記憶の片隅のとある戦争
第四回小説祭り参加作品
テーマ:魔法
※参加作品一覧は後書きにあります
「はぁ……はぁ……あの子供いつまでも追ってきやがる……ッ!」
月明かりだけが差す、暗い真夜中の路地裏を一人の男が走っていた。
「はぁ……こちらイヴァン! こちらイヴァン! くそ電波障害か……どうなってやがるんだ……!?」
男は近くにあった木箱の影に身を隠すと、手に持ったトランシーバーを振ったり叩いたりしていた。このトランシーバーは普通のトランシーバーではなく自分の所持する固有魔法『通信魔法』技術を応用し仲間との連絡をスムーズに行えるようにした媒体なのだが、何故か今は一向に繋がる気配がない。
「くそっ、このままじゃ追手が…………ッ!?」
間一髪月の光にかかった影に気づいた男は必死に地面を転がった。一歩遅れて男のいた場所にキィンと甲高い金属音が鳴り響き土埃が舞い上がった。
「あ、あぶねぇ……『我が身に差す敵の視線を遮りたまえ『煙幕魔法』!」
男は汎用魔法『煙幕』の呪文を詠唱し、その隙を突いて逃げようとする。が恐怖で足がもたつき上手く走れない。
「Throw dice」
声が聞こえた瞬間、男の心臓を長剣が貫いた。
――――――――――――
「――隊長。……隊長。イリヤ隊長!」
前に立っている女に名前を呼ばれたところでビクッと目が覚めた。
周りの赤と金に囲まれた豪華な応接室のような部屋は『管理局警備隊第三隊隊長』という長ったらしい役職名に就いている自分の仕事部屋である。
『管理局』と言うのはこの街を統治している『管理者』というAIを守護する目的で作られた組織であり、この街に住む人間の中で一番階級の高い役職である。
管理者とは。その昔、この国がまだ1つの都市だった頃に、とある魔術師が造った魔法技術の結晶体のことで、主に未来予知による街全体の管理、統治。人間を上回る知能による政治、統制を行っていて、俺たち管理局職員は管理者の手足となりの国の統治を行っているのだ。
「あぁ……悪い、少し寝ちまってたみたいだ。……あとイリヤはやめろと言っただろ」
書類整理中にいつの間にか寝てしまっていたらしい。飛んでる記憶を整理しながら、150cmの小さな体には不釣り合いの着崩れていた紺のスーツを整え顔を上げた。そこには、金の綺麗な長髪にメガネをかけた見た目気位が高そうな長身の女性が立っていた。
「失礼しました。でも普通に呼んでも返事がなかったようなのでこちらの方で呼ばさていただきました」
『イリヤ・ヴィノクール』この国じゃ別に何の変哲もない俺の名前だが、昔知り合いの日本人に『俺の故郷にイリヤって呼ばれてる可愛い女の子のキャラがいてな!』と言われて、顔立ちが中性的で身長も小さかった俺は、訳ありで小学校を中退するまでクラスメイト達からからかわれ続けた。それからというもの俺はこの名前があんまり好きになれなていない。
「はぁ……とりあえずなんでもいいから食べるもの持ってきてくれないか、オルガ」
「はい、ただいま」
俺は適当にオルガにそう言い部屋を出て行かせた。ガチャッとドアが閉まると、自分の腰のあたりから声が聞こえてきた。
「お主まだそんなことを気にしておったのか。もう小学校を離れて4年ぞ?」
見なくても想像はついたが、声のする方に視線を傾けるとそこには西洋の騎士が持つような金の装飾が施された剣が携えてあった。
「うるさい。ほっとけクリエ」
このしゃべる西洋剣は『聖剣・クリエイティブス』一応人型にもなれるが、その姿が周りの目を集める綺麗な銀髪幼女なので普段は普通の剣の姿になってもらっている。
クリエは、『管理局』の最高長官でもある父が、趣味で集めている魔法具の1つを俺が譲ってもらった魔法剣で。通常は普通の長剣だが、覚醒時には持ち主の魔力を消費して長大な長さの魔法剣になることができる……らしい。
らしいというのは自分がそれを使えないからだ。クリエの覚醒を使うにはクリエの本当の名前を教えてもらわなきゃいけないらしいのだけれだけど、俺はそれをまだ教えてもらっていない。クリエ曰く『好感度が足りないのぅ』とのこと。まぁ今のままでも『使っても研ぐ必要のない普通の魔法剣』として普通に使ってるからいいっちゃいいのだが。
「隊長」
顔を上げると、そこにはいつの間にか帰ってきていたオルガが立っていた。音がなかったのでオルガの固有魔法。移動魔法でも使ったのだろう。
「どうした」
「件のスパイがこの部隊にも見つかったそうです」
最近、管理局内部に『レジスタンス』の工作員が紛れ込んでるとの情報が浮上し、粗探しをすると各部署からだいたい一人ぐらいの割合で工作員が潜入していたのだ。局内での階級が高い部署ではそういうことも少なかったのだが、この度晴れて俺の部署もそのスパイとやらが見つかったらしい。
「はぁ……そうか」
「処分はどうしますか?」
「……聞きたいことがあるから死なない程度に牢に入れておけ」
「はっ。あとヴィノクール長官が一時間後に執務室に来るようにと」
『わかった』と面倒臭そうに返事をすると、オルガはうやうやしくお辞儀してフッと瞬間移動で消えた。今度こそちゃんと食い物持ってきてくれるのだろうかとぼーっと思っていると、またさっきと同じくクリエが喋りかけてきた。
