03 - 傘
近所の公園のど真ん中に黒い傘を差している男がいた。
まわりに他の人の姿は見えず、男はただそこに佇んでいる。
しかし、今は日中、しかも快晴だ。
男は傘を畳むとその傘をスッと横方向に構えた。
「シェアアアァアアアッ!!!」
勢いのある声と共に男は一回転した。
突然の雄叫びに私はビクッとする。
男は慣れていないのか回転後にしばらくヨロヨロとしていた。
ちくしょう、私の方が先にやりたかったのに。
私は伏せていた植え込みの中からガサガサと音を立てて飛び出した。
持っていた傘の先端を男に向けながら威嚇するような声を出す。
「ハイィィィイイイィィッ!!!」
男は一瞬びくりと驚いたようだったが、
すぐに不敵な笑みを浮かべ、傘を構えなおす。
「フッ、なるほどそう来たか…」
男の額に汗が見える。
私にも緊張が走った。
時が静止したかのような睨み合いが続いたが、
男は降参したようにヤレヤレといった様子で傘を降ろした。
「こんにちは。もしかして、コレですか?」
男は首のあたりを手で横に切るようなジェスチャーをした。
「そういうあなたもコレですか?」
私は同じジェスチャーを返す。
男は「ははっ」と笑った。
「いやぁー、このご時世、厳しいっすねぇ」
「ほんとにね」
男は会話をしながら傘を開いた。
私も同じように傘を開く。
私がビニール傘を開くと、つけっぱなしの値札が目の前で揺れた。
よく見ると、男の傘にも値札がつけっぱなしになっていた。
私は思わぬ強敵の出現に体の芯から震えていた。
ていうかこいつ平日の昼間から何やってんだよ。




