――。

 道端に落ちている宝飾品や金貨など、目ざとく見つけては小袋にしまいこんでいる。

 しかも、《スネークヘッド》が仕掛けたであろうチープな罠も容易く解除し、相手の思惑にハマらないようにもしていた。


「これら全て、あの《スネークヘッド》がやったのか?」

「大半はそうだろう。暇な奴だ」


 瓦礫の山に廊下が防がれ、部屋と言う部屋を渡って奥に行く――。まるで迷宮のような造りとされていた。

 いや、これはもはや一種の迷宮だろう……複雑さのない一本道だが、崩れた岩が階段となり、二階、地下へと都合よく昇降できるようになっている。

 当時の王の肖像画や、破れも日焼けもしていない旗など、過去の栄華を匂わせるような部分が端端(はしはし)に残されているのを横目に、どうせなら全て崩れ去ってしまった方が良い――そう思ってしまった。


「この肖像画は――ここの家族か」


 幸せそうに微笑む家族の絵――もはや絵の中にしか存在していない。

 噂ではここに暮らしていた王や王妃、その息子・娘たちは皆幸せそうだったと言う。戦争に敗れ、その子たちはどんな末路を送ったのか。辱めを受けた王女は、崖から飛び降りたらしいが……。

 そう言えば、第一王女のその話は全く知らない。話されるのは、第二王女の凌辱話ばかり……どうしてだ?



 回廊を渡り、瓦礫を登った先の兵士の詰所にて発見した日誌――そこに、疑問と噂話の真相の一部が記されている。

 まず『第一王女は自室にて自決』、噂されていた『第二王女犬の様に歩かされた』との話も事実のようだ。いや、事実は小説よりもと言うが、現実はもっと酷い……。


「二日後、辱めを受け続けたプラト王女は城から飛び降りた――。

 だが鎖が引っかかり、王女は頭だけを残し、身体は崖下に落ちた――。

 敵兵はその首すらも慰み者にしようと、崖下を探したが、ついには見つけられなかった……」

「人間ほど野蛮な種族はいないって聞かされてたけどさ……こう言うの聞くと、それも正しいかもって思うよ……」


 ファムの言う通りである。

 こんな事が現実に起きて、嫌悪感を抱かない者はいないだろう。

 ここでも第一王女の記述は一行だけ。残酷なまでの辱めを受けた第二王女の記述の中に、おかしな記述が残されている――『女王と王子の姿を見ていない』と。


「別の記述では『攻め込まれる前から見ていない』とある」

「察知して地下通路から逃げた……のかな?」

「あり得るけど、そんなすぐに逃げられるものだろうか? んー……でも、何かおかしいぞ」

「お、おかしいって何が……? こ、怖くなってきたんだけど……」

「『今日が審判の日か。王が死んだ日の夜に、敵に襲撃された』と記されている。

 確か、ブラスカに攻め込まれた時に死んだはずなのに……」

「ふむ。そこの襲撃の晩にモグラの記述があるか?」

「えぇっと……ああ、あった。『モグラが掘った隠し通路から敵が』――って、何だと!?」

「ふむ。やはりか」

「は、話が見えないよ……!?」


 これが事実だとしたら、ブラスカは初めから地下の脱出路の存在を知っていた事になる――。

 王も死に、王妃と王子が行方不明。混乱に乗じて地下から敵兵が……これなら、百足らずの兵で落ちたのも分かる。

 そして、一つの仮説が立てられる。恐らく……王子と女王、もしくはどちらかが敵を招き入れた、と。


「王妃と王子のどちらかが、ブラスカと内通していた……?」

「ふむ。そうなるな。おおかた、王は王妃あたりに暗殺されたのだろう」

「え、えぇぇっ!? ど、どうなってんのこの城!?」


 この国、この城が滅んだのは……とんでもない事実だぞ――。

 母と兄は父親と妹二人を犠牲にして逃げた。もしかすると、ブラスカに亡命している可能性もある……。

 こんなの公表したら、俺の命も危ういものだ。


 だけど、だけどこれってさ――


「最高のすっぱ抜き記事が書けるじゃないかっ!」

「ろ、ロイルの目が輝いてる……」

「当然だろっ、これは最高のお宝だっ!」

「ふむ。物書きの性だな」


 誰もが知りえない事実を知り、公表の機会をうかがう――。

 いつかは大スクープを! と思っていたが、まさかこんな所で得られるとは……うーん、今日は何て良い日だっ。生きてて良かった!

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