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面白裏日本史  作者: 橋留健志郎
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太閤様茸狩りに行く

第一話粗筋:百姓上がりの身でありながら天下人となった豊臣秀吉。数多く言い伝えられている彼の趣味の一つ茸狩りの様子を覗いてみるとしよう。

 彼の名は豊臣秀吉。本来は、【とよとみのひでよし】と呼ばれるべき名なのだが、なぜか後世では【とよとみひでよし】と呼ばれている。

 彼は茸狩りが趣味だったという。日本史に残る偉人の中でももっともお調子者だった彼の茸狩りの様子をちょっと覗いてみるとしよう。






「だあああああ、おもろない!!!!!」

 くっそイライラする! 何で政っちゅうのはこないにおもろないんかのう!? なんやっちゅうねんこの書類の山は! 横で三成は《何で俺が大坂まで駆り出されなあかんねや》っちゅう顔しとるし。しゃーないやんけ、そこら中から人集めな片付かへんねやから!

「太閤様、ちいと黙っといてください。こないな量、没頭せな一週間あっても片付かへんのですから。ったく、何が悲しゅうてこないになるまで放っとくんやろな? 普通に上がってきたら直ぐ片しときゃあええだけの……」

 あー、ウザい。また三成のお説教の時間かい。もう、ウザいから切り込んだろ。

「せや、茸狩りに行こう」

 うーむ、我ながら名案やな。気分転換やがな、気分転換。

「あー、太閤様? 今のは空耳でっか? 茸狩りがどうとか聞こえたんですけど」

 幻聴なわけあるかい。言うたがな。確りと俺の口から。

「ええやんけ。先立つ物がないと仕事効率上がらへんのが俺なんやから」

「ほう。ほだら先立つ物ができた太閤様は、この壊滅的な量の書類の山をどれぐらいの時間で片してくれはるんですやろか……」

 怖い目で見よるのう。おまえ、戦はど下手やけど威圧は最強なんやな。うん、三成の特徴、新しく見付けたでぇ……。そないなことより目標時刻設定やな。うーーーーむ、





「3刻ぐらいやな……」





 さあ、この無茶な話に三成はどう出てくるやろか。

「太閤様、齢を重ねまするとどうにも訳の解らぬ幻聴が繰り返し聞こえていけませんなあ。某つい先程にはこの書類の山を前にして『茸狩りに行こう』とかいう幻を聞き、此度はこの書類の山を『3刻で片せる』という幻が聞こえてござりまする」

 うわー、怒っとる。俺のものごっつ嫌いな侍弁出してきゃあがった。しゃあない、強行突破や。



 ぱんぱんぱん!



 【手拍子3発滝川一益】ってのう。これだけでやって来んねや、忍上がりの一益が。ほーら来たぁ。噂をすれば影っちゅうやつやな。さっそく襖が開いたで。

「太閤様、お呼びでしょうか」

「あーもう! 俺が呼ばなきゃ来んでええっちゅうたでしょうが、一益さん!」

 遅い遅い。来させてしもうたらもう俺のもんや。

「三成は無視してええで。それよかなあ、あと3刻後に茸狩りやるから皆呼んどいてやぁ」

「太閤様はまたそないな無茶なこと言わはる!」

 上等上等、喧嘩上等無茶上等! 中国大返しっちゅう無茶しぃひんかったら今の太閤秀吉は無かったんや。無茶は豊臣の専売特許やで!

「畏まって候」

 よっしゃー! 3刻後に茸狩り確定や! さあ、天下人の意地と気合いの魅せ所やで。ここでしくじったらわしの天下は終わんねや!!

「太閤様、短い間でしたがお疲れさまでございました」

 だあぁ、三成が別れの挨拶しとる。冗談ちゃうぞ、わしの気合いは不可能を可能にする魔術なんじゃい! 見とれ三成め、必ず地団駄で躍り狂わせたるわ。





 3刻後





「見たか三成ぃ……。これが天下人の意地じゃあ……」

 片したでぇ、壊滅的な書類の山、きっちり3刻で片したでぇ。さあ躍れ三成!

「お見逸れしました。さすがは太閤様、天下人の気合い、しかと見してもらいましたわ……。しっかし太閤様、息も絶え絶えでんなぁ……」

 なんやねん、躍らへんのんかい。おまえも関西系なんやったらここは躍らな嘘やろ!?

