第9話:王宮からの引き抜き!? 団長、反逆の予感
夜会での華々しいデビューから数日。騎士団本部に、国王直属の使者が訪れた。
金色の装飾が施された書簡を手に、文官は傲慢な笑みを浮かべて宣言する。
「エマ殿。陛下は貴女の功績を高く評価された。ついては、今日限りで騎士団の籍を抹消し、王宮専属の『国母の聖女』として迎え入れたい。光栄に思うが良い」
エマは目を丸くした。
「……え? 私が、王宮に……?」
隣で聞いていたアルドルフの周囲から、目に見えるほどの殺気が立ち上る。彼の手が、腰の剣の柄にゆっくりと伸びた。
「……待て。その話、誰の許可を得て持ってきた?」
「団長、これは王命です。一騎士団長が口を挟めることでは……」
「王命だと?」
アルドルフは使者の喉元を一瞬で掴み上げ、壁に叩きつけた。ドォォン! と大きな音が響き、文官の顔が恐怖で引きつる。
「彼女は私の騎士団の大切な一員であり、私の婚約者だ。陛下だろうと、私の所有物に手を出すことは許さない」
「あ、アルドルフ様、落ち着いてください!」
エマが慌てて彼の腕に縋り付く。その感触で、アルドルフの殺気がわずかに和らぐが、口から出た言葉はさらに衝撃的なものだった。
「いいか、よく聞け。陛下に伝えろ。――もしエマを無理やり連れて行くつもりなら、私は今日限りで騎士団長を辞任する。そして、全魔獣騎士団を率いて、彼女と共に隣国へ亡命する。……この国が魔獣の爪に切り裂かれるのを見たくなければ、二度と彼女の名を呼ぶな」
「な、ななな……反逆、反逆ですよ、それは!!」
使者は腰を抜かし、這うようにして逃げ去っていった。
静かになった部屋で、エマは恐る恐るアルドルフの顔を覗き込んだ。
「……本当に、辞めてしまわれるのですか?」
アルドルフはふい、と顔を背け、エマを強く抱きしめた。その体は微かに震えている。
「……君がいなくなるくらいなら、国などどうでもいい。……私は、君がいない世界を守る理由など持っていないんだ、エマ」
最強の団長の、あまりにも脆く、重すぎる愛。
エマは確信した。この人は、自分がいなければ本当に壊れてしまうのだと。
「……私は、どこへも行きません。アルドルフ様のそばに、ずっといますから」
エマが背中に手を回すと、アルドルフは深い安堵の吐息を漏らし、彼女の髪に何度も唇を落とした。
その頃。王宮の地下牢。
ヴィルガストは、隣の檻に収監されていた「元・禁忌の魔術師」から、ある不気味な提案を受けていた。
「おい、お前……あの女に復讐したいんだろう? ……なら、この『呪いの種』を魔獣に飲ませろ。そうすれば、あの女の『よしよし』など、二度と効かなくなる……」
ヴィルガストの濁った瞳に、邪悪な光が戻る。




