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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

Geister Kontinent

我が魂の花嫁

作者: うぃんてる

東欧出身のハーフバンパイア、フィニア・セレニアは花嫁を探しに敬愛する母親の母国、日本にやってきた。

その彼に目を付けられてしまった少女とは…………。

俺は吸血鬼の父と人間の母の間に生まれたハーフ、フィニアと言う。


東欧の田舎にある城に暫く育っていたが16歳になる頃には母親の母国、日本に引っ越し、それなりにステータスの要求される私立の高校へ入学した。


そこで俺は魂レベルで惹かれる娘に遭遇した。園樹グループ総帥の一人娘、燐だ。日本に来た理由は母親のような花嫁を手に入れてこいという親父の命令で、正直めんどくさく思っていたが案外あっさり見つかったからあとは魅了させて連れ帰ればいいと簡単に考えていた。


結論から言えば非常に甘い考えだった。燐のそばには二人の娘が常にいて、穢れを寄せ付けない霊気を纏っているのか側に長い時間居ることが出来ない。特に夏海なつみ葉月はづきと言う娘が厄介だった。


夏海家は部下の調査によれば夏海流弓術の本家に近い分家だった。魔を祓い清浄なる神域をきよめられた破魔矢にて作る、穢れの塊のような俺にとって面倒な相手だった。葉月はそこの一人娘でそのそばにいるだけで魔は近付けずに祓われてしまうらしい。


そしてもう一人。秋川あきかわあいは秋川神社にて巫女見習いながらも幼少の頃より続けられた修行により身につけた穢れを祓う能力ちからの才能が開花しつつあり、この二人をどうにかしない限り接触することすら難しいのはお手上げに近かった。


しかしみすみす逃すには惜しい。だからまず包囲網の手始めとして園樹家当主夫妻へ挨拶に出向く事にした。親父一代の成り上がりとはいえ欧州や東南アジア、そして日本へと進出して久しい。その後継ぎである俺が日本有数のグループ企業である園樹グループを率いる夫妻に挨拶に出向いても何らおかしくはないはずだ。


会談はとくに何事もなく、可もなく不可もなく終わった……と言えたら良かったのだろうか。ただ一つだけ、失敗してしまった気がする。来日の目的を無難に愛する母親の母国を知りたいと言ったまでは良かったが、つい調子に乗って花嫁も探しに来たと言った途端、僅かに警戒されたような気配を感じたのだ。気のせいで済むような気はするが笑顔の夫妻の瞳は笑っていなかったような気がしていた。もう少し深く調べる必要がありそうだ。


親父は魔術にも詳しく空間を多少なら歪める事が出来た。理論上では知識を深めれば時間も歪められるのだと言う。時間を操る事が出来るのであればその価値は計り知れない。

夏休みも間近という頃、親父から最新の研究データが送られて来たので試してみることにした。勿論ターゲットは葉月という女だ。

朝の通学はいつもは燐と一緒なのだが、あいつはまた入院したとかで最近は一人で徒歩通学らしいから都合がいい。

通学路の途中に車を止めさせてすれ違うあたりで発動するように詠唱を開始する。


『おお?本当に消えた……』


ゆっくりと車を発車させ俺は邪魔者が一人消えた事を喜びながら登校した。

夜のニュースは葉月の行方不明に関する話題で持ちきりだった。どうやら確実にどこかへ消し去ったらしい。これで包囲網からの出口を一つ潰す事ができた。

次は愛だ。


忌々しい葉月が消えて清々したが、逆に少し困った事態が発生してしまった。次の排除対象ターゲットの愛が燐にべったりと張り付きなかなか離れなくなってしまったのだ。それどころか燐の両親が愛の居ない時間帯に交代で世話に来るようになってしまい、探りをいれた結果、愛の差し金だと知った晩は余りに腹が立ちすぎてクラスメートの何人かを招いたパーティーでついうっかり生娘どもを吸血くいちらかしてしまった。まぁ、記憶を操って帰宅させたが。早く燐を、我が魂の花嫁をこの腕に抱き締めたいものだ。


だが、そのために必要な広大な檻を完成させるためには愛を排除させなくてはならない。あれが傍に居るかぎり魅了させることすらできないのだ。日本このくにの古くから続く巫女とか言う聖女。それが愛だと知った時は本当に眩暈がしたものだった。聖女には葉月に用いた魔術も効果が無いと言うのだから。