「お主も甘いの。内通者などいずれ処罰されるだろうに」
「うるさい」
一時間じゃまだ時間があるな。そう思い俺は酷く暗い気分を押し込めるように、机に突っ伏しもう一度眠りについた。
――――――――――――
「は? 俺がスパイに?」
父親……管理局長官の部屋で俺は食べていたフライドポテトの手を止めて素っ頓狂な声を上げた。
親父は血は繋がっちゃいるが。俺が戦闘の天才だと気づくやいなや、死ぬような訓練を受けさせにその当時最強の部隊と名高かった部隊の隊長のところに預けさせたクソみたいな父親だ。そのおかげで俺はコイツには嫌な上司レベルの感情しか抱いちゃいない。
「そうだ。この前見つけたレジスタンスの支部に潜入してきて欲しい。あわよくばそこで戦果を上げ本部へとさらに潜入してこいとの命令だ」
どうも明日その支部に本部の視察が来るらしく、そこに紛れれば本部の情報を盗み出す事ができるのかもしれない。というわけだった。なんで俺なのかと聞くと『俺も理由はわからんがまぁ管理者の答えだ。間違ってるなんてことはないだろう』と続けた。
「まぁ俺は隊長やってる身だけど、表向きにはただの長官の子供ってだけだし、裏でも表に出ない仕事ばっかで顔も割れてない。そういう意味じゃ適役なのかもな」
「仕方あるまい。長官の息子がいきなり一部隊の隊長なんて表に知れたら、レジスタンスどころか内部にも反発者が出てくるぞ」
皮肉気味に言うといつのも言葉を返された。もちろんそれは立場上十分理解しているつもりだ。
「お前は七光などではない正真正銘の天才だ。だからこそお前に隊長の位をやったのだ」
「はいはい、わかってますよ長官殿」
俺はポテトを食べながら長官……父親の部屋を後にした。
今日の夕飯はなんだろうか。そんなどうでもいいことを考えながら部屋を出た。この後に待ち受ける自分の運命なんて知らずに。そう自分の決め台詞の通り『|Throw dice《賽はすでに投げられていた》』
――――――――――――
そして俺は次の日にレジスタンスの支部へと向かわされた。
管理者から用意されていた素性を隠すための自分の設定を昨日頭に叩き込んできたが、元々素性などあんまり知られていない俺だからかは知らないが対して本当の素性と変わらなかった。苗字だけはクライセラに変わっていたが名前がイリヤのままだったのは少し残念だった。
中心街から外れたスラムの一角にある廃ビル。その地下にある建物(、、)に奴らはいるらしい。
ビルに入るとまず情報にあった隅っこのロッカーが目に入った。どうもここの10桁のダイヤル式南京錠がパスワードになっているらしい。昨日覚えてきた数字に合わせていく。
「……よっと」
最後の数字を入れるとカチャンという音が鳴って南京錠が外れた。扉を開けると中は階段になっていた。
「……ずいぶんと暗いな」
薄暗い階段を降り切ると路地のような道に出た。俺は人目がないのを確認してから腰からクリエを外しブンっと空中へ放り投げる。そして空中で剣が光始め、光が消えた辺りで隣を見ると白銀のツインテールに白いワンピースを着たクリエが立っていた。
「じゃあクリエ。打ち合わせ通り、目立たないようにこれを着て俺の見える場所で隠れてて」
「了解じゃ……まったく、なんでワシがこんなめんどくさいことをやらなくてはいかんのかの……」
「親父に言ってくれ」
クリエはブツブツ言いながらもボロボロのシャツとジーンズに着替えた。
「じゃあ行くぞ」
「ほいほい。ワシは後ろから隠れてついてってるのでな。何かあったら言え」
通りに出ると、そこは蛍光灯の光が照らす商店街のような町並みだった。天井までビルの二階ぐらいの高さが有り、道の左右を色々な店が囲み少なくはない人数で賑わっていた。
(ここが地下街……話には聞いていたが実際に見てみるとまた印象が違うな……)
そんなことを思いながら通りを歩いていると。前から来た大男に声をかけられた。
「おい坊主。お前一体こんなところで何やってるんだ?」
顔を見るとこの支部のリーダーだった。名前は確かセルゲイ……やばいド忘れした……まぁいいか。後ろにいるおっさんは部下かなにかか。どっちにしろ運がいいなと心の中で笑った俺は用意していたセリフを吐いた。
「あ、あの……叔父さんが、もし俺が帰ってこなかったらここに行けって上のダイヤルの番号を教えてくれて、それで……」
そう俯きながら言うと、リーダーの男は俺の目線までしゃがんで『そうか……叔父さんの名前を教えてくれるかな?』と言ってきたので昨日散々復唱して覚えた名前を教える。
「イヴァンが……やはりそうだったか……君の名前は?」
「イリ……イリヤ・クライセラ。歳は14です」
自分でこの名前を名乗るのが嫌でちょっとつっかえたが問題なく喋れた。
その時リーダーの後ろから『イリヤ……?』という声が聞こえた。声のした方を見ると例のおっさんだった。それとよく見ると後ろに黒い長髪の綺麗な少女が立っていた。
「失礼。君の名前は……イリヤでいいんだよな?」
「え? あ、はい……」
突然のことでびっくりしながら返事をすると、おっさんは『そうか……』と一泊置いてから俺の方を見て話し始めた。
