1.廃城への道
【 栄枯盛衰――堅牢な城は歪んだ愛によって、根幹から腐り崩壊した。
その歪んだ愛は最終的には"呪い"を生み、関わった者はみな命を落とす。
呪われた城に潜む者……私はそこで女の裏を見、執念を知った。
そして、城の探索を終え、私はつかれていた―― 】
目的地のロラドの廃城までは、キャリオン峡谷から約一日の距離にある。
ロラド城は断崖絶壁の上にそびえ立ち、かつては――いや、半世紀以上経った今でも、その攻略方法が見つかっていない『不落城』と呼ばれた城であった。
しかし、そんな堅牢な城を、隣国のブラスカが落とした事で事態は一転した。
それも僅か百足らずの兵を率い、一夜もかからなかったと言う――。
今では当時を知る者はいない。攻め方についてはついには誰も語らなかった。
死人に口なし――その城を攻めた兵が全員、謎の変死を遂げたらしい。
城攻めから戻った時こそ饒舌だった兵士も、次第に口を噤み始め、ついに許しまで請い始めたと言う。
その翌日、彼らは死んだ。筆舌に尽くしがたい有様に、誰もが口を目を覆った――。
これは、"ロラド王女の呪い"――と、噂される内容の一節だ。
あまりに飛躍した話なのだが、それもあり得る話でもあった。
城攻めに参加したと言う元ブラスカの兵が、酔って自慢げにこう漏らしたのだと言う――『捕えた王女に首輪をし、ロラドの小さな旗を尻に挿し、犬の様に四つん這いで城の中を歩かせた』と。
皆がそのような話に食いつき、身を乗出して話の続きを待っていたが、それは皆が期待している内容では無かった。
数日後、自決したその王女が徘徊し、凌辱した兵士を一人一人殺して回っていた――と言うのが最近流行りのホラー話である。
なので、今では"呪われた城"と呼ばれ、誰も近づこうとしない。
そのため、語られるそれらは全て、確証のない『だっただろう――』との推測ばかり。
それは、落城と同時に国まで滅んだ、元からそこに何も無かった――蜃気楼のような城と言うのも理由の一つだろう。
ビュウッ……と強い風が吹き、周囲の草木を大きく揺らした。
内部調査すれば、噂の真相の一つや二つ、見つけられるかもしれないのだが……周囲は断崖絶壁に阻まれ、城に向かうには幅員十メートルもない一本道を通るしかない。
そこも今では崩れ落ち、誰も足を踏み入れる事が出来ない状態なのだった。
謎が多く残る廃城――偉業とも言える功績であるのに誰もが口を噤み、謎の変死、凌辱を受けた王女……。正直言うと、"呪い"はおっかないと思うものの、歴史的価値のある資料が多く眠っているかと思うと、内心ワクワクしている。
だけど――
「自然の要塞とはこう言った場所なのか」
「ボクも初めて来たけど、確かに鳥でもなきゃ辿り着けないよね……」
中に入るどころか、本当に辿り着ける気すらしない――。
切り立った崖のふもとから遥か頭上に見えている城は、まさに陸の島に浮かぶ城となっている。
確か、島の中央には一本の大樹が根を張り、それを囲うようにして城が建てられたはずだ。
鉄壁の守りに囲まれた樹――コボルドの王が言っていた《ハーピー》の産卵・繁殖の地としては確かに持ってこいな場所だろう。
俺たちは、そこにある"石"と《スネークヘッド》を討伐しに来たものの……その《スネークヘッド》はどうやってロラド城に潜り込めたんだ……?
「うーん……いくら一匹狼でも、そこまでして行く価値ある場所なのかな?」
ファムが疑問に思うのも尤もである――。
そこに何があるのか分からないが、死のリスクを冒してまで向かう必要が全くない。
もしそこに財宝が眠っていたとしても、今度はそれをどう持ち出すのか……瓶の中の飴を掴むようなものだ。
「ふむ。何も馬鹿正直に正面から行く必要はあるまい」
そう言ったココは、崖下の草木生い茂る地面をゴソゴソと探っているが……まさかこのモグラ、今から崖の中を掘って上に行くとか言うんじゃないだろうな?