結局、自分の不用意な一言から招いた無用な警戒であるし母親の口癖、『急いては事を仕損じる』に従って効力は落ちるが少しずつ、少しずつ。多少距離があろうとも視線を合わせる都度に魅了の瞳を発動させて馴らせて行く事にして、排除の機会を伺う事にした。


***


地道な魅了活動が実を結び始めた頃には三年生の夏休み前くらいになり、相変わらず魅了されない燐の両親と愛以外の人間には自分と燐が恋仲で将来を約束した婚約者だと情報操作が可能になってきた。何より愛が傍に居ない燐が自分の魅了に掛かり始めたのは素晴らしい事だった。

残る障害はなんとかして燐の両親の疑念を払う事と、愛の清浄性を失わせる事だった。そうすればこの檻は完成する。


身体の弱い我がお姫様は入院退院を繰り返していたが今は普通に愛と登校している。

そろそろ仕上げといこうか。その視線の先を愛ではなく自分に向けさせ、愛の清浄性を奪いついでに心身疲弊させお姫様を見る余裕を奪う。その為には少々手荒ではあるが……あいつらを使うか。奴らにもそろそろ褒美とやらを与えねばならんしな。……ったく贅沢になりやがって。まぁ、今度まとめて始末を付けるからいいか。


『おう、お前ら。…………仕事だ』

「今度はなんですかぃ?恐喝、暴行、脅迫、拉致監禁、何でもやりますぜ?」

『対象は女二人だ。攫っていつもの旧校舎ばしょに監禁しろ。名前は園樹そのぎりん秋川あきかわあいだ』

「えっ!?……いいんですかぃ?」

『あぁ。それから愛は好きに遊べ。壊したって構わないが、なるべく時間を掛けろ。ただし、燐には手を出すな。傷物にしたら殺す』

「わかりやした。いつやりやす?」

『週末。……襲え』


燐たちが攫われたあと、愛が襲われてしまった後に救出に踏み込み助けだす。ついでにあいつらも潰す。真実を知るのは自分だけでいい。そして踏み込む時には愛に想いを寄せてるらしい春野はるの、アイツも連れていく。そうすればお姫様は愛の心配をしないだろう。完璧だ。


そして週末。下校。

いつものように燐を愛が送って行くのを教室の窓から見送る。身体が弱いのだから車で送迎されればいいのに、燐は頑として徒歩通学に固執している。曰く、身体が弱いからこそ歩いて丈夫にしたいのだと。身辺警護などに関する不利を考慮しないのか、と一度聞いてはみたがそれでも歩きたいと言っていた。そしてそれが今日は仇となる。

……運動など自分の屋敷ですればいいのだ。送迎されていれば襲われる事もなかろうに。

……本当に日本という国は信じられないくらい平和だな。まったく。


愛に想いを寄せているという春野は同じクラスの平凡な男だ。容姿も学力も普通よりは良い程度で悪くはないが、格段に良いというわけではない。しいて何かあげろと言うならば東洋の神秘とでもいうべきか合気道とかいうものを修得しているらしい。

敵に回すのは得策ではない。

夜になってその春野から電話が自分のスマートフォンに掛かってきた。燐と愛が帰宅していない。何か知らないか、と。

どうやら上手く拉致出来たらしい。時間にして日没から一時間と少しか。あと二時間も経てば良い頃合いだろうが、遅くなれば園樹グループの私設警備会社、SSSソノギセキュリティサービスに先に踏み込まれる可能性も捨てきれない。そうなったらせっかくの計画が台無しだ。

それに芋づる式に自分の関与を暴露される危険性もある。

だから春野にはこう、答えた。


『心当たりが一つある。今から一時間以内に学校の裏門へ来い』

「……裏門、だと?分かった。園樹の家には……」

『まだ言うな。心当たりが当たってからでいい』

「……そうだな。そう言えばフィニア。お前、格闘技は出来るのか?」

『ああ。じゃあ裏門でな』


裏門、と伝えた事で春野は察しがついたようだった。通話の向こうで鳴った歯ぎしりがその証拠だ。残念だったな、春野。お前の愛しい彼女あいは今頃絶望のどん底だ。全てを喪い壊れているかもしれないが、しっかり助けてやれよ?せっかくお膳立てしてやるんだからな。


