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屑鉄機械劇場  作者: 椿
63/67

9ー5

夕方になって、見つかった人の遺族がやってきた。隊長とジェイクが説明と謝罪を述べている。来希が見つけた遺体には、白い布がかけられていた。


状況説明が終わり、本人確認という一番残酷な儀式が行われる。やってきた遺族は若い女性で、おそらくは亡くなった人の恋人だろう。彼女は両手で顔を覆い、泣き崩れている。


布の一部がめくられ、女性が恐る恐る確認した。やはり、間違いはなかったらしい。


女性の反応を、来希は見ることが出来なかった。この世で最も残酷な事実を彼女に与え、そしてその原因を作り出したのは他ならぬ自分。直視などできない。


下を向き、ぼんやりと立ち尽くす。どうしよう。犠牲者は彼だけではないだろう。もっといるはずだ。


「おい新入り!」


名前を呼ばれ、来希はびくりと肩を震わせる。視線を上げると、ジェイクがこっちに来いというジェスチャーを送っていた。


何の用だろう? まさか糾弾されるのだろうか? いや、自分が勇者だと知っている者など……。ここにきて保身を考える自分が嫌になる。


いっそ、罵倒された方がマシだと開き直り、来希は足を踏み出した。一歩一歩、近づいていく。果てしなく長い道のりに思えた。


遺体のそばにくる。


「彼女が、お前に礼を言いたいってさ」


またも、来希の肩が震えた。


「あなたが、夫を見つけてくれたのでしょう?」


女性の声。少し上ずっていたが、しっかりとしたものだった。きちんと顔を見て話そうと、来希は視線を上げる。


地面から、彼女の足。そして──腹。細い足とは対称的な、大きな腹部。これは、妊娠している人の──


来希は、目の前が真っ暗になるような錯覚に陥った。


「あ、あの……」


「あなたが、主人を?」


殺した。もっと言うなら、あなたの中にいる子の父親を。


「…………」


黙り込んで俯く来希の両手を、女性はそっと握る。女性の綺麗な手とは対称的に、来希の手は剣やスコップを握り、重い物を運んだために出来たマメや傷でまみれていた。


「ありがとう」


その言葉が一番キツかった。来希は弾かれたように顔を上げ、女性を見る。栗色の長い髪が特徴的な、美しい人だった。


しかし、その頬には涙の跡がある。


「いえ……」


来希はまた俯く。ただ一言。それしか言えなかった。


◇


暗い山道を慎重に歩く。<ブーゲンビリア>から遠く離れた、ヘルクトという街の近く。といっても、街から三〇キロ以上離れているが。


シルヴァは懐から双眼鏡を取り出す。視線の先には、ずいぶん昔に閉ざされた鉱山。以前、敵ゴーレムに仕掛けた発信器の反応はあそこから来ている。


「ふむ……」


「どう?」


横のリオンが尋ねてくる。シルヴァは答えず、双眼鏡を渡した。


「かなり大規模だね」


「ああ。今の俺達では手が出せん」


見た目は廃れた鉱山だが、中身はちょっとした要塞だろう。配備されているゴーレムは少なくとも二〇体。


「古い鉱山を再利用した物なら、耐久力に問題があるかも」


人の手が長い間入っていない鉱山はかなり危険だ。アルメイアでは立ち入りが禁止されるほどである。


少しの衝撃で崩落するし、有毒ガスが蔓延している可能性だってあるのだ。そんなところに住みつくのは山賊か魔物くらいだろう。


「連中の資金力は異常だ。内装は見てみないと分からんが、おそらくは国からの支援を受けている」


アルメイアがいつまでもテロリストに手こずる理由の一つだ。どこかの国がテロ組織を積極的に支援している。


しかも、協力的な国は一つや二つではない。根城には手が出せず、半永久的にイニシアチブを取られ続ける。


反面、アルメイアに協力的な国は皆無だ。シルヴァも騎士団時代にさんざん苦労した。


「侵入してみたいが、無理だろうな」


万が一発見されたら、確実に殺される。二人だけで行動している今だって、かなり危険な橋を渡っているのだ。