確かにモグラと《モール》があるなら可能な行為だろうけど、今から掘ったりしたらどれだけの時間が――
「ここか」
何やら白い花が咲く一角に、ハンマーの柄を突き刺すと――ガコッっと音を立てて地面を……いや、花が植えられた石の蓋を持ち上げていた。
プランターのようでもある。明らかに何者かの手によって植えられたその下には、湿った土のにおいと真っ暗な穴が覗いている。
それはまるで……モグラが掘ったような穴だった。
「も、もしかしてモグモグが掘ったの!?」
「いや、これは茶毛モグラだ。ここの築城に関わっていたらしいからな」
「茶毛……あー、あのモグラ族。今ここにいるの?」
「ここには居ない。尻が引っかかって巣穴から出られなくなったのは聞いたが」
なるほど。モグラ族なら、地下から外への脱出路を作るのも朝飯前だろう。
待てよ……ここってもしかして、そいつらが関わったおかげで不落城になったのか……?
今まで入れなかった場所に入れる――それらの、ロラド城の謎が解明できるかもしれないと思うと、不謹慎ながらつい心が踊ってしまう。
早く入りたい所だけど、この小さな穴じゃ《モール》は置いて行くしかないな……。
先のホラー話から始まって、色々いわく付きの所だ。
こんな所に足を運ぶ奴も居ないものの、背中にコバルトも積んでるから放置していくわけにもいかない。となると誰かが残るか、隠すしかない。
「何か繋ぐ物とかないのか?」
「あいつらに番をさせればいいだろう」
ココが目をやったのは、向こうの方でボールを投げて遊ぶ犬二匹――〔モンド〕と〔バックス〕、あとついでにエルフの居場所を尋ねたオークがそこに居た。
離れた所で、犬が投げたボールを豚が木の枝で打つ遊びをしている。
双子のコボルドは属していた群れのリーダーが死亡した為、群れを離れた。
どこかの群れと統合する話も出ていたのだが、二匹はこれを機に『しばらく一緒に外を見たい』と我々について来たのだ。
例によってこのモグラは何も言わないので、OKと言う事だろう。
オークは単に暇だからついて来た。良き兄貴的な立場で双子の面倒を見ている。
「お前たち、このワーカーの番を頼むぞ」
『あいあい』
『あーい』
「オウ。見張りハ得意ダ。近ヅいたラ叩き潰ス」
コボルド二匹にオーク一匹――。
いくら背中に貴重な鉱石を積んでいると言っても、よほど目が悪い賊でない限り、これらに近づく奴は居ないだろう。
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穴の中は真っ暗だった――。
モグラのトンネルは種族によって違うのか、螺旋状に続く坂道は脱出用のそれではない。木の板で頑丈な補強が施された、しっかりとした“通路”となっていた。
この坂道をどれだけ登ったのだろう――。実は同じ所をグルグル回っているのではないかとも思ってしまう。
しかしながら、ココの作る地図はちゃんと進んでいる。羊皮紙の上にグルグル輪を描いているしか見えないけれど……。
「なんか、モグモグの住処と全然違うね」
「ふむ。茶毛は完璧主義の偏屈野郎だからな。開通まで十年以上かかっているだろうよ」
ココは不機嫌そうに『頼む相手を間違った』と言う。もしかして、毛の色でライバル関係とかあるのか?
同族が作ったトンネルがよほど気に食わないのか、時おり手にしているペンで『バカ』と落書きしたり、『この辺りが雑』と書いたり……。
また、モグラの絵を描いては、大きな×を……。黒一色のモグラを描いては、楽しそうに大きな○を付けていた――。