あいつらが哀れな女子生徒ひがいしゃを連れ込むときは決まって旧校舎の防音完備な音楽室だった。だからそこに辿り着くのがなるべく後になるようにしたかったのだが、春野はカーテンの締め切られた音楽室から漏れる僅かな灯りに気が付きまっすぐに向かい始めてしまい、思わず舌打ちしてしまいそうになってしまった。


鬼の形相で暗闇の旧校舎廊下を、階段を駆け抜けていく春野の背中を追う。

音楽室のあるフロアに辿り着けば軽薄な音楽が聞こえ、それに混じるように下品な笑い声と、そして悲鳴も聞こえている。

春野は既に駆け出し、半開きのドアを蹴倒して室内に飛び込んでいた。そして惨状を見たであろう春野が上げた声に思わず絶句した。


「…………てめえら。愛ばかりか燐にまで手を出しやがって……。ただで済むと思うなよ?」


……な、に?


燐にまで手を出した、だと?そんなバカな。俺はあわてて春野に続いて室内に入り……目にした光景に思わず俺は我を忘れた。


『……貴様ら。死ね……』


俺と春野は燐を組み敷き押さえつけのしかかっている、何かヤバイクスリでもキメテいるかのようなだらしない顔をした連中に手加減なしで襲い掛かる。ろくな抵抗も出来ず俺たちに蹴り飛ばされ殴り倒され、血反吐や悲鳴絶叫を撒き散らしながら燐から離れた連中を確認した春野は次に、全身に酷いアザと鬱血を作りむせ返るほどの淫臭に塗れ穢れた、ハイライトの消えかけた瞳からただ涙を流してなされるがままの愛を、間抜けな顔で挟んだまま俺たちを見ている男たちに殴り掛かって行った。

俺はたぎるマグマのように噴き出る怒りに任せて芋虫のように転がっている、燐を襲っていた連中を殺すつもりで蹴り続ける。

よくも俺の花嫁を穢れさせやがったな、死ねよ、死んで償え!

そんなことを叫びながら本当に殺す勢いで蹴り続ける俺の足を止めたのは意外な相手だった。


「……だ、め、フィニ……ア……」

『燐!?』

「それ、い、じょ……、しん、じゃ、う……わた、し、だい、じょ………ぶ、だか、ら……」

『大丈夫なわけあるか!おまえに汚い手で触れたこいつらは死んで当然だろ!』

「……それ、でも……だめ。フィニア、きらいに、なりたく、ない、よ……」

「……たすけ、て、くれて……ありが、とう、フィニア……」

『……燐』


力尽きる直前の体力を振り絞り俺の足元に這い寄り、もう、蹴らせないとばかりに俺の足にしがみつく燐と、俺を安心させようと微笑むその笑顔に……俺はただ呆然と見下ろしていた。


その後駆け付けてきたSSSが燐たちを園樹グループの病院へ搬送していく前に俺は燐へ暗示を掛ける。

男どもに乱暴されて入院するのではなく、いつもの体調不良で入院するのだと。この事は燐の両親にも説明を行った。俺たちさえ黙秘すれば燐は傷つかないから、と。その結果、当初の目論見通り燐の両親たちから一定の評価と感謝を獲得できた。燐が襲われたのは痛恨のミスだったが。

だが最大の目的であった愛から巫女としての清浄性を奪い取り聖女としての魔を祓う能力を喪失させることに成功したことは大きい。

これで燐の隣にいつでもいることができる。そしてそれは燐への魅了をより深めることができるということだ。


……つまり、完全に魅了させてしまうためのやたら時間を掛けた檻の完成だ。高校卒業と同時に俺の魂の花嫁を手に入れる事が出来るのだ。


胸に杭打たれるまでお前は俺だけのモノなのだ。唯一不安があるとすれば永遠の命を与える前に燐が病没する可能性だが……仮に死んだとしても埋められてから一日以内に掘り起こし、一族に伝わる秘術を施せば問題ない。


早く良くなれ、燐。俺の花嫁。

……もう逃がさない。


そしてもしも。もしもお前が逃げ出すのなら……例え異世界だとしても必ず追いかけて捕まえてやる。そして二度と逃げ出せないように……俺の愛をその身体にしっかりと刻み込んでやるからな、覚悟しろ?燐。

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― 新着の感想 ―
[一言] きゃぁぁあっ! ハイライトの消えかけた瞳! 愛ちゃん、燐ちゃんんん! フィニア君すっごく怖かったです。 本編ではきっと愛ちゃん、燐ちゃんともに幸せになってくれることを願います……。
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