「いや、すまん。俺の固有魔法、つまり呪文さえ知っていればだれでも使える『汎用魔法』と違って、自分しか使うことの出来ない魔法のことだが。俺の固有魔法は『予言魔法』仲間内からは『預言者』なんて呼ばれてるんだが――」
「ッ!?」
こいつはまだ小さく見える俺に対して丁寧に魔法の説明をしてきたのだろうが、あいにくというかもちろんだが俺はそんなことは全部わかっている。
それよりも問題なのは『預言者』という名前には聞き覚えがあったことだ。レジスタンス本部には『預言者』と呼ばれる予知能力者がいて、その予知能力によって管理局の捜査を欺き続け。結果本部の情報はほとんど入ってこないのだと。
もしかして事前にバレていたのかと思いクリエを呼ぼうか……でもこの人数で逃げきれるかと内心冷や汗をかいていると。おっさんが笑いながら続きを話し始めた。
「まぁ簡単に言うと予知夢の能力なんだが、この前の夢に『イリヤって男の子に近々出会うからその子に優しくしてやるといい。それがお前のためにもお前の仲間のためにもなる』って」
「……は?」
整理すると『スパイの俺がこのおっさん(多分本部所属)と接触すると、このおっさんにとってもおっさんの仲間レジスタンスにとっても有利に働く』ということになる。整理してもまるで意味がわからなかった。
ポカンとする俺を置いて、おっさんと支部のリーダーが何やら相談を始めた。
「まぁ動機は不純かもしれんが、どっちにせよこんな子供を放おって置くわけにもいかないからな。いいだろうセルゲイ?」
「そうですね……でもこの先どうするんです?」
「とりあえず支部の方に連れて行こう。先を決めるのはそれからでも遅くはないはずだ」
「あの……おっさ、おじさんは一体……」
そう聞くと、おっさんは俺に手を差し伸べながこう言った。
「俺はペイン。ペイン・セライターだ。よろしくなイリヤ」
――――――――――――
「それでどうしたこうなった……」
「……私に聞かないでよ」
別にお前に聞いたわけじゃないという言葉を飲み込み、さっきの出来事を思い出してため息をつく。
数分前。支部の前まで着いたというところで、ペインと名乗ったおっさんがいきなり。
「あ、おっさんちょっとこのおじさんと用事あるのを思い出したもんで、ネージュちょっとこの子面倒見といてくれ」
「え、えぇ!? なんで私が――」
「すまんな! 夜には戻る!!」
と、いきなり支部のリーダーの大男と会議室にこもってしまって、おっさんにくっついていたもう一人の子どもと二人きりというわけである。
(なんとかしてこいつの監視から逃れれば本部に連絡入れれるんだが……どうしたもんか……)
部屋の中に置かれた椅子に座ったそいつをチラと横目で覗く。流れるような黒い髪に黒い瞳。日系人だろうか? さっきネージュと呼ばれてたはずだが……歳は多分俺より2つぐらい上だろう。胸は――
「そこ。あんまりジロジロ見ないでくれる?」
と、いきなり不機嫌そうな顔のままこっちに向かれてビクッと体が震えた。
「え? あ、あぁ……ごめん……」
とりあえず半ば忘れかけていたクリエと連絡を取ろうと心のなかで話しかけようとする……が返事がない。
(あれ? クリエ、クリエーどうした?)
(はぁ……おぉー悪い主様よ。ちょっと立て込んでおってな)
数秒呼びかけているとすぐに応答があった。
(どうした? 何かトラブルか?)
(な、なんでもないぞ! なんか小長井とか名乗る男にちょっと絡まれただけじゃ! うん!)
(……? そうか。今どこにいるんだ?)
(その建物から向かいの建物の二階じゃ)
(わかった。俺が呼ぶまで待機しておいてくれ)
(了解した)
クリエのと会話を終えこれからどうしたもんかと思い、することもないので情報収集も兼ねてネージュに話しかけることにした。
「ね、ねぇお姉ちゃん」
「……」
無視された。ガン無視だった。
「あの……」
「……それ、猫かぶるのやめてくれない? 遠慮してるんだかなんだか知らないけど普段通りでいいから」
……演技だってこと見抜かれてたのか、意外と侮れない……。こいつ同世代だと思ってると足元すくわれるな。とりあえずこれ以上怪しまれないためにも口調だけでも普段に戻してみることにした。
「そ、そうか……じゃあ、これいいのか?」
「歳下のくせにその生意気さは腹が立つけど、さっきの気持ち悪いのよりはましだわ。で、なんの用?」
こいつ殺してやろうか、と苛立つ気持ちを抑えて会話を続ける。
「いや、君はこんなところで何をしてるのかなって……」
「不本意ながら君のお守りをしてるんだけど?」
「そうじゃなくてその……ここってレジスタンスの支部なんでしょ? なんで君みたいな女の子がいるのかなって」
ちょっと直球過ぎたかな? と思いつつ反応を伺うと、小さな声で『ほんと、なんでいるのかしらね……』と聞こえた。
「?」
「なんでもない。だいたい君と似たような感じよ、私も両親を亡くしてるの」
「そっか……じゃああのおっさんは?」
「ペインのこと? あの人は死んだ父の友達。父が死んだあと私の面倒見てくれてる人。ヒゲ面だけど悪い人じゃないわ」
「そう……」
どうしよう。会話が続かない。
(だからあれほどちゃんと身近な人と会話しておけというたのに……)
(うるさい! ほっとけクリエ!)
