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それは、確かに寂しいかもね。

作者: 灰汁細胞
掲載日:2026/03/21

数ある作品の中から見つけて頂けて嬉しいです。

 「その癖、いい加減にやめたら?」


 なんて言われることがあるけれど、それは矛盾しているのではないだろうか。わたしだって、辞めれるものならもうとっくに辞めているに相違ない。

 つまるところ、【それは簡単に辞めることができない】という事実がそれを、【癖】たらしめていると言うこともできるだろう。



 少女は考え込んでいた。砂利だらけの地面にしゃがみ込んで、ぴくりとも動かない。

真上近くから照り付ける太陽も、熱を帯びた風も、今の彼女の邪魔はできない。


 わたしの癖、この際限のない思考の膨張は、わたしの意思では止まってくれない。


 だから、辞めるよう言われても困るのだ。だって、わたしの悪癖を改善するために投げかけられたであろうその忠告さえも、愚かな前頭葉の餌にしかなれないのだから。



 彼女は幼少の頃から、周囲の人間に変だと言われ続けてきた。

 今だって、体を折り曲げ地面を見つめる様子は少々奇妙であるし、それを見た通行人が日射病にでもなったのではと心配して、水の入ったペットボトルを差し出したとしても、何ら不自然なことはない。


 だから、彼女が変なのはきっと事実なのだろう。しかし、本人に言わせると周囲の人間のほうがよっぽど変であるらしい。



 納得がいかない。どうにもできないことをどうにかする方法なんてありはしないのに、どうして皆わたしにそれを求めるのだろう。わたしにそんなことを言う理由......?

あぁ、やはり、



 少女ははっと何かに思い至った様子だ。だが、その表情は明るくなるどころか、より陰鬱なものに変化した。



 やはり、わざとこのように振る舞っていると思われているのではないか。

 そうだ、それならば合点がいく。それが自身の選択ならば、改善は容易だろうから。


 皆にそう思われている。ならばあいつもそうであるのに違いない。

 あいつはわたしのことを理解ってくれていると思っていたけど、やっぱり友情なんて、儚いものなんだ。



 少女はひとりで、思考の波に溺れていた。その背中は先程よりも小さく見える。


 「うん、そうだなぁ。それは、確かに寂しいかもね。」


 突如、そんな軽やかな声が横から降った。


 少女の口からは「んぇ」とか「うぁ」とかいったような間抜けな声が漏れ、瞳はようやくうつつを捉える。


 彼女の隣には、爽やかに笑う別の少女がいた。それは少女の唯一の友人で、名前を弓月といった。


 「どしたの?こんなとこに座り込んで、直射日光ずっと浴びてたら倒れちゃうよ。君は暑いって思ってないみたいだけど、体は悲鳴あげてるんだからね。」


 少女は少し、困ったような顔をして口を開いた。


 「寂しいかもね、って何?わたしは何も言っていない。」


それを受けた弓月は、当たり前のように答える。


 「だから、私との友情が儚くて悲しいんでしょ?あぁ、なんで考えてることが分かったかって?それはねぇ、」

「いい。黙って。」


 会話は切断された。少女は不快そうに眉を歪めている



 はぁ、どうにも理解できない。この世はわからないことで溢れているが、この友人はその最たるものだ。

 わたしが考え事をしているとこいつは必ず側に来て、同意も得ずに会話を始める。

 しかも毎回、わたしの考えていることを当て、それに対して返事をする。非常に気味が悪い。最悪だ。


 極めつけに、どうしてそんなことができるのかと真剣に尋ねたわたしに「私は人の心が読めるんだ。超能力者だからね。」と平然と言ってのけた。


 人の心を覗く能力?そんなものがまかり通ったら、世の中の人々は夜も眠れないだろう。そしてそんな力を使える者が存在するのだとしても、きっと使うべきではない。

 誰だって秘めておきたいことをもっているというのに、勝手に覗き込むなんて無作法だ。



 「黙って。だなんて、ひっどいこと言うねぇ。さては超能力の話、まだ信じてないんでしょ。ほんとなのに。今だって私のこと考えてたでしょ?しかも内容はほぼ悪口。」

 

 弓月は頬を少し膨らませ喋り続ける。


 「ほら、なんとか言ってよ。流石に拗ねるよ。」


 今度は形の良い唇をつんと尖らせた。


 少女はなんと返事をすればよいか分からなかったが、自分に話しかけてくる貴重な人間をここで失うわけにもいかないので、返事をした。


 「分かった。百歩譲ってその超能力とやらを信じる。でも、あなたがわたしに関わろうとする理由が分からない。その、心を読むのにもっと適している人が、いるんじゃないの?」


 すると弓月はにこりと笑った。


 「私は人の考えてることが分かるせいか、考えるのが苦手だからね。代わりに考えてくれる人がいると助かるんだよ。」


 無茶苦茶な理論だ。意味が分からない。それなのに、それを嬉しく思う自分がいる。


 少女は、幸せそうに笑った。彼女は今、思考に囚われてはいない。そして弓月と笑いあうと、やさしく手を引かれて、その場から離れた。







 彼女も本当はわかっているはずだ。この世界に超能力なんて在りはしないことを。表情から内心を推測するのはさほど難しくないのだということを。


 そして、想像できるはずだ。注目されるために嘘を吐いてしまう人間がコミュニティから追い出される様子と、そうして一人になった人間が、同じように社会からはみ出した者に縋る様子を。







 でも、それでいい。どこかが歪んだ自分自身を愛してくれるのは、どこかが歪んだ誰かだけなのだから。

 孤独は苦い、独りは寂しい。だが周囲には馴染めない。ああ、そんなだから、癖になってしまったんだろうな。ふたりで過ごすこの時間が。

ご覧いただきありがとうございます。

評価、感想、ブクマなどいただけましたら本当に嬉しいです。


高校時代の作品を少し直したものです。

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