「そうゆうお前も絶え絶えやがな……」

「太閤様、茸狩りの準備整いまして候」

 うわ、いきなりかぁ、びっくりしたぁ。さすがは忍、まさに忍んどるのう。まあ、準備のほうはとっくに終わっとってわしらの仕事が終わる頃合い見計ろうとったんは解っとんねんけど、あえてそこは突っ込まんどいたろう。

「よっしゃよっしゃ、ほだら気合い入れて狩りまくったろうで!」

「さあ、いきますか、一益さん」

「畏まって候」

 うおっ、無視かい。この太閤秀吉をおもくそ無視するたあええ度胸しとるやんけ。

「あのなあ、もっとなんかこう、おうとかえいえいおうとか……」

「一益さん、ほんまに俺が呼ばへんかったら来んでもええですから」

「考慮しておきまする」

 ……もうええわ……。









 おおう、さっすがわし! 各地から諸大名が集まってきたのう。名だたる大名がこうして一同に会する様はほんまに壮観やのう。

「皆此度はわしの呼び掛けによう応えてくれたのう! さあ、ここにある茸、一つ残さず採り尽くしたってくれぇ!」

「……」




 !




 こいつらもか? こいつらもなんかい! ああ、《ほんまは来たあなかったんやがお前の主催やからしょーがなく来たったんやぞ》って顔に書いてあるぅ!!

 なんとかせな、こりゃなんとかせなわしの沽券に関わるで。

 よし、ここは家康に振って士気を煽ってもらうとしよう。

「徳川殿も忙しい中よう江戸から来てくれはりましたのう。今日は皆で美味しく茸鍋をつつくとしましょう」

「そりゃあもうたいこーさまと茸鍋をつつけるとあらばこの家康、地獄の底までお供しまさぁ! なあ、野郎共!?」

「「応!!」」

 あらら、威勢のええこって。さすがは三河武士団やな。まさか脚絆の下に脇差しとか持っとらへんやろな? あと、太閤様って言葉に馬鹿にした響きがあったことはあえて……、突っ込んだるわい!!

「なんか今、ものごっつわしのこと馬鹿にしとらんかったか?」

「滅相もございやせん、この家康のどこに天下のたいこーさまをコケにできる度胸がございやしょう」

 あーもう確定やな。この狸親父には後でベニテングダケでもよーけ喰わしたろ。






 死なん程度にビリビリさしたる。





 この三河武士団の威勢の良さで士気のほうもだいぶ……、上がってへんがな……。皆そんなに茸が嫌いか? それともわしか? わしが嫌いなんか? なんでや、わしが百姓上がりやからなんか!? ……取り乱してもしゃあない。ここは魔法の言葉で……。




「よっしゃ、ほだら一番でかいの採って来た奴には、黄金10枚出したるでぇ! 皆張り切って狩ってやぁ!」




「「「「うぇい! うぇい! ぐうおおぉおぉぉ!!!!」」」」





 なんやねん、なんやっちゅうねんな、この熊の遠吠えみたぁな鬨の声は!? 皆ついさっきまでおもろなさそーにしとったやんけ。魔法の言葉、げに恐ろしき黄金の力やな。









 ありえへん。ありえへんがな。シメジが生えるようにブナ林にしとった裏山に……、松茸がよーけ生えとるぅ!!!

 一益め気ぃ利かしてどっかから植え替えよったな。



 要らん気ぃ利かさんでもええっちゅうねん!



 はあ、ひい、ようやっとこさ松茸全部片したな。うん、ここからが本番や。ったく、無駄に息切れてもたやんか……。

 おっ、あんなとこにものごっつでかいシメジが一本生えとるやんけ。ほんまにようおいでなすった! こーゆうのを期待しとったんや、こーゆうのを! よっしゃ、さっそくしばいたろぉ。


「あーっ、なにしてはるんですか太閤様!?」

 あいた!? 

