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鬼の里  作者: 野村 ヨシ
6/8

青鬼の海司(6)

海司(かいし)は興奮で眠れなかった。


今日の結鬼(むすびおに)の牡丹と言う女鬼が忘れられない。



部屋に入ってきて一目姿を見た瞬間、彼女しか見えなくなった。


清らかな声は、男鬼だけだったこの部屋の清涼剤となり、焦げ茶の髪は柔らかそうで、女鬼の生気をたっぷりと含んでいた。

生えたばかりの角の先は丸く、庇護欲をそそる。


海司(かいし)は、牡丹の角をまわりの男鬼に見せるのが嫌だった。

自分の縄張りに建つ自宅に迎え、誰にも角を見せないように隠したい。

縄張りの中ならば、他の鬼が入ってきたときはすぐにわかるし、安心だ。




嫁に行った女鬼は、夫にしか角を見せないのが身だしなみとされている。


女鬼の角は、祝言を挙げて初夜を過ごして以降、自分の意思で出し入れできるようになる。

男鬼と同じく興奮状態になると出現するので、男鬼は自分の伴侶の角を決して他の鬼には見せない。



海司(かいし)は、まだ伴侶が決まっていない牡丹の角が剥き出しであること、その角が今他の男鬼に晒されていることに酷い嫉妬を覚えた。




海司(かいし)は、他の鬼が牡丹に話しかけないよう、ずっと殺気を飛ばしていた。

あまりに集中しすぎて、牡丹にあまり自分のことを語れなかった。


気になる鬼はいるのか?


俺は視界に入っているか?


角は四本あるが、よく見てくれないか?


明日にでも嫁に来てくれないか?


牡丹に言いたい・聞きたいことはどれも直接的過ぎて、できない。

どうしたものかと思案していると、ふと牡丹と目が合った。


慌てて微笑みかけたが、どうも牡丹の反応はイマイチだった気がする。



縄張りの広さは里でも上位を争うくらいだから、家に閉じこもり切りではなく、伸び伸びと過ごせること。

女鬼が生活出来るよう、大体の物は揃えてあるので、すぐにでも不自由なく生活ができること。


たくさん伝えたいことがあったのに、何も伝えられなかった。

海司(かいし)は、鬼への情も厚く、決して冷たい鬼ではない。

だが、自分の青鬼としての容姿、さらに顔立ちまでもが、相手に冷たい印象を与えていることは知っていた。

なんとかして、いい印象を与えたかったが、今日のあの態度では無理だろう。

見た目通りの冷たそうな奴だと思われただろう。




そしてあれよあれよと言ううちに、結鬼(むすびおに)は終わり、海司(かいし)は絶望しながら自宅に帰ってきたのであった。




こんなことは初めてだ。

今も瞼を閉じれば、牡丹の姿が思い出される。


これが、恋…




段々と(おぬ)の形が崩れてきてしまっている。

意識を集中させるも、牡丹のことが頭から離れず考えられない。

それどころか、体中の細胞の全てが沸騰して、どうにかなってしまいそうだ。

海司(かいし)は完全に鬼の姿に戻ってしまった。



この姿は、生気をだだ流しにする上に、興奮状態となり気性が荒くなる。

そのため、成鬼となった際には本能を抑えて(おぬ)の形が崩れないよう、厳しい修行を行う。


「興奮して変化出来ない場合は、女鬼がその姿を見て怖がられて嫌われる様子を思い浮かべる…」


牡丹が、怖がっている様子を思い浮かべる。

女鬼と言われて、即座に牡丹を思い浮かべる時点でかなり重傷なのだが、本人には自覚はない。

牡丹が自分を嫌う姿を思い浮かべると、海司(かいし)は頭を鈍器で殴られたような衝撃と、心の底からの後悔をした。


ようやく普段の姿になった海司(かいし)は、のろのろと立ち上がり、いつもの煎餅布団を敷いた。

囲炉裏の火を始末して布団に入った。


この布団も、牡丹の身体を痛めてしまう可能性があるから、買い換えるか…と、まだ逢瀬のお誘いもない女鬼を、我が家へ迎える妄想をしながら眠りに落ちた。





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