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なんか、この小説ってロボットが活躍しないですね。
というか、出番が少ない?
「ええい!」
鬱陶しい。月の光に照らされながら、リエリアは剣を振るう。一体の魔物が切り裂かれ、斬撃の余波でもう一体を仕留めた。彼女の剣には金の装飾が施され、柄尻には杖が接続されている。
風の魔法で一帯を制圧。辺りの敵を駆逐するが、空いた空間を埋めるように魔物が現れる。これではキリがない。
(いつまで続く……)
現在まで戦い続けたリエリアは舌を打つ。既に三八時間は戦っている。疲れはないが、他はそうでない。
死傷者が後を断たず、被害も無視出来ないほどになっていた。練度が低い部隊が多い。
この騒動が始まる前から戦っていたクレアはヴァンプスと交代し、首都に戻って来ているはずだが──
四時の方向に気配。敵意がある。リエリアは直感に身を任せ、剣を無造作に振るった。魔力と魔力が衝突し、相殺する。
何者か不明。だが、尋ねようとも思わなかった。それは馬鹿のやる事だ。再度、剣に魔力を込め、放出する。牽制のための一撃だ。
剣を手元で回転させ、杖を上に。本命は魔法だった。逃げられる危険性を加味し、速度重視の一撃を放つ。
紫電一閃。雷光が走り、一直線に襲撃者の元へ向かっていく。悲鳴は無い。
(まさか……)
仕留めきれなかった?
前方から殺気。飛び込んでくる。やむなく、逆手に持っていた剣で受け止めた。
「流石は勇者の騎士、といったところですかねぇ?」
耳障りな声。襲撃者は人間だ。いや──
「魔族か」
青白い肌に尖った耳、それと強大な魔力。これは魔族の特徴である。耳障りな声と肥えた体は、この男の特徴だろう。
力比べに終わりが見えず、リエリアは蹴りを繰り出す。体型からして鈍いと思っていた相手は、予想外の身軽さを見せた。
(何人か殺されたか……)
魔族の男が持っている剣は騎士団員の物だ。奪ってきたのだろう。被害は一人とは思えなかった。
気配を消すのが上手いらしい。攻撃されるまで気付かなかった。その事実はリエリアの眉にシワを作らせる。
魔族は大陸の上半分を支配する種族だ。絶対数は人間の一割にも満たないだろうが、その代わりに力は遥かに上だった。魔物を送り付けてくるのもこの連中だ。
アルメイアの建国よりずっと前から人間と敵対している。全員が全員というわけではないが、目の前の男も例外ではないらしい。
魔族の力は圧倒的だ。一人で大きな街を壊滅させる者もいる。
「今頃なにをしにきた?」
「魔族と人間は戦うもの。いつの時代もそうでしょう?」
男の挙動は他人を苛立たせるものだった。意図的にやっているのだろう。リエリアは舌打ちをしようとして──やめた。代わりにこちらも挑発の言葉を口にする。
「くだらんな。だから仲間を殺される」
「おやぁ? 知っているので?」
「仇討ちか? 残念だが、シルヴァ・ウィンチェスターはもういないぞ」
「あらぁ、それは残念ですぅ」
一ヶ月以上前。アルメイアの西側に位置する村が一つ壊滅するという事件があった。死者は一○○○人に登り、最近では一番の大事件として有名となった。
数人の魔族による犯行で、それを解決したのがシルヴァだった。
ちょうど国立学院の入学式の直後である。あの時も魔物が大量に発生し、リエリアも対策に当たっていた。すぐに沈静化したため、今ではそれほど問題になってはいない。
「では、なんの用だ?」
「いやぁ、勇者様への挨拶と、ウィンチェスターへの仕返しが目的だったんですがぁ……もういいですぅ」
気持ちの悪い喋り方だ。魔物の大量発生もこの男が原因だろう。
リエリアの剣が魔力を受け、まばゆい光を放ち始める。目的も分かった以上、この男を生かしておくわけにはいかない。
「貴様……魔王か?」
「ふふふぅ。どうでしょう?」
魔王は四人いると言われている。アルメイア全土に被害を与えるなど、並みの魔族にはできない。先ほどの一撃を躱された事もあり、リエリアの警戒心は強くなっていた。
男も魔力を解放し、両者の間で圧迫された空気が悲鳴をあげる。
魔王。
その言葉には圧倒的な迫力があるが、そこまで脅威というわけでもない。でなければ、アルメイアはここまで栄えてこれなかった。
両者が同時に踏み込む。
男の剣がリエリアの腹を裂き、リエリアの剣は男の右腕をもぎ取った。
舞い上がる血飛沫。
「拍子抜けだな」
もう一人のリエリアが現れ、失望の混じった声で言う。
男が驚きに満ちた表情で切り裂いた方の彼女を見ると、その体は煙のように消えていった。超高度な幻影魔法だ。ほとんどそのままの実体。手応えまであった。
(弱い……)
リエリアは心中で呟いた。こちらは二日近く戦い続けて、少しは疲労しているというのに、この体たらく。
(いや……)
なにかが引っ掛かる。不安が拭えず、リエリアは再び剣を構えた。
「それはこっちの台詞ですぅ」