「なにすんねん三成! いきなり手ぇ叩いとんねんちゃうぞ!」

 いったぁ……。赤うなっとるやんか。

「あきまへんわ。それ、イッポンシメジっちゅう猛毒茸でっせ!?」

 あん? なにを言うとんやねや? まさか本気でシメジが毒茸や思うとんねんちゃうやろな。物知りで鳴らした三成に限ってそれは無いと思いたいが……。

「まさかわれ、シメジが毒茸や思うとんねんちゃうやろな?」

「シメジじゃなあてイッポンシメジやっちゅうてますやろ」

 また訳の解らんこと言いよる。さてはこいつ、何や企んどるのとちゃうやろな。

「一本やろうが百本やろうがシメジはシメジやんけ」

 そうはいくかい。そう易々と黄金はばら蒔かへんで!

「シメジっちゅうたら普通10本ぐらいまとまって生えてますやろ。でもこのシメジ一本だけですやん。一本だけしか生えへんから【イッポン】シメジ言いますねんで!?」

 だぁぁ、くどい! そこまで黄金がほしいんかい!

「わしがゆうとんのはなぁ、普通のシメジやろうがイッポンシメジやろうが、シメジはシメジやろっちゅうことやねんな」

 シメジはシメジなんや。食えん訳あるかい。

「太閤様ともあろう御方が毎年中毒者を出しとるイッポンシメジを知らへんのですか? シメジに似とるからシメジっちゅうてますけど、ホンマはこれ、ツキヨダケっちゅう毒茸の仲間なんでっせ」

 嘘やな、絶対嘘や。ツキヨダケっちゅうたら木に生えるサルノコシカケみたいなやつやんか。わしの黄金はわしのもんやがな!

「解りました。そないに死にたいんやったら勝手に採って食うてくださいや。太閤様の跡は俺と秀秋様で何とかしときますから」




 秀秋!?




 なにを言い出すんやこいつはぁ……。

「三成ぃ、わしの跡はお拾に継がすっちゅうとるやろ……」

「でもお拾様は十にも満たない幼子。どうしても継がせたいなら太閤様にはまだまだ長生きしてもらわへんと話にもなりまへんなぁ」

 お拾!? あの三成がお拾まで引っ張り出して止めにかかるとは……。ほんまにこれイッポンシメジたらいう毒茸なんか?

 せやが……、採りたてシメジの旨味っちゅうのもどうにもこうにも棄て難い。うーん、どうする。

 ……………………しゃあない。わしにはもうお拾っちゅう跡取りもおるこっちゃねんし、あいつに毒見さしてみっか。




「秀秋! お前これちいと食うてみぃ」




 これやな。これが一番無難やろ。わしは死なんですむし、跡取りに秀秋の名前を引っ張り出して来るやつも居らんなるし。

「なっ!? 食うてみって親父様!? あの三成がお拾まで引っ張り出して止めよるもん、そないパクパク食うてええもんちゃいますやろ!」

 おっ!? 誰に口を利いとんなあひーでーあーきぃ……。この太閤秀吉様が食えっちゅうとんねんぞ。ぐだぐだ言わんと黙って食うたらんかい……。

「おまえ、帰ってから打ち首獄門になるんと、わしのためにここで死ぬんとどっちがええ……」

「どっちも嫌やぁ!!!!!!」

 わがままな奴ちゃのう。この場で手打ちにしてまうぞ!?


「もーええ!!!!!!! そないに俺の言うことが信用でけへんねやったら、俺がこの場で採って食うたらぁ!!!!」


 あーかーん! 三成がキレてしもうたぁ!!


 今三成に死なれるんはお拾が死ぬ次ぐらいにあかん。しゃーない、ここはご機嫌取っとこう。

「すまんかった三成。このシメジは諦めるからそれで許したってぇな」

 どや、信長さまのご機嫌をさんざっぱら取ってきた禿げネズミの必殺猫なで声やで? 落ちろ三成。

「……」

 あかんか……。

「なあ、ほんまに悪かったって、三成」

「……」

 あー、こりゃほんまにキレとるな。しぁあない。魔法の呪文や。

「特別に無条件で黄金10枚やるから。な?」

「……」

 あーもう、どうやったら機嫌直してくれんねや? 清正並みに意固地なやっちゃのう……。

「ええかげん許してぇな、みーつーなーりぃ……」












 こうして秀吉の茸狩りの一日が更けていくのだ。因みに関ヶ原合戦における秀秋の裏切りは、これが原因だった…………………………かどうかは全くもって定かではない。










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