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屑鉄機械劇場  作者: 椿
39/67

3ー4

「視察……? 俺が?」


来希は素振りの体勢を解き、眉を寄せた。目の前には護衛の任を解かれたはずのリエリアがいる。


彼女がいなくなってからも缶詰め状態は続き、やる事も無かった来希は剣や魔法の修練に励んでいた。体を動かしていなければ、暗い考えに沈んでしまいそうだったからだ。


<ブレイド>にも何回か搭乗した。変な老人が訪ねてきて、細かな調整に付き合わされていたのだ。美人の秘書とも知り合いになった。


「はい。軍部の方へ視察に向かうよう、殿下からのお達しです」


「そっか……」


リエリアが突然現れたことに、驚きはない。ルフォンス王子から、彼女を護衛に戻すと言われていたからだ。

あの時──来希が王子と騎士団長に「帰らせてくれ」と頼んだ時、不可能だという返事と共に聞いた。


「わかった。いつから?」


「すぐにでも」


缶詰め状態は終わりらしい。来希は剣を鞘に戻した。


◇


「怪しい人影は無かったみたい」


「さすがに尻尾は出さんか」


シルヴァとリオンの二人は夕食の後、子供達を寝かしつけてから話していた。


<ライン・ラーク>を受領してからここに来るまでの間、何者かから尾行されているような気がしていた。


だから、大きな動きを見せないよう<セイブ>以外のゴーレムを持って来ていない。


悲しい事に、尾行される心当たりは山ほどあるので、どこの組織からか特定はできていなかった。


アルメイアの軍部かもしれないし、ガーベラ・ポートを快く思っていない国の可能性もある。人通りの少ないこの村なら尻尾を掴むのも容易いと考えたのだが、そう上手くはいかないらしい。