「どうする? 一回戻って、<ブーゲンビリア>を連れてくるか……」


「あの船が沈むぞ」

要塞を攻撃するなら、ガーベラ・ポートだけでは戦力が足りない。ウィンステッド軍の協力が不可欠だ。


だが、大きな戦力を動かすのにはしっかりとした理由がいる。「あの鉱山にテロリストが隠れています」などと言ったところで、相手にはされないのだ。


「この国もテロリストの味方なんだろうし……」


リオンがぼやく。


戦力が足りない、味方がいない、証拠もない、というこちらに対し、相手は万全の態勢を整えている。言うなればお手上げ状態なのだから仕方ない。


「補給ルートを叩くってのはどうだ?」


この国がいくらテロ組織に協力的でも、直接的なアクションはとらないだろう。補給ルートをチクチク潰して、要塞内部を干上がらせる。対籠城戦の鉄則だ。


だが、


「無理だろうね。ああいう鉱山は地下に通路が設けられているだろうから」


リオンにあっさり潰された。仮に地下通路があった場合、それを潰すのは極めて困難だ。やるとしても数年かかる。


シルヴァは舌打ちし、


「張り込みしかないな。どっかに穴があるだろう」


それから三時間ほど、二人は薄闇の中、双眼鏡を覗き続けた。無駄口一つない、無音の時。


こういった集中力、持久力を必要とする仕事には慣れていた。三日三晩ぶっ通しで続ける自信すらある。


「…………」


隣のリオンも同じらしい。ますます彼の過去が気になってくる。


「あ」


「どうした?」


リオンから双眼鏡を受け取り、覗き込む。廃鉱山には不似合いなほど頑丈なシャッターが開き、中から人がぞろぞろと出てきた。三〇〇人くらいだろうか。


「あれは訓練生だな」


「訓練生? いったい、何をしに……」


「たぶん、近くに専用の訓練キャンプがあるな。そこに行くんだろう」


あれだけ巨大なアジトの近くだ。若い新戦力を育てるにはうってつけである。


「なら、そこの場所も調べておこう。もしかしたら、それが糸口になるかもしれない」


「わかった」


シルヴァは頷いて、移動を開始した。


◇


最後の仕事が終わり、来希はスコップを置いた。世話になった作業員ひとりひとりに挨拶してから、隊長の所へ行く。挨拶が済み次第、来るように言われていたからだ。


「お、来たか」


副隊長のジェイクもいた。来希は二人に頭を下げる。


「今日までご苦労だったな。礼を言わせてもらう」


「助かったぜ。給料を払いたいくらいだ」


報酬を出そうか、という話は何度もあったが、来希は頑として受け取らなかった。


「話っていうのは……」


「ちょっとした送別会だよ。他の連中は後片付けがあるから来れないが……」


「え……」


「ま、ついてこいや。綺麗な姉ちゃんのいる店に連れて行ってやる」


二人に連れられ、歩くこと一五分。街の中心部にある、一軒のパブに連れてこられた。中に入ると、酒や煙草の匂いが鼻孔をくすぐり、ジャズに似た古風なメロディーが鼓膜を撫でる。


ジェイクの言うような、浮ついた雰囲気の店ではない。渋さのある"大人の店"だった。


他の二人はともかく、来希はどうしようもない程に浮いていた。こういう店は格好いいし、いつかは入ってみたいと思っていたが、一六歳のガキには似合わない。


「あ、あの……」


「ん、どうした?」


「く、空気が……」


「ああ。気負う必要はないぞ。むしろ、こういう空気を楽しめるようにならなくちゃ、女にモテないからな」


二人は空いていたテーブルにさっさと座ってしまう。手招きされたので、来希も適当に座った。


こういう店になると、メニューも置いていない。


「マスター、いつもの」


「あいよ」


「お前は?」


「えぇっ?」


マスターと呼ばれた厳つい男性の目がこちらを向く。来希は蚊の鳴くような声で、


「さ、酒以外の物を……」



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