違う方から声が聞こえる。目の前で驚愕の表情を浮かべていた男も消えた。あれも幻影だったのだ。こちらより遥かに長い持続時間に、血まで流す再現度。
化かし合いでは、あちらに軍配が上がりそうだ。それがあの男の本領なのだろう。技の威力では勝っていても、当たらなければ意味がない。
「……まだやるか?」
「やめておきますぅ。あなた強そうですしぃ、目的は果たしましたぁ」
苛立たせる声。気配はあるが、場所までは分からない。下手に動けば背後を取られる。リエリアは剣を握り締めた。
「早く勇者様にゴーレムを使わせてあげた方がいいと思いますよぉ? でないと──」
森の木々がざわめく。生温い風が頬を撫でた。
「──大変な事になります」
気配が消える。入念に周囲を警戒してから、リエリアは剣を収めた。背中がジットリとしている。いつの間にか汗だくになっていた。
訝しく思いながら踵を返す。あの男の口振り。なにかあるようだった。勇者を狙っているというが。
「シルヴァめ……」
厄介者の顔を思い出しながら、リエリアは森を後にした。
◇
「おい」
クレアの部屋を訪れたリエリアは、ぐっすりと眠っているアルメイア最強の騎士を起こそうとしていた。
掛け布団と毛布を引き剥がすと、枕を大事そうに抱えているクレアが姿を現す。丸まって眠っている姿は小動物を連想させた。
「おい」
「んー」
呆れ顔で呼び掛けるが、起きる気配がない。すぐ傍に他人が立っているというのに、こうも眠りこけるとは。リエリアはどうしようもない気分になった。
「まったく……。起きろ」
クレアは長髪を帽子の中に隠した寝間着姿だ。布団を取られて寒いのか、また丸くなる。夜中に大声を出すのもはばかられ、仕方なくクレアの頬を摘む。
起きない。
指でぐりぐりする。
べしっと手で払われた。生意気な態度だ。今度は鼻を摘む。
「………うぅ」
クレアは頭を振り、そのまま枕に顔を埋めた。
(どうしたものか……)
宙に目を彷徨わせ、おもむろに枕を掴む。とても大事そうに持っていたので、取り上げてはどうかと思ったのだ。
「ふーっ!」
凄い威嚇をされた。豹変したクレアの様子に思わず怯み、手を離す。
「どうすればいいんだ……」
こちらも疲れているというのに。リエリアは涙目になる。先ほどの魔族への対策や、来希の対応について相談したかったのだが、相手はこの調子だ。
空腹だったし、湯浴みもしたい。断続的に睡魔も襲ってくる。クレアも長期の任務で疲れているのだろうが、それはリエリアも同じだった。
この状況を打破するためには、どうすればいい?
疲労している頭を必死に回す。マイペースなクレアが苦手としていた相手は──
「またあいつか」
クレア以上にマイペースな人物。シルヴァ・ウィンチェスターだ。あの男は何か言っていなかっただろうか。
「ふむ……」
妙案を思い出したらしいリエリアの視線が、クレアの耳に止まる。
「ふ……」
リエリアの口元に笑みが浮かんだ。
◇
「あー。気だるい。気だるいわー」
シルヴァは自室に備え付けられたソファーの上に寝転んでいた。向かいの席には眼鏡の少女が座っている。また訪ねて来たのだ。
無視しても良かったが、そうするといつまでも扉の前に居そうなので向かい入れてしまった。ひどく後悔している。
この深夜。
一人で何百という魔物を倒し、所々、街からの援護にも見える妨害に耐えて帰って来たらこれである。体も洗い、さっぱりとしているところにこの少女はやってきた。
正直な話、いい加減にしてほしかった。
小難しい説明を数十分にも渡り続けられたら、シルヴァの心も折れる。
「話は終わっておりませんが」
「嫌がらせに来たんだろ? わかってる。もうわかってるよ」
「そんなつもりは毛頭ございません」
嘘だ。
シルヴァは一瞬で見抜いた。彼女の顔には愉悦の笑みが浮かんでいる。
(この女……)
「お前、あれだよ。俺の知り合いにいたリエリアって奴に似てる。堅物なところとか、人を苛めるのが好きなところとか」
「それは、あなたの態度にも問題があるからでしょう」
「俺は誰にだって誠実で優しいんだよ。巷では有名だぞ」
眼鏡の少女が鼻で笑った。明らかに馬鹿にした顔だ。こういうところもリエリアに似ている。あの、人を馬鹿にした態度。性格の悪さが滲み出ているとしか思えない。
「で、なんの用なんだっけ?」
散々、説明を聞いてからのこの台詞。少女の額に青筋が浮いた。他人を苛つかせる事に関しては、シルヴァの右に出るものはいない。
「アルメイア首都の近く、ノーレイの森に魔族が現れたと」
「あ、そう」
シルヴァの反応は軽すぎた。今さらアルメイアがどうなろうと知ったことではない。クレアやリエリアを初め、知人や友人も大勢いるが、魔族に殺されるようなら最初からその程度だったということだ。
「あなたとの関係性をギルドは疑っています」
「あ、そう」
「どうなのですか?」
「知らなーい」
「真面目に答えてください」
少女の声に険が混じる。意趣返しは済んだので、シルヴァは過去から記憶を引っ張り出した。