やっぱりなんで俺が管理者にスパイ役に選ばれたのかさっぱりわからなかった。スパイどころかレジスタンス側に利益があるとまで言われたし……そういえば半年ほど前、管理者の予言、指示が的はずれなことがあったと噂があったがもしやこれもそうなのだろうか……。
そんなことを思っていると、急にネージュが近寄ってきた。
「君は」
「え?」
「君は、私と同じ匂いがする」
「……? それってどういう――――」
こと? と続けようと思ったら突然ブーとブザーが鳴り響き、室内放送が聞こえてきた。
『ネージュ、スマンが会議室まで来てくれるか。悪いな』
と放送が終わるとネージュはため息を吐いて椅子から立ち上がった。これは監視が消えるので俺にとっては願ってもないチャンスだと思っていた。
「そういうことみたいだから。ちょっと離れ……いや、一緒に来てもらいましょう」
「へっ?」
――――――――――――
「そういうわけで一人でも可哀想だし連れてきたわ」
「いやまぁ……別に悪いとは言わないんだが……」
そんなわけで何故か俺はスパイ初日から敵の会議に参加していた。……今更なんだがもしかして罠なんじゃないかこれ……。
……というかこのネージュってやつ、俺と同年代のくせにレジスタンスの会議に呼ばれるってこいつ意外と高い地位なのか……? もしかしてさっき言ってた『同じ匂い』ってそういう……。
「この子がここにいちゃダメなら私も戻るから」
こいつ……会議出たくなくて俺を断る材料にしようとしてやがのか……。悪いがスパイとしてはこの会議をみすみす見逃すわけにはいかねぇんだ。
「俺、ここにいたいです」
「ッ!?」
そう言うとネージュが『なんてこと言うんだコイツ!?』みたいな目で睨んできた。
「どうしたんだ坊主?」
「俺はレジスタンスと管理局との対立とかってよくわかんないけど、これからお世話になるんだから少しぐらいはそういうことは知っておいたほうが力になれるかなって……」
「……そうか。坊主……いや、イリヤ。確かにその心がけは立派だが、君はまだ14歳だ」
「そう……! そうよね! まだ小さすぎよね!」
「だがネージュだってレジスタンスを束ねるリーダーとはいえまだ17だ。さして変わりはあるまい!」
「ちょっと!?」
……はっ? 今このおっさんなんて言った?
「え、今こいつがリーダーって言った? レジスタンスの?」
「ちょっと! コイツって何よコイツって!!」
「おう、こんなのでもリーダーなんだぜ」
「だからあんたもこんなのって何よ! ていうか私はリーダーやるなんて言ってな――――」
その瞬間ネージュの声を遮るように……いや、ネージュの声に紛れてボトボトっと上から何かが降ってきた。
「ダイナマイトっ……!?」
間に合わないと思いつつもせめてもの足掻きにとクリエを呼ぼうとするが。そんな悠長な時間を残してくれるほど導火線の火の残り時間は甘くなく。
「間に合わな――!」
「敵――」
刹那、視界が白く染まった。
「う……ぐ? ……あ、あれ……?」
――――視界が白から元に戻るとそこはさっきダイナマイトが落ちてきた状況と何も変わっていなかった。
「時間が、止まってる……!?」
文字通り『なにも』
ダイナマイトの導火線についた火。おっさんたちのダイナマイトに気づいて驚いた表情。のけぞって机にぶつかった拍子に落ちたのである、その落ちているコップと中から飛び出したコーヒー。そう――
「……なんであんたは『私の世界』で動いてるの?」
ネージュ以外が。
「……多分俺の魔法のせいだろうな」
「……それはとっても気になる話だけど……この魔法は1分くらいしか、止められないから……さっさとここを、出ないと……」
震え声のネージュが言い終えた辺りで再び時が動き出した。プラスチック製のコップがパリンと割れる音と同時におっさんがが大声が耳に届いた。
「――襲だ! みんな外へ!!」
この支部の幹部たちが混乱してあれやこれや騒ぎ出すのをおっさんが『全員指示に従え! 外にでるぞ!』ともう一度一喝し、全員が部屋の外へと逃げ出す。
俺もおっさんと一緒の方向へネージュの手を引きながら走りだした。
「ダイナマイトを処理したついでに、天井裏にいたやつらの投げ込んできたダクトも……封鎖しておいた。すぐに追いかけてくるだろうけど、数秒の足止めにはなるはず……」
ネージュが震えながらそう言うと、さっきの扉がバンッと大きな音を立て開かれ白服の男たちが出てきた。
「チッ! やっぱ管理局の連中か!」
白地に黒のラインが入ったコートのような制服を見ておっさんが悪態をつく。俺も一瞬確認したが紛れも無く管理局の制服だった。しかも長官直轄の特殊部隊――――親父の部隊のエムブレムだった。
(クリエ! クリエ、返事をしろ!)
(どうした主様?)
(親父に裏切られた! どうもアイツ俺をレジスタンスごと消すつもりらしい!)
(そんなアホな……)
(俺もそう思いたいよ。今まさに追いかけられてる最中だからできるだけ早く合流したい。どこでなら落ち合える?)
