8ー3
「じゃあ、動かすぞ」
<ライン・ラーク>の操縦席。シルヴァは器体を立ち上がらせながら、眼下のリカードに言った。
『どうぞ。慎重にお願いしますよ』
格納庫の中を移動し、一つのコンテナの前までやってくる。全高約八メートルのゴーレムと比較してもかなりの大きさ。人間サイズで言うなら、立派なクローゼットを横倒しにしたくらいのデカさだった。
リオンの乗った<セイブ>と協力して持ち上げる。一〇トンや二〇トン程度ではない。器体の骨格が軋む。
平常運転では駄目だ。そう判断して動力炉に魔力を注ぎ込む。戦闘で出すようなパワーでようやく、どっしりと構えていたコンテナが腰を上げた。
「おいおい……」
この中に入っているのはゴーレムが携行する武器ではないのか? そんな疑問を飲み込み、シルヴァはリオンと二人がかりでコンテナを外へ持っていった。
二〇〇メートルほど先に弓やロッドの訓練で使う的が見えた。所定の場所で重い荷物を下ろす。戦闘の時ほどではないが、器体に熱が籠もってしまった。
コンテナを開き、中の物を改める。シルヴァは顔をしかめた。
『なにこれ?』
リオンも同じように思ったらしく、素朴な疑問を口にする。
「なんだこれは?」
中に入っていたのは謎の細長い物体だった。資料で見た銃とやらとは似ても似つかない。筒状の……土管か何かに見える。
『煙突?』
「土管だろう。これは」
馬鹿なことを言い合いながら、中の土管を取り出す。やはり大きい。しかも、パーツは三つに分かれている。土管の部分と、同じく筒状の、いくつか穴が空いた……レンコンのような物体。それと固定用の台座だ。
作り自体は簡単なので、組み立てる。土管とレンコンを連結させ、台座の上にはめ込んだ。火花が散り、ガチッという音と共に組み立てが完了する。
「リオン。弾をレンコンに」
『これはシリンダーっていうんだよ』
<セイブ>が背負っていた箱を下ろし、中から砲弾を取り出した。片側が尖ったドラム缶のような形状だ。一つをレンコン──シリンダーに挿入。これで準備は終わりだ。
『終わりました?』
リカードがやってくる。シルヴァは<ライン・ラーク>の胸部装甲を開き、
「ああ。組み立てはこれで良いんだろう」
「そう……ですね。問題ないです」
『随分と大きいね。まるで大砲だ』
「はい。安全性と耐久性を優先したらこんなになっちゃって。なんせ、テストするのはシルヴァさんですから」
「…………」
いったい、なんだと思われているのか。シルヴァは苦い表情になった。
「中で弾が爆発しても大丈夫なように出来てます。間違っても周囲に被害は出ません」
なるほど。いくら理論が完成しているとはいえ、これは初の実験なのだ。基本的な部分だけ備えていれば良いのだろう。
「それじゃ、撃つぞ」
シリンダー部分に付いているグリップを握る。
<セイブ>がしゃがみ込み、生身のリカードを守るように両手で壁を作った。いくら安全性が高いとはいっても、飛んできた小石が当たるだけで致命傷になるのだ。
周囲の安全を確認し、シルヴァの<ライン・ラーク>は注意深く魔力を注ぎ込む。
完成系ではあらかじめ砲弾に魔力を充填しておき、それを発射するという予定だったが、これは違う。こちらから魔力を供給しなければならない。
トリガーを引いた。この巨体だ。さぞかし強い衝撃が来るだろう。シルヴァは器体を踏ん張らせた。
だが──
「…………」
巨大な砲身から放たれた魔力弾はノロノロと飛んでいき、二〇〇メートル先の的を僅かに揺らした。
速度は毎時一二〇キロくらいだろうか。発射物としては遅すぎる。まるで水鉄砲みたいだった。
「…………」
『…………』
シルヴァもリオンも無言だった。コメントしようがない。覇気の無い動きでシリンダーを展開させ、中から砲弾を取り出す。
それを地面に置き、シルヴァは言った。
「俺が思ってたのと違う」
◇
<ブーゲンビリア>の格納庫に戻ってきたリオンは器体から降り、辺りを見渡す。
