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屑鉄機械劇場  作者: 椿
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第二話 襲撃者

来希は<ブレイド>が格納されている倉庫に来ていた。ここは首都全域に厳戒態勢が敷かれるなか、彼が訪れることのできる数少ない場所である。


近くに人影は無い。この倉庫はゴーレムを保管しておくための場所であり、整備するための場所ではないからだ。特定の権利を持っている者以外は近づくことすら許されない。


敵が狙ってこようが、今の<ブレイド>はコアが抜き取られている状態のため、なにをしようと動かす事は不可能だ。それ以前に、魔族や魔物の類いは干渉できないようになっている。


来希の立ち入りが許可されているのも、この場所が高い防御能力を持っているからだ。


来希は抜け殻のゴーレムに歩み寄り、その白い巨体を見上げる。


「…………」


初めて見た時の神々しさは全く無い。コアが無いからなのか、自分の気分が落ち込んでいるからなのか、来希にはわからなかった。


このゴーレムに乗って、来希は戦った。三人も犠牲にした挙げ句の果てに、怒りに任せて魔物を撃破したのだ。幾つかの施設や民家も破壊してしまった。


魔物に殴り飛ばされた時に背中から落ちて潰したり、敵を槍で突き刺した時に建物を巻き込んだり、色々だ。首都の中心部だけあって、頑丈な造りをしているはずなのに、<ブレイド>は易々とぺしゃんこにした。まるでダンボールのように。


そんな衝撃を受けて、このゴーレムは傷一つ付かない。その事実に来希は感嘆するどころか、言いようのない薄気味悪さを感じた。


(あのゴーレムはあっさりとやられたのに……)


来希が訓練の時に乗ったゴーレム。確か、<グローリー>といったはずだ。あの器体は修練場の壁に激突しただけで大破したというのに。


修練場が図抜けて頑丈だったというのもあるが、あれが"普通"なのだろう。全速力で追突してフレームも中の人間も無傷な車があったら、それは不気味だ。ありえない。


この世界の常識から見ても、このゴーレムは異常だ。


あんな化け物にボコボコにされても、ケロッとしている器体。


そんなものに乗ってしまっていいのだろうか? 楽に勝てるかもしれない。危険は無いかもしれない。


(本当に、それはいいのか……?)


この感覚。なにか大事なことがズレているような──そんな感じがする。少なくとも、今の来希には<ブレイド>に乗りたいと思えなかった。


◇


シルヴァと眼鏡の少女は、目的地の街に到着していた。


宿を確保してから、ギルドに行って魔石を換金。それを口座に振り込んでから、シルヴァは新しい街を散歩する。


ここバルタラは、国境に面している街で、トライド・ツリーやヘルトロイトのような、お行儀の良い所では無い。隣国とのいざこいや屈強な魔物による襲撃が絶えないため、必然的に冒険者や傭兵が集まってくるのだ。


道に石畳など敷かれておらず、そこを歩く者の目つきも極めて悪い。攻撃的な魔力を体から垂れ流している奴までいた。


シルヴァも目つきの悪さには自信があるので、四方八方にメンチを切りまくる。その姿はチンピラそのものであったが、彼はとても活き活きとしていた。


目を逸らす奴には視線を集中させ、本当にヤバそうな人とは目を合わせないのがコツだ。威圧感とふてぶてしさを一瞬で出し入れできる者こそが真のチンピラなのである。


シルヴァは謎の誇らしさを胸に抱きながら街を闊歩する。なんとなく、この街は居心地が良いような気がした。とても落ち着く。ここなら無銭飲食やカツアゲをしても、大した問題にはならないだろう。


騎士団の支部は基地の役目も兼ねているので、国境近くともなると街中には無い場合が多い。シルヴァとしては嬉しい情報である。無駄に組織内で名前が知られていると、変にマークをされて悪い事ができないのだ。


(これだから有名人は困る)


シルヴァの名前が載っているのは犯罪者系ブラックリストの類いなのだが、本人は気にしていなかった。


屋台でホットドックを購入し、パクつきながら夕陽の照らす街を眺める。この時間帯は比較的、人の姿が少ない。夜になれば、この通りも人でごった返すだろう。


暴力の匂いを撒き散らす男と、それを相手に商売する女。酒と紫煙の悪臭が四六時中、充満している──ここはそういう場所だ。間違っても健康には良くない。


それらから逃げるようにして、シルヴァは街の外れまで来た。辺りに人影は無い。あるのは寂れたゴーレムの整備場と、くたびれた酒場だけだ。


砂の色が付いた、汚い風が吹く。シルヴァはホットドックをたいらげようとして、その手を止める。


気配。だらけていた知覚が異変を感じて起き上がる。咄嗟に地面を見るが──


シルヴァは腰から剣を抜き、半ばやけくそで振るった。魔力知覚に任せた強引な迎撃。いつもなら数手先を読み、罠まで仕掛けられるのだが、そんな余裕はまったく無かった。


手に衝撃。金属同士がぶつかる甲高い音が響き、シルヴァは襲撃者の存在を確認した。


敵の得物は槍。こちらの安物と違って、見るからに高性能な物だった。戦闘のみを重視した無骨なフォルム。マルテール・ドラッド工房製の一振りらしい。


相手の顔は確認出来なかった。黒い布で隠している。


相当の手練れだ。シルヴァは舌打ちをしたかったが、ホットドックをくわえているためにできなかった。


襲撃者の体はいまだに空中にある。蹴りを放ってから、シルヴァは足に力を込めた。間合いを詰めなければ、槍の相手は厳しい。


すかさずナイフが飛んでくる。最悪のタイミング。いつもなら利用できるが、右肩と左足を狙った攻撃をかわすので精一杯だった。


(動きが読まれている……?)