俺は走りながら心の中で会話を続けた。会話中とはいえ周りの警戒を軽視することはできないためこれが結構疲れる。お腹も空いたし。そういえばかれこれ2時間位何も口にしていない……。
(お主の場所ならどこでも感知できる。じゃから主様はそのまま逃げていろ。ワシがそっちに向かう)
(そうか、助かる)
(主を助けるのは当然の役目じゃ。それがどんな主であれな)
(嫌味として受け取ってこう。あとで仕置だ)
(それだけ言える元気があるならしばらくは大丈夫そうじゃな。数分で行く、持ちこたえろ)
俺は会話をやめて周りに集中した。すると案の定……。
「奥に一人。回り込まれてたか」
気配を察知し、傍にあったパイプ椅子を右側向かいの曲がり角の壁に思いっきりぶん投げた。投げた椅子は向かいの壁に跳ね返っりそこから『うグッ!?』っとうめき声が聞こえた。
「おぉ、よくわかったな坊主!」
「勘です」
角を曲がり痛みでうめいてる白服の顎を蹴り飛ばして先を急いだ。そして階段を降りてる途中の手すりにぽつんとおいてあった剣を見つけてフッと笑いながら引っ掴む。
(遅かったじゃねぇかクリエ)
(お主が遅かったのじゃよイリヤ)
そう心の中で罵り合いながら階段を駆け下りる。
「で、これからどうするつもりなんだリーダーさんよ」
「私に聞かないで。ていうか私リーダーなんかじゃないから」
「とりあえず本部に戻ろう。あそこの場所はまだバレてないはずだ。あそこがバレるぐらい重大なことなら俺の夢に出てくるはずだからな」
俺がネージュに聞くとやる気のないネージュに変わっておっさんが答えた。これじゃどっちがリーダーなんだか。
「本部はこっからどれくらいなんだ?」
「本部もこの街の中だが……車で1.2時間ほどだな」
「歩きでだいたい一日か……こりゃ辛くなりそうだな」
「そうだな……というか君、さっきと口調変わってないか?」
「……こっちが素なんだ。嫌だったら元に戻す」
「そうか。いや別にいい」
「そうかい」
前を見ると、ちょっと数分前に入ったばっかりのはずの出口が見えた。
「よしっ、出――」
た。という言葉を飲み込んだ。目に入ってきたのは、呪文の詠唱を終え発射の構えに入っているやつと銃をこちらに向けたやつだけで囲まれた光景だった。どう見ても出れたなんて言える状況ではなかった。
「くっ……!」
おっさんが呻き声を漏らしたののと同時に、現場指令である証の『帽子付き』が号令を取る。
「構え――――」
「ヒッ……!」
そしてネージュの呻き声を合図に俺は飛び出した。背を低く突撃体制を取りクリエを腰から抜き出し、飛んできた銃の弾を弾いてその切り裂いた魔法波で魔法を消し飛ばす。
「全てを置き去りに『加速魔法』」
「ひ、怯むな――ッ!?」
なおも飛んでくる銃弾と魔法弾をかわし、加速魔法を詠唱。瞬間移動と違わぬ速さで『帽子付き』の懐に潜り込み――切り裂く。
「なっ……!? こいつ――」
周りの護衛兵が、一瞬遅れて一斉に斬りかかってくるが少し遅い。クリエイティブスの魔力斬りを回転斬りの要領で斬り放つ。
「我が前に立ちふさがる敵を散らせ『魔撃波』」
少し離れた敵の方へ左手をかざし呪文を唱える。魔力の塊が左手に溜まり射出し、延長線上にいた奴らをなぎ倒す。
その間に、クリエイティブスを地面に突き刺し、剣を伝って魔力を地面に流れ込ませ、後ろから襲いかかって来ていた敵の残りを、土と衝撃波で吹き飛ばした。
その圧倒的な強さを前にして驚いたペインはその光景を呆然と。ネージュも、謎の昂ぶりを抱きつつその感情に気づかずに、ただ震えながらイリヤを見つめていた。
「早くしないとまた次の追ってが来る。さっさと逃げないと」
「あ、あぁ…………いや、私は無理そうだ」
おっさんが周りを見渡したので俺も見てみると、今の戦闘で道は荒れ、壁はひび割れ。そして混乱した住人たちが窓から恐る恐る覗いたりしていた。
「ここが管理局にバレていたということは、奴らが大挙してやってくるのも時間の問題だろう。その間にこの人達を逃がすリーダーが必要だ」
「ペインおじさっ――」
泣き出しそうなネージュに『ダメだ!』とおっさんは声を張り上げた。
「お前は死んだあいつの……父親の後を継ぐんだ! お前にはその才能がある!」
「嫌だよ! もう誰かと離れ離れなんて嫌! もうレジスタンスなんてやめて普通に暮らそうよ! もう貧乏でも文句なんて言わないから!」
そう言うとネージュはその場に座り込み、顔を押さえて泣き出した。それを見たおっさんはしゃがんで、真剣な顔でネージュの肩に手をやった。
「いいか。俺だって……アイツだってそうしたかったに決まってる。けどこのままじゃダメなんだ。『管理者』に全てを任せているこの体制のままじゃいつかこの街は崩壊する。お前の親父はそのために……お前のためにも、お前の子供の世代のためにも立ち上がったんだ。その希望を消しちゃいけない。その為にお前は立ち上がる必要がある」
『無理だよぉ……』とネージュがしゃくりあげながら答える。
「無理なんかじゃない。まだ子供のお前に酷なことを言ってるのはわかってる。けど決して無理なことなんかじゃないんだ。自分を信じろ……!」
そう言っておっさんは首にかけていたアクセサリーを外して、ネージュに差し出す。
「アイツから時が来たら渡してくれって言われてた。これをお守りとして渡しておく。これを持って本部へ戻るんだ」
「無理だよ! 一人でなんて戻れっこないよ!!」
「一人じゃねーよ」
そこで俺が口を挟んだ。自分はこんなキャラじゃないのはわかってる。言える立場でもないのもわかっていた。けどなぜか俺は口に出していた。
「俺が守ってやる」
その突然のセリフに呆然としたおっさんが呆然とこっちを見ていた。
「イリヤ……君?」
「さっきの俺の実力は見てただろ。俺ならコイツ一人送り届けるぐらいわけない。だろう?」
「し、しかしだな………………いや、時間が無い。君に託そう」
「おじさんっ!?」
「大丈夫だ。さっきの桁外れの戦闘能力は見たし……何より私の夢に出てきた子だ。絶対に君を守ってくれるはずだ」
「そんなことでっ……!?」
「悪いな、そのものに安らぎと暖かさを『睡眠魔法』」
俺はまた騒ぎ始めそうだったネージュに睡眠魔法をかけおとなしくさせて肩に担いた。