<ライン・ラーク>の周り整備士達がひときわ群がっており、例によって入念な点検がされている。操縦者のシルヴァも、例によって入念なメディカルチェックを受けにいった。
「これ、見てくださいよ」
リカードに声を掛けられ、振り返る。頑丈な鉄製のテーブルには、テストで使った砲弾が置いてあった。
「これがどうしたの?」
リオンはシルヴァとは違って、こういった方面の知識に疎かった。こんな鉄の塊を見せられても、素人じみたコメントしかできない。
「凄いですよ。足元に気をつけて」
そう言ってリカードは砲弾に何かの工具を差し込み、ひねる。
石同士をこすりあわせたような音が響き、砲弾の先端部が転げ落ちた。なるほど、これが足に直撃したら大変なことになる。
「…………?」
リオンは警戒しながら砲弾の内部を覗き見た。
中には何も無い。鈍色の砂が溜まっているだけだ。
「随分とさっぱりした作りだね。これなら作るのも楽そうだ」
おどけたように言うと、リカードは肩をすくめた。
「こういう設計にしといて良かったと思いますよ」
魔力弾の発射自体は成功だった。砲身にも問題は無い。全てうまくいった。
だが、シルヴァの魔力には万物を崩壊させるデメリットがある。それはどこにいったのか?
答えは、この砲弾にあるらしい。"崩壊"の効果は全てこれが受け止める。身代わりのようなものだ。
「で、完成はいつ頃になるの?」
「それはまだわかりませんよ。なんたって、最初のテストをクリアしただけですから」
「…………」
それは困った。この武器が完成すれば、ウィンステッド軍は高い中距離戦能力を手にする事ができる。そうなればアルメイアの高圧的な外交姿勢にもひびを入れられるだろう。
なにより、シルヴァ・ウィンチェスターというジョーカーを近距離以外で使う事もできるのだ。人手不足のガーベラ・ポートにとって、彼に期待される戦術的価値は大きい。
無論、それはリカードも理解している。
「大丈夫ですよ。ある程度まで行ったら、小型化は簡単なんで」
「そうなの?」
「はい。これが異常に大きくなったのは安全性を重視した結果ですから……」
リカードは今回使用した魔導式銃砲を眺め、少し唸る。
「一カ月ですね。それくらい経てば、試作品の一つくらい……出来てるはずです。多分」
なんだか自信が無いように見える。無理をさせるつもりは無いので、リオンは気を利かせて言った。
「あ、別に急かしてるわけじゃないんだよ。ただ、シルヴァにも飛び道具を使わせてやりたくってね」
<ライン・ラーク>のデビュー戦。シルヴァは敵の部隊に囲まれて苦戦を強いられていた。
相手の連携が見事なのもあったし、あの時の<ライン・ラーク>は素手だったのもある。だが、一番の原因は敵の狙撃手の存在だ。
あの<グローリー>はおそらく隊長器だったのだろう。部下を張り付かせて<ライン・ラーク>を釘付けにし、絶妙なタイミングで必殺の一撃を叩き込む。シンプルだが、相手が一人なら有効な戦術だ。
あの状況で撃破されるどころか、逆に敵の何器かを返り討ちにしたシルヴァはとんでもないし、そんな彼を小さな損害で抑えこんだ敵も見事である。
傍目から見れば地味な小競り合いだが、熟練者同士の戦闘などそんなものだ。魔力をたっぷり使った大技を出す場合など限られている。
そんな事を長々と語ってから、
「つまり、あの状況は飛び道具さえあればなんとかなったってことさ」
「はぁ……」
多数の敵に囲まれた際の対処法は沢山ある。地形を利用したりするのは当たり前だ。相手の隊長器を倒したりするのも効果的だし、強行突破も一つの手である。
シルヴァくらいの魔力があったら、それこそ大技で薙ぎ払うのが一番手っ取り早い。最も、彼はそれが出来ないのだが。
「要するに、シルヴァさんが使えるくらいの物を完成させれば良いわけですね?」
げんなりとした様子のリカードが訊いてくる。リオンは頷いた。
「わかってますよ。一カ月後を楽しみにしててください」
力強くそう言うと、リカードはさっそく作業に取りかかった。




