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鬼の里  作者: 野村 ヨシ
4/8

青鬼の海司(4)

じめじめと長いこと続いた残暑も過ぎ、からりと晴れたある秋の日に、桔梗は嫁に行った。


当日の朝、白無垢に身を包んだ桔梗がそこにいた。


「牡丹。今まで本当にありがとう。今日、私がお嫁に行ったら、会える機会が減っちゃうけど、ずっと仲良くしてね」


「桔梗、もちろんじゃない。花里に来てくれるのを楽しみに待ってるわ。旦那様と仲良くね。お化粧が落ちてしまうわ。そんなに泣いてはだめよ?」

牡丹は、両手で桔梗の両手を包み込み見つめた。


「牡丹に叱られてしまうなんてね。牡丹も早くいい方を見つけてね」

牡丹を見つめ返し笑った桔梗は、今までで一番の笑顔だった。


嫁入り行列がゆっくりと花里を出て行く。

行列が小さくくなり見えなくなるまで、牡丹は涙を堪えて見送った。



それから季節が過ぎ、里の山々の葉もひらりひらり舞う時期になった。

男鬼の集落にも時折焚き火が昇り、本格的な冬はもうすぐそこだ。



落ち葉を箒で集めていた牡丹は、ふと、こめかみより上二カ所が妙に疼いた。

何かが皮膚を突き破って出てくるような、そんな感覚がしたが、弱い刺激ですぐに疼きは治まったので、気のせいだったのかもしれないと忘れていた。


だが数日後、同じ箇所が今度はズキズキと痛みだしたのだ。

これは間違いない。角が生えてくるんだ。

発情期を確信した牡丹は、手に持っていた針道具を投げ出し、花里の里長(さとおさ)の元へと走り出した。



おっとりした性格の牡丹が必死な顔で里長の元へと走る姿を見て、花里を巡回していた男鬼が何事かと非常に心配をして、持ち場を離れて牡丹を追いかけたらしい。

里長に角が生えてきそうなことを報告すると、長は自分のことのように喜び、お祝いの言葉をくれた。

そして、角が生え揃ったら、数日のうちに結鬼(むすびおに)の席を設けることを約束した。

牡丹はズキズキと痛む頭痛も、大人の女鬼となれた証として、とても嬉しかった。




牡丹の角が生え揃ったのはそれから10日が過ぎた頃であった。

左右の角が同じ長さとなり、痛みが引き何日か経ったある日、牡丹の結鬼(むすびおに)の日取りの知らせが来た。


牡丹は、知らせを年配の男鬼から受け取ると、ぎこちない笑顔でお礼をいい、すぐさま自室に篭った。

里長の字ででかでかと「結鬼(むすびおに)」と、書かれた封を切り、恐る恐る中身を広げる。


日取りは師走の半月の日、気になる男鬼の参加者は…ひい、ふう、みい…

全部で五人ほどらしい。

白鬼の誰々と、集落名と名前が添えられている。



結鬼(むすびおに)に参加する男鬼の資格は未婚であることだけだ。


実際には、相手の女鬼の年齢に合う若い鬼が優先で、どの集落からも参加機会を平等に与えるため、基本は各集落につき一名だ。

各々候補を出し、候補の男鬼の能力の高さを優先に参加者が5〜10名程度選ばれる。

逢瀬の申込みは女鬼の希望が優先されるため、一度目の席でどうしても気に入る相手がいない場合は、もう一度だけ結鬼(むすびおに)を行う。

だがここ千年以上も前例がないので、まずないと言ってもいいだろう。



牡丹は、知らせに書かれた男鬼の名前を一つずつ追うも、知っている名前はなかった。

それもそのはずで、花里の里の中の見守りは、力の強い年嵩の鬼がほとんどで、若い鬼は外部見張りにつく。


参加の男鬼の名を一人も知らないことを不安にも思ったが、桔梗のような気になる相手もいないのだ。

どっちでも同じであろうという考えに至ると、知らせを大切に畳んだ。


結鬼(むすびおに)に来て行く晴れ着はどれにしようか。

牡丹は、大切な日なので先輩の女鬼に相談をして決めようと立ち上がった。









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