「世話をかける」
「気にすんな。そんで本部の場所ってどこなんだ?」
「East-wastelandだ。詳しい場所はその子が起きたら聞いてくれ」
「了解した。おっさんは?」
「私は避難民の避難が終わりしだい向かうつもりだ。行くときは北にある『Slowly』の看板の建物に隠し通路がある。そこを使うといい」
「わかった」
言うやいなや俺は走りだした。それなり以上の戦闘能力を持ってるとはいえ、人一人担いで守りながら戦うのはさすがに分が悪すぎる。見つからないで休める安全な場所を探すのが先だ。
「お主、何か変わったのう?」
「……さぁな」
俺はこの気持ちがなんのかもわからないままに、走り続けた。一人の少女のために。
――――――――――――
地下街から少し離れた、廃墟となった住宅街。その家の一つで俺たちは休んでいた。昔はそこそこ賑わっていた町だったらしいが、戦争の影響で人が住むのが困難になり住んでいた住人は別の場所へ移り住んだという。
「よぉ、ようやく気がついたか?」
「……」
ネージュが目を覚ましたのは日が暮れた辺りだった。寝ながらも泣いていたので目元は赤いままだった。家の中にあったソファに同じく家の中にあった毛布をかけていただけだったが暖炉をつけているので寒くはないはずだ。
「ちょっと休んだらすぐに出るぞ。いつ追手に追いつかれるのかわかんないからな」
「……貴方何者なの。ただの14歳なわけないわよね」
「……ただの管理局のスパイさ。それ以上でもそれ以下でもない」
どんな反応をするか少しだけ楽しみだったが、意外と反応は薄かった。
「……怒らないのか?」
「いい……今そんな気力ないわ」
「そうか……」
とりあえず、しばらくは後ろから刺される心配はないだろう。そう思って俺は周囲の警戒に戻った。
数分が立って、いきなりネージュが話しかけてきた。
「ねぇ」
「……なんだ?」
「どうしてあんたは戦えるの?」
「そうだな……それしか出来ないから、だな」
「それしか出来ない……?」
「俺は昔から戦闘の天才って持てはやされてたんだ。そのせいで10歳の頃に親父に管理局の超エリートに預けられてな、それから四年間、ずっとこんな生活だ。嫌でも慣れるさ。強い奴と戦うのは好きだが、それは心の奥底で自分は死なないってわかってるから来る感情なんだろうなっていうのは理解してる。良くも悪くもゲーム感覚なんだな」
ついでに俺はそんな自分が好きじゃない。それは言わないでおいた。
「私も……」
「?」
ネージュはそう前置きした後ぐじぐじとすすり泣き始めた。
「私も……それだけ強くなれば強くなれるのかな……誰かを、みんなを守れるくらいに」
正直に言うと『そんなの俺には分かるか』と答えたかった。けれど俺はおっさんのコイツとコイツの親父に対する信頼の強さを見ている。それを思い出して俺は。
「……なれるよ。あんたがそれを望むなら」
そう答えた。そうしたら。
「そっか……じゃあいつかあんたを殺せるかしら」
目元を赤く腫らしながらそう笑いかけてきた。
「そいつは無理だな」
「じゃあ、もし私があんた以上強くなったら?」
「そうだな……お前の言うことなんでも聞いてやってもいいぞ」
「ふふっ、殺されてるのに?」
そう言うとネージュは小さく笑った。心なしか俺も少し晴れた気分になった気がした。
「勝てるわけないからな。もういいか? そろそろ移動するぞ」
「あ、うん……」
(それに、あれだけの洞察力。潜在能力は本当に高い方だろうな。下手すりゃ俺以上……それはないか……)
そんなことを思いながら俺は家を出た。ネージュも後に続いて出てくるが、俺と違って少し名残惜しそうに家を見ていた。
――――――――――――
「空が……綺麗ね」
「ここら辺は都市部なんかと違って空気が澄んでるからな。綺麗に映るだろう。戦争が始まる前はどこもこんな感じでもっと空気が澄んでる場所もあったらしいけどな」
「そっか……」
敵同士のはずの俺らは、そんなどうでもいいことを喋りながら星空の下の住宅街を歩いていた。俺もふと上を見上げてみた。無数の星たちがきらめいていて確かに綺麗だった。
「今はどこに向かってるの?」
「前に任務でここらに来た時に。誰も使ってない小屋を見つけたことがあったんだ。ここからもう少し歩いたところにある森のなかの小屋だが、そこで夜を越そうと思う」
「もしもその小屋がなかったら?」
「本部とやらに着くまで我慢してもらう」
冗談半分でそう言うとネージュはため息を吐いた。
「無茶言うわね……」
「最悪俺が担いでいくから大丈夫だ」
「じゃあのその時は頼むわね……」
「あぁ」
適当に返事をするとネージュがふふっと笑った。
「私達、敵同士のはずなのに変な会話ね」
「……たしかにな」
「私、恐怖でおかしくなっちゃったのかしら」
俺もどうしちまったんだろうな。小声でそう呟いた。
そしてネージュの心配も杞憂に終わり、無事着いた小屋で二人は夜を越した。そして小屋を早朝に出発し夕方頃には本部のある街まで着いていた。
「……そろそろ着くのね」
「そうだな。妨害があると推測してもう少しかかるかと思ったけど……不気味なほど何もなかったな」
「そうね……ねぇイリヤはこれからどうするの? ……もしよかったら私の代わりにレジスタンスのリーダーなんてやってみる気はない?」
「もしもレジスタンスに入れるんだととしてもリーダーはゴメンだな。ていうかスパイにリーダーを勧めるなよ」
そんな話をしながらネージュを先頭に街の中の人混みを歩いていると。50mほど前に白い服を着た長身の女性が立っていた。
「管理局――っ!?」
「いや、ちょっとまってくれ……」
先頭を歩いていたネージュが俺の後ろに隠れてくる。俺は後ろに来たネージュを庇うように手をかざすが、そこで俺はようやく目の前の女性が見覚えのある人物だと気づいた。
「……オルガ?」
「はい、お久しぶりです。隊長」
金の長髪の長身メガネ。間違いなくオルガだった。
「誰……?」
「俺の秘書だ。大丈夫、こいつは絶対に信頼できる」
「どうし――――」
ネージュがそう聞こうとすると、それを遮るようにオルガが身悶えながら話し始めた。
