7.探し物
コボルドの所有する鉱山――
そこで採掘されるのは、金・銀・宝石と言った財宝ザックザックな物ではなかった。
色味は銀に近いが、銀ではないその鉱石――“コバルト”は、コボルドの名に由来する通り、彼らが管理する採掘場で取れる金属である。
ココ曰く、オークとの戦闘時に使った回転刃も、このコバルトとの合金を使用していると言う。また、コボルドの王が装備している鎧や盾、そして剣にも同じものが使用されているようだ。
しかし、一般兵には回っていない。頑丈さと比例して、重量もある。そのため、王ぐらいの体躯でなければ、扱いきれないのかもしれない。
そのコボルドの王は、戦争の後しばらくベッドの上で療養する事となった――。
目が覚めればファムを呼ぶよう指示され、謝るのかと思えば開口一番に『俺の女になれ。臭いが気に入った』と言って、左眉から下あごにかけて四本の傷痕を残す事になったが……。
本人は『戦争での傷は勲章だが、これも男の勲章だ』と、ワフワフと喜んでいたので良いものの……相手は仮にも王だと言うのに、怒りに満ちたファムはもう、見境が無くなってきている。
「ボクの機嫌を直したいんなら、宝石の十個、二十個でも持って来いっ!」
「ま、まぁ下着も戻って来たんだし落ち着いて……」
「殆ど処分になっちゃったのに、落ち着いていられないよっ!
うう、まさかあんな使われ方するなんて思ってなかったよお……」
さめざめと涙するように、猫の手で顔を覆ったファム。
そりゃ誰だってそうだ――まさか犯人があの王で、あんな使い方するなんて誰も思わない。
その手の界隈には一級品の装備だろうが、ある意味では一度つければ外せなくなりそうな、呪われた防具。場合によっては、鎖で繋がれた腕輪までセットで着いて来るのだ。
俺としては金を積まれたとしても、装備はしたくない。
「そのお蔭で勝利したけど――何か納得いかない」
「ボクが一番それを感じてるよ――。はぁ、今回ほど自分の身体を呪った事は無いよ……」
「前から気になってたんだけど、持病みたいなのがあるのか?」
「えっ……い、いやっ大した事じゃないんだけど、さ……」
ファムは目を伏せ、顔も少し曇っているのが分かった。
気になった事は知りたい……俺の悪い癖だ。ファムのデリケートな問題に、足を踏み入れてしまったかもしれない。
ここは、無かった事にして別の話題を――
「ボク……ちょっと特異体質だから……」
「と、特異体質――?」
「まぁ問題もないし、ロイルになら話してもいいかな。種族的な問題もあるし、何なら記事にしてもいいよ?」
「あ、あぁ……ちょっと待って、メモ用意する」
鞄をごそごそと漁っていると、何やらフンフンとご機嫌なモグラがノシノシとやって来ていた。
このモグラは鉱石が獲り放題なのがあって、戦争が終わってから非常にご機嫌なのだ。
「む? 何だ、純血種と混血種の話か?」
「こ、ココは知ってるのっ!?」
「フェルプのそれは、混血問題の先駆けだからな」
混血問題……ファムが以前言っていたそれだろう。
時々耳にもするが、純血は純血の誇りがあり、混血を穢れとして忌み嫌う。それらは時に、過激なアクションをまで起こし、排除に乗り出す事もあると言う。
それと、ファムの体質に何の関わりがあるのだろうか……。
「ボクら混血は、人間とのハーフによって種の存続に成功したんだけど、
それを認めなかった純血種は、とんでもない方法で種を残し続けたんだよ……」
「とんでもない方法……?」
「ふむ。親と子、子と子……などの、近親間で強引に配合し続けたやつだな」
「うん……それで、異変をきたしてるのに見て見ぬフリをし続け、無理な交配を続けて、異常者だらけになったんだ……」
近親相姦での子供って、非常に危険だと言うが……やはり、その通りなのか。
親兄弟親戚などの間柄は一切なく、オスとメスの間柄しかない無茶苦茶な繁殖を繰り返した。
その結果、数十年前に誕生したオスが精神異常をきたし――メスを我が物とせんと他のオスを全て殺害した、とファムは言う。
奇形・異常者は殺処分するらしいが、オスはもうそれしか存在しない。滅亡を避けるなら、その者の子を産まねばならぬ――。
異常者の血が受け継がれた事に、純血種はようやく己の大きな過ちに気づいたらしい。
「それで……純血のオスと混血のメスを配合しようとして……妊娠の確率が出来るだけ高くするのに、多くのメスを集め、薬で発情期を早めたんだ……。その集められたメスの中にボクもいてね……」
「だが、手遅れだったのだろう。オスもメスも異常者だらけ、オスに関しては、集めたメスを一匹ずつ犯しながら殺すサイコの生贄だったらしいが」
「こ、ココは、どこまで知ってるんだよっ!?」
「モグラ族は長生きだからな。耳年増にもなる」
「確かにココの言う通り――純血種にはもう、正常なフェルプは誰一人存在してなかったんだ……」
「と、と言うと……?」
「渡された薬は二種類あったんだけど、ボクはワケあって発情促進剤しか飲めなくて、 全部飲んだフリして部屋に入ったら――そこにはもう、モンスターのような化け物しかいなかったんだ……」
血で染まった部屋の中――下半身だけになった仲間と交尾している最中に鉢合わせしてしまい、飛びかかって来たそれを殺してしまった、と言う……。
「純血種は偉い――って誰が決めたのか分からないけど、王様みたいなものだからね。
元々プライドも高く、人間を下に見てたのもあるし――。
いかなる理由があれど、悪いのはボクになって、集落を追放処分されたんだ……」
「ふむ。……昔から気になっていたのだが、フェルプは死刑制度を止めたのか?」
「うーん、どうだろ……無くなったんじゃないかな?
