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鬼の里  作者: 野村 ヨシ
2/8

青鬼の海司(2)

海司(かいし)の家は、青の集落中心にある実家から離れたところにある。

鬼の往来はあまりなく、目の前を流れる清らかな小川もあいまって、海司(かいし)はこの家が気に入っていた。


ただ、嫁取りを前提に考えた家なので、独り身の海司(かいし)には、広くて少し寒々しいこともあるが。

飯炊きをしてくれる嫁も、もう見つからないかもしれない。せっかく用意した姿見も、埃を被って部屋の隅に出しっぱなしだ。

だが、女鬼を守る責任も重くなく、自由きままな今の暮らしも、そこそこ充実していると思い始めている。


「昨日の味噌汁でも温めて、イワナでも焼いて食うか」


飯は、二日前に親父からもらった玄米が(ひつ)の中にまだあったはずだ。

ついでに飲みかけの酒も空けてしまおう。


海司(かいし)は、囲炉裏端に座り込み、ゆっくりと鍋の中で煮立っている味噌汁をかき混ぜた。


腹も満たされ、ホロ酔い気分になった海司(かいし)は、あぐらをかいたままぐっと背伸びをした。

それから目を閉じて力を込めると、真っ黒な髪は根元から空のような青色に変わり、その頭にはニョキニョキと角が生えてきた。

目を開けたら、瞳は髪の毛よりも少し濃い青になった。



男鬼の本来の姿は、それぞれの集落の髪の色と、それと同じ色の瞳、そして曲って生える太い角を持った姿だ。

この姿は、保っているだけて生気を使うので疲れるし、人間のいる里に下り、

仕事をする鬼に都合が悪い。


普段は(おぬ)の形と言う、人間と同じ角のない黒髪で過ごし、闘いのときと角の手入れ、あとは求愛と結鬼ときだけ本来の姿に戻る。

最も、極度に興奮すると(おぬ)の形が崩れてしまうので、男鬼だけで猥談をした際に、朝まで話し込み、生気を使い果たして泡を吹いて倒れた若鬼…なんて笑い話もある。



角は伸びるものなので、時々こうやって本来の姿に戻り、角を削るのだ。


海司(かいし)!またお前は駄目だったのか!」

木戸を叩きもせずに、思いっきり戸を引いたのは、海司(かいし)の父親、蒼太(そうた)だった。

彼はズンズンと歩いて、草鞋を脱がずにどすっとタタキに腰を降ろした。


「あの子は真紅(しんく)に夢中で、俺は蚊帳の外だったよ。元々無理だったんだ」

手にしていた研ぎ石をコトリと傍に置き、海司(かいし)は、投げやりに言葉を返した。


「お前のやる気が足りないからだろ!そんなんだから、いつまでたっても嫁が来ないんだ!!いつも言ってるだろう、女鬼の視界に少しでも長く映るようにとか、、まあいい。

そんなお前に、結鬼(むすびおに)の席を申し込んでおいた!今度こそ、逢瀬の約束を取り付けろよ」



「努力はするさ」

蒼太を見つめ返した海司(かいし)は、もう黒髪に戻っている。


あまり期待はしないでほしいがな。

と、海司(かいし)は、心の中で一言付け加え、息子の嫁取りに燃える父親を見た。


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