たまらず回避。剣でナイフを弾いてから、前転して追撃をよける。しゃがんだまま居合い抜きを放つと、敵は槍を引っ込めて距離を取った。


この間に、シルヴァはもごもごとホットドックを食べきる。乱暴に咀嚼して飲み込んだ。捨てるという手もあったが、食べ物を粗末にしてはいけない。


しかし、相手はパン類である。最悪の事態が起こった。道の半ばで足を止めてしまったのだ。

マスタードが喉を焼く。涙目になりながら、シルヴァは咳き込んだ。どうみても致命的な隙だったが、相手は攻め込んでこなかった。


苦労して飲み込み、剣を構え直す。胃が不調を訴えていたが、それは無視した。


襲撃者の方も遅れて槍を構える。やはり、こちらを待ってくれていたらしい。変な奴である。両者は同時に前傾姿勢を取り、そして同時に飛び出した。


剣と槍が交錯し、火花を散らす。魔力の大して回っていない安物の剣と、魔力の回りまくっている一品物の槍。


折られる。


そんな確信のもと、シルヴァは力比べを放棄した。拮抗しかけていた力のバランスが崩れ、後方へ吹き飛ばされる。整備場に突っ込み、彼は埃まみれになった。


新品の服が汚れたという事実は重くのしかかったが、命には替えられない。死ぬのは構わないが、やられっぱなしで殺されるなど、許容できるはずがない。


老朽化していたトタンの壁をぶち破り、襲撃者が突入してきた。槍の持ち味である突破力を最大限、利用した戦法だ。普通なら回避以外の手はないのだが、シルヴァは待ち構えた。


剣を腰だめに構え、一閃。

その斬り払いは槍の先端部に集中していた魔力を容易く切り裂き、その威力を減衰させる。元はクレアの使っていた技だ。あの女は剣の一振りで隕石でも斬り払う。


相手はまたも距離を稼ごうとするが、それは許さない。こちらがなんの考えもなく廃工場に突っ込んだと思ったら大間違いだ。相手の懐に居座り、至近距離で斬撃の嵐を叩き込む。この時、初めて、相手の様子に変化が見えた。


障害物の多い場所では不利だと思ったのか槍を大きく振るい、直後に柄を地面に突き立てた。刃の反対側には何かの宝石が備え付けられている。どうやら、あの槍は魔法杖の役割も兼ねているらしい。


周囲に冷気が発生。息が白くなる。

辺りの障害物に霜が降り──


一瞬で何本もの氷柱(つらら)が生まれた。鋭利な刃物となったそれは、ほとんど全方位からシルヴァに殺到する。


手が足りない。防御は不可能。回避などもってのほか。シルヴァは歯を噛み締める。持っている剣から魔力を抜き、全身に行き渡らせ──放出。


万物を崩壊させる衝撃波が放たれ、全ての氷柱にヒビを入れる。二度目の波でそれらはことごとく砕け散った。


「なに……?」


だが、終わらない。氷柱は粒子状に分解されてもなお、仕事を続けていた。


粉末が飛散し、あたりに霧を作る。微弱な光を放ち、ダイヤモンドダストとも呼べる現象がシルヴァの視界を遮った。


(知覚妨害か……)


主だった探知方法は軒並み潰された。視覚も、聴覚も、嗅覚も。魔力知覚もだ。


元から二段構えの攻撃だったのだ。先ほどの氷柱は囮でしかなかった。


シルヴァは意識を集中させ、来るだろう攻撃に備える。こうなった以上、後手にまわざるをえない。


再び斬り払いの構え。既に剣は限界に来ている。砕けるのは時間の問題だ。


真上。


空気が捻れる。回避など出来ない。シルヴァは剣を横薙ぎに振るった。またも得物同士が激突し、その余波が霧を跡形もなく消し飛ばす。


相手の攻撃は重い。無理な姿勢で迎撃を行ったのもある。もはや剣は限界だった。駄目押しに魔力を注ぎ込んでから、相手に投げつける。


爆発。


腰から短刀を抜いて突撃すると同時に、袖口に隠し持っていた投げナイフを投擲。適当に投げただけだったが、弾いた音がした。相手の場所はわかった。


煙の中へ飛び込む。槍が伸びてきたが、それを紙一重で回避し、掴み、蹴り飛ばす。そして、短刀を振るった。


火花が舞う。ようやく捕まえた。槍を失った相手はこちらと同じく短刀を抜いていた。シルヴァは顔を寄せ、


「最近は、こういう挨拶が流行ってるのか?」


嫌味たっぷりに言ってやった。


「まさか」


おどけたように相手が応える。柔らかい印象の声だ。この襲撃者はまだ若い少年らしい。


彼は頭を覆っていた布を剥ぎ取り、その素顔を晒す。


茶髪に線の細い顔。柔和な表情を浮かべていたが、どこか影がある。


「挨拶っていうのは、相手に合わせるものだろう?」


「俺に合わせたのか?」


「嫌いじゃないと思って」


相手に戦闘継続の意志はない。茶番は終わりのようだ。シルヴァは短刀を鞘に収めながら言った。


「最悪の就職先だ」




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