「襲撃してくると思うか?」


「それはないでしょ。それなら、この村に着く前に襲えただろうし」


「だが、泳がされているという可能性もある。適当に撒いておくべきだ」


実力行使は最後の手段である。相手の全貌が分からない以上、下手に刺激するのは危険だった。



「じゃ、そろそろ行くか」

夜中。シルヴァはリオンにそう言った。一週間近く滞在した後のことだ。


周辺の魔物はあらかた駆逐し、いくつかの仕事も手伝った。回収した魔石は宿代として納品していた。トルボもシルヴァの武器を完成させたらしい。


「やっと出ていくのか。せいせいするな」


トルボが言った。ここを発つ事は彼にしか伝えていない。


「負け惜しみはいいから、とっとと出すもん出せや」


シルヴァがチンピラのようなことを言う。トルボは「うるせえ」と悪態をついてから、大きめの木箱を取り出した。


それを開ける。中には手甲と脚甲が一式、入っていた。剣ではない。目を丸くしたリオンは二人に尋ねる。


「なにこれ?」


「手甲と脚甲だ。見てわからんか?」


「いや、そうじゃなくて。シルヴァに渡すのなら、剣じゃないんですか?」


最もな意見にトルボは頷く。そしてシルヴァを指差し、


「そこの小僧は、魔導器に頼らない戦い方を身に付けてる」


「まあ、でしょうね」


シルヴァの魔力は大抵の物を破壊してしまう。使う度に寿命が迫るのは物体の常ではあるが、彼の場合はそれが顕著だ。


そのため、剣術のみならず、幾多の戦闘技術を修めているのは道理である。でなければ、アルメイアの騎士団には居られなかっただろう。


「魔物を狩るなら今まで通り安物を使え。人が相手なら、そこのを使うといい」


「ありがとよ」


シルヴァは木箱を抱える。トルボはポケットから一枚の羊皮紙を取り出し、リオンに渡した。


「形状維持能力を優先させた造りになってる。だが、制御系に問題があってな。遠距離で戦うのはやめておけ」


「何で造った?」


「黒錬銅とバステングの合金だ。比率は4:1。本当なら、お前はヒヒイロカネを使うべきなんだが……あれは海を渡らんと手に入らん」


ヒヒイロカネとは、極めて高い耐久性を誇る金属だ。再生力も抜群で、頑丈さだけならアダマンタイトをも上回る。


しかし、加工も難しく海を渡らなければ入手が出来ないため、アルメイアでもウィンステッドでも殆ど流通していない。


「ミスリル銀は使ったことがあるだろう?」


トルボがシルヴァに尋ねる。


「ああ。アルメイアのトライ・スターだったからな」


「あれは魔法耐性が高いが、専用の施設がいる。お前らには向かん」


そう言って葉巻に火を点ける。話は終わりのようだ。二人が支度を始めると、中年の鍛冶職人がポツリと言った。


「トビーと馬鹿息子の二人には死ねと伝えておけ」


「わかりました」

出て行こうとすると、シルヴァが木箱の中を覗いていることに気づいた。リオンは訝しく思い、


「どうしたの?」


「……なんでもない。じゃあな、爺さん。また来る」


「奥さん達によろしく伝えておいてください」


「もう来るな。くそガキ共め」


最後まで口の悪かったトルボに挨拶し、二人は外に出る。


野道を歩く。都会のような灯りは無いが、月の光だけで充分に視野は確保できた。


「次はどこに行くんだ?」


シルヴァが尋ねる。近くで獣の遠吠えと鳥の羽ばたく音がした。


「ギルドかな。トルボさんに断られちゃったわけだし」


「また、あの女の所に行くのか……」


リリアナの事だ。彼女とシルヴァはとにかく仲が悪い。


「彼女は橋渡し役だから……。なんでリリーと仲悪いの?」


察しは着くが、リオンはあえて訊いた。リリアナは人嫌いが激しいが、進んで嫌がらせをすることは無い。シルヴァとの関係は非常に稀だと言えた。


「あの女の性格には問題がある」


よくも自分の事をここまで棚に上げられるものだ、とリオンは思った。


「人畜無害な俺に対して、あそこまで非道かつ陰湿な行いが出来るということは、彼女に特異な性癖があると考えられる」


「…………」


「サドスティックなんだろうな。他人を痛めつけることに無上の喜びを覚えるんだろう。これは俺の予想だが、あいつの好みは気弱な年下の可能性が高い。いや、同性愛者かもな」


べらべらと最低な憶測を並べ立てる。人格に問題があるのは街角なくシルヴァだったが、リオンは指摘しなかった。


リリアナが直接的な措置に出るのも分かる。一週間以上、一緒にいて痛感したが、シルヴァはとにかく口が悪い。


「そういえばさ……」


「ん?」


「君って、仲の良い異性っていた?」


「…………」

その質問をした途端、シルヴァは目に見えてしんなりした。


シルヴァ・ウィンチェスターは有名人だ。トライ・スターだったし、二年前の戦争で大きな戦果も挙げている。


そして、その素行も評判だった。無銭飲食や暴力事件は当たり前。資産家を脅迫して金を奪っただとか、その娘を誘拐しただとか、国王の靴を隠しただとか、悪い噂は山のようにある。


仲間に引き入れようとしている人間の事だ。リオンも色々と周辺を調べた。妙な資金の流れが無いか、危険な人間と関係を持っていないか、思想に問題はないか。


どれもグレーゾーンだったが、とりあえず合格だった。なにより腕が良い。リリアナもその一点に関しては手放しで褒めていた。


その中でリオンが気になったのは、彼の人間関係だった。同期である勇者の騎士や、アルメイア最強の第一騎士とも交流があったそうだが、浮いた話は一つもない。周りに見る目麗しい同年代の異性がいたというのに。


「第一騎士のクレアさん……だっけ? 仲良かったんでしょ?」


「フッ……」


乾いた笑み。疲れきった──まるで老人のようだった。


「そうだな。仲は良かったかもしれん」


「やっぱり」


第一騎士は強大な戦力の他に、看板としての側面もある。見た目が良ければ、それだけで一定の支持は得られるのだ。


「だが……あの女には悪癖がある」


「そりゃあ、誰だってそうでしょ」


「違う。あいつは……」


シルヴァは俯き、何度か頭を振る。


そして言った。


「ドジなんだ。どうしようもなく」


「よく転ぶとか?」


「いや……。抜けているというか、注意力散漫なんだ。いつもぼーっとしている。しかも自覚がない」


「…………」


その程度だったら無視しそうなものだが。意外に世話好きなのだろうか?


「騎士団長に脅されてな。あいつのイメージを守るために、俺は奔走していた。単位が危なかったんだ」


口元に手を当て、シルヴァはさめざめと泣いた。中々に辛い過去らしい。アウトローのように見えるが、その実態は常識人なのではないか……リオンはそう思った。


「じゃあ、一般のイメージとは違うんだ」


第一騎士のイメージと言えば、いつも凛々しく、いかにも騎士の中の騎士といったものだ。だが、それも国が作ったはりぼてなのだろう。どこでも似たような事をやっている。


雑談を交わしているうちに目的地に到着した。


大きな岩の近くで二人は立ち止まる。ここには長旅のために持ってきた<セイブ>を隠してあった。


いくつかの仕掛けを解除し、ブッシュ・シートを引き剥がす。頭部の無い、濃緑色の巨体が現れた。片膝をついた姿勢で鎮座している。


戦闘用に調整された器体とは違い、背部に巨大なコンテナを装備しており、各所にはベイロードを水増しするための工夫が凝らしてあった。


移動や補給に使われるタイプの物だ。作業用の鎧人形として開発された<セイブ>は拡張性が極めて高く、様々なバリエーションがある。


シルヴァはコンテナの上にいそいそと登っていく。背部には二人が乗れるように座席が増設されていた。


リオンも慣れた手つきで操縦席を展開させ、乗り込む。両脇の水晶玉に手を乗せ、起動。アルメイア製の物とは違い、マナの吸収音はしない。操縦者の魔力だけで起動するのだ。


<セイブ>が立ち上がり、余熱を吐き出す。それだけで周囲の木々は大きくざわめいた。


脚を曲げ、跳躍。森の上へ。


近くの街へ向かって移動を開始した。





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