ボクも死刑相当だったけど、『”浄化の石”を見つけたら赦す』と言われて追放されたし」
「ふむ……。”浄化の石”――」
「ココ、知ってるの!? 知ってたら教えてっ!」
「いや、知らん」
ファムの乗出した身体がズリッと滑った――。
一瞬ココの眉がピクっと反応したから、俺も知ってると思ったんだが……。
だが、ファムは薬の副作用の発情期不順を背負いながら、赦免を求め、トレジャーハンターとして生きてきたのか……。
それに、先日言っていた確執とはこの事なのだろう――非常に腹立たしい話だ。
「まぁ、発情期に関しては問題ないんだけど……下手すると周りに迷惑かけちゃうのがね……」
「ふむ。私は問題ないが――エルフなら治し方知ってるかもしれんな」
「え、ええ、エルフ!? ど、どこに居るかも分からないのに、聞けるわけないじゃないかっ!」
「現在の住処なら、エルフ好き好き族に聞けば良かろう」
オークの事だろう――。
あいつらがエルフ好きなのは知ってるけど、居場所まで知ってるのか?
あの戦争の後、いや洞窟が封じられた後にタカ派とハト派が分断し、ハト派は群れを去っていたらしい。戦争中、彼らは離れた川辺で、字の通りキャンプしていたようだ。
リーダーが死亡したとの悲報が飛び込むと、絶望するどころか『あーやっとか』と言わんばかりに、安堵した顔でそれぞれの帰路についていた。そこには、どこか解放感すら垣間見られた。
そして、帰る場所がない者は、コボルドの洞窟で共存する事となったのである。
「おい、そこのオーク。エルフの居所知ってるか?」
「ん? 北ロライナ・南ロライナの境目にあル大樹かラ行けるゾ」
「知ってるのかよ!? 何なの、もうズブズブの関係なの!?」
「場所は知っているガ、迷いノ樹の攻略無理ダったんダ――ズブズブしたイ」
ズブズブの意味が違うっ! そっちなら俺も――じゃない。
このオークはあれか、洞窟発破時に居た喋るオークか? と言うか、何でオークに居場所バレてるんだよ……。
いや、確かに『オークは元エルフ』説があるが――もしかすると、その説は正しいのだろうか。
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「世話になったな、カルトン」
「こちらこそ世話になった。またいつでも来てくれ。それとファムはここに――」
「ボクは帰るからねッ!」
コボルドの王はファムが気に入った――と言うわけでもなく、何と言うか同種のメスに飽きたかららしい。
それにファムは再び怒り、持ち帰る金と銀の鉱石を、もう一割上乗せしていた。
「ああ、ココよ。帰りがけに一つ頼まれてくれないか?」
「む?」
「この戦争で、《ハーピー》の産卵場所が荒らされてしまってな……。
代わりの場所――ロラドの廃城に移ったようなのだが、そこに厄介なのが住み着いていたようなのだ」
「倒して来いと言うのだろう」
「話が早くて助かるよ」
友達っていいよね。多くを語らず、困った時には二つ返事で助け合えるんだもん。
でもさ……俺とこの犬の王は他人だよね? だから行かなくてもいいよね? ね?
「で、何が住み着いているのだ?」
「“スネークヘッド”だ」
「ふむ。また珍しいのが住み着いたな」
“スネークヘッド”――聞いたことないな。
魚でのそれは聞いた事あるが、モンスターでは全く……もしかすると、その魚のモンスターか?
いや、ロラドはここより北東の内陸だし、水棲モンスターは住みづらいだろう。
うーん……その姿に検討もつかない。
「リザードマンの亜種だよ。
群れから外れた一匹狼が独自進化して、蛇の様な頭になったからそう呼ばれるの」
「へぇ……」
リザードマンは聞いた事があるが、そんな派生したのが存在しているのか……。
だけど、ロラドの廃城って確か断崖絶壁の上にそびえ立つ城だけど――登る手だてとかあるのか?