「ああっ……一日でも隊長のお顔が、お声が聞けないのは苦しくて苦しくてたまりませんでした……! でも大丈夫、隊長が死ぬはずありませんもんね!」
「こいつ重度のショタコンなんだ」
「あー……」
オルガはここが外だったことを思い出してハッとなると咳払いをして元のキリッとした表情に戻る。もう十分手遅れだとは思うけれど。
「で、そちらの女性は」
「あぁ…………あっちで親父の謀略に一緒に巻き込まれて、それでこっちにある実家に送り届けに来たんだ」
「そうですか……この度は、我が管理局がご迷惑をお掛けして……」
「い、いえいえ……コイツに助けてもらったから別に……」
そう言ってオルガは謝罪し、ネージュもお辞儀をした。明かしてないからとはいえレジスタンスのリーダーが管理局の一構成員に頭を下げるとは奇妙な光景だった。
「それで隊長。これからどうしますか?」
「これから……?」
そうオルガに言われて初めて思い出した。俺は親父……管理局から裏切られ、レジスタンスのリーダーには自分がスパイだとばらし、自分の居場所なんてどこにもないんだった。
「俺は…………」
どうしようか。そう考えているとネージュが声をかけてきた。
「私の、とこに来ればいいじゃない」
「ネージュ……?」
「い、いいわよ別に。もう戻るとこはないんでしょう?」
それは願ってもいない申し出だった。俺は別に管理局に思い入れがあって所属していたわけではないし、別にレジスタンス側に寝返ろが特に罪悪感もない。
「俺は――――」
『私も……あなたみたいに強くなれるのかな』
「――――断る」
――――――――――――
「第二防衛ライン突破! 続く第三防衛ラインもすでに壊滅状態です!」
オペレーターが監視カメラに映った映像を見て報告をしていく。壊された監視カメラを自前の魔法液晶に切り替え改めて状況を確認していく。
「……俺が出る」
「長官!?」
「これ以上無駄な戦力を使うわけにもいかん。俺が一人でいってくる」
「だったら残りの戦力も……!」
「俺の足引っ張った上に巻き込まれて死にたいっていうクソ野郎がいるなら連れて来い」
何も言えなくなったオペレーターを置いて、俺は管理局内部の司令室を出た。そして奴らの向かっているという管理者の部屋の前までへと急ぐ。
そして――――
「来たか」
管理室へと続く廊下。冷たい鉄製の床と壁。天井を走る管理者からつながる無数の青い魔力パイプ。その廊下の扉を破り、レジスタンスたちは入ってきた。
「……! 止まれ。……奴だ」
先頭を走っていた黒髪の女性が後続の仲間たちを手で制する。
「……ネージュ。いや、『如月雪乃か」
「ネージュね……懐かしい響き。久しくそう呼ばれてなかったわね」
ネージュ……レジスタンスリーダー如月雪乃は。父親、そして育ての親の形見である首のやりをかたどったネックレスを懐かしそうに握りしめた。
「そうか、日系人だとは思っていたけど本名じゃなかったんだな」
「ネージュはあだ名よ。そういえば、あなたの本名も教えてもらってなかったわね?」
「イリヤは本当の名前だ。苗字は……どうでもいいか」
「そう……イリヤだったのね、本当に」
ネージュは懐かしむように目を閉じた。
「リーダー、時間が――」
「そうね……そろそろ始めましょう」
ネージュが後ろの仲間の言葉を遮るように、そう言うと辺りの時間が――ー『止まった』
「『時間停止魔法』か」
「そうね……『能力不干渉魔法』相手の固有魔法を自動的に防ぐ固有魔法を持つあなたと時間停止の魔法を持つ私。二人だけの時間」
ネージュはうっすらと目を閉じて笑いながら言った。
「どれくらい持つ?」
「ただ止めるだけで3分。だからそれ以外にも魔力を割いたら約二分ぐらいね」
「上々だ」
俺達にはそれで十分だった。ネージュは胸のペンダントを握りしめると光りだしたペンダントは両手に持てる普通の槍となっていた。そして腰からクリエイティブスを抜き放ち胸元に飛び込み、斬り結ぶ。音にならない衝撃波が周りに広がる。
俺は距離を開けるためにバックステップで引き下がるが、それを確認したネージュが着地際に合わせて突進してきた。
「ッ!」
つま先だけで着地し、そこを軸に体をひねって槍の切っ先をかわす。空いてる左手をネージュの頭上にかざし呪文を唱える。
「全てを斬り裂き統べて斬り伏せよ『魔法刃』!!」
左手から生成された、黄緑の光を放つ魔法の刃をネージュの顔めがけて思いっきり振り下ろす。ネージュは振りきっていた槍を戻し魔法刃にぶつけ、刃を滑らせて軌道をそらす。
「まだまだッ!」
振り切った刃をそのまま振り切ってネージュの足元に突き刺し、刺した地面に魔力を送り込み爆発させる。
「魔の手から我が身を護りたまえ『障壁魔法』」
俺が振りきり始めた辺りでネージュが詠唱を開始し、地面を爆発させる頃にはすでに障壁魔法を発動させていた。
「その技は見切っているわ――!」
「もう二年も前だってのに……やるじゃねぇかッ!!」
魔法刃の送った魔力を再形成してもう一度斬りかかる。それを槍の切っ先で受け流しそのまま刃に沿うように突き刺してくる。それをクリエでネージュの体ごと吹き飛ばし、もう一度左手をかざす。
『我が前に立ちふさがる……ッ!?」
詠唱をしようとした瞬間、すでに槍を振りながら詠唱を終えていたのであろうネージュが加速魔法で一気に距離を詰めてきてそのまま左手を掴まれた。そして右手に持った槍で斬りかかってくる。それをなんとか右手のクリエイティブスで弾く。
「……ッ!」
そして左手を掴んだままのネージュを剥がすためにネージュの体に蹴りを放つ。が、槍の柄の部分で受け止められる。
(こうなったら……)
俺はとっさに左手の拳を閉じもう一度呪文を詠唱する。
「吹き飛ばせ……」
「ッ!?」
詠唱しようとしている魔法に気づいたネージュはまだ効果の残っていた加速魔法で距離を取ろうとする。
だが少し遅い。
「『爆発魔法』」
その瞬間俺の左手を中心に爆音と豪熱が起こった。真っ黒な煙の中心から二人の人間が吹き飛ばされる
「ぐ……まさか左手を犠牲にするとは……」
俺は痛みで震える体を起こし、左腕のあった場所へ力を込め、止血する。どうも極限状態になると感覚は麻痺するっていうのは本当らしい。
そんなことを思っていると頭のなかに聞き慣れた声が響いた。
(のう主様?)
(なんだクリエ、お前喋れるのか)
(真名、教えて欲しいかの?)
(……『 』だろ?)
(なんじゃ、知っておったのか)
(親父の部屋をあさった時に見つけたんだ。お前について載ってた文献をな)
(そうか。で、どうするかの? 力を貸して欲しいか?)
今、こいつはニヤニヤ笑って楽しんでいるのだろう。主人が死ぬか生きるかって状況なのに結構なやつだ。
「あぁ、お前の力を借りるぞ。『 』」
俺は剣を掲げその名を呼んだ。そしてその剣はまばゆい光を放ち、金の光を放つ大きな魔法の刃に変身した。
「それが、あなたの全力?」
「みたいだな。これが俺の全開だ」
「そう……」
ネージュはまた嬉しそうに目を閉じて、そして誰もが見惚れれるような綺麗な微笑を浮かべ言った。
俺達は、それを合図にもう一度ぶつかった。
金と銀の光を散らし、何回も、何回も切り結ぶ。突き刺してくる槍をそのまま受け止め、弾き飛ばし、弾き飛ばしたままのモーションで回転してネージュにたたきつけける。ネージュはそれを屈んでかわし、そのまま俺の足を払う。そして体制を崩した俺に向かって懐からだした黒い塊を向ける。
「拳銃……っ!?」
タァンと高い音が響いてうたれた腹から赤い血しぶきが舞う。ひるんで顔をしかめた俺にそのままの体制で銃をタァン、タァン、タァンと乱射する。俺はそのまま地面を転がり銃弾をかわす。
「我が前に立ちふさがる敵を散らせ『魔撃波」
転がっている隙に詠唱された衝撃呪文が転がって壁にぶつかった俺を更に吹き飛ばし、砂埃が舞った。
「あの時、なんで俺はレジスタンスに入るのを断って管理局に戻ったか。分かるか?」
俺はそう喋りながら血を吐いて立ち上がった。
「そんなの、分かるに決まっているじゃない。あなたといた時間は少なかったけど、それでも私は……」
「そうか、ならいい。…………強くなったじゃねぇか」
そして俺はもう一度『 』を握る右手に力を込める。それに応えるように刃が一段階大きくなる。
「そうね」
ネージュが槍を構えると、その銀の槍が光輝き始めた。
「私は強くなった。みんなを、仲間を守るために。そして、これからも強くなり続ける。だから私は――――――殺すわ。貴方を」
そして――――俺達はぶつかった。銀色の光の奔流に吹き飛ばされ俺の右手から剣が吹き飛ばされるその瞬間『楽しかったぞ』とクリエの声が聞こえた気がした。
「さよなら。約束、ちゃんと守ってね」
そのネージュの震えた声を最後に、視界は銀色に染まったまま俺の意識は消えた。
初めましての方は初めまして。そうじゃない方は超お久しぶりです。長月シイタと自称してるものです。
実はこれ、0:43。つまり投稿後に書いています。忘れちゃってた♪
えっと、とりあえずここまでムダに長い小説を読んでくれてありがとうございます。楽しんでいただけましたでしょうか?
『てーま』はもちろん魔法。そしてサブテーマは……なんだっけ。各々感じ取ってくれたものがサブテーマです!(適当
それではこんな中身の無い後書きまで読んでくれてありがとうございました! 良ければ感想的ななにかをもらえると嬉しいです! ではではまた、ごきげんよう!
第四回小説祭り参加作品一覧(敬称略)
作者:靉靆
作品:煌く離宮の輪舞曲(http://ncode.syosetu.com/n4331cm/)
作者:東雲 さち
作品:愛の魔法は欲しくない(http://ncode.syosetu.com/n2610cm/)
作者:立花詩歌
作品:世界構築魔法ノススメ(http://ncode.syosetu.com/n3388cm/)
作者:あすぎめむい
作品:幼馴染の魔女と、彼女の願う夢(http://ncode.syosetu.com/n3524cm/)
作者:電式
作品:黒水晶の瞳(http://ncode.syosetu.com/n3723cm/)
作者:三河 悟
作品:戦闘要塞-魔法少女?ムサシ-(http://ncode.syosetu.com/n3928cm)
作者:長月シイタ
作品:記憶の片隅のとある戦争(http://ncode.syosetu.com/n3766cm/)
作者:月倉 蒼
作品:諸刃の魔力(http://ncode.syosetu.com/n3939cm/)
作者:笈生
作品:放課後の魔法使い(http://ncode.syosetu.com/n4016cm/)
作者:ダオ
作品:最強魔王様が現代日本に転生した件について(http://ncode.syosetu.com/n4060cm/)