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第8話:初めての夜会と、団長の独占欲全開ドレス

 魔獣暴走事件を鎮圧したエマは、一躍「王都の聖女」として称えられることになった。

 そんな彼女を正式に騎士団の一員として、そしてアルドルフのパートナーとして披露するための夜会が、王宮の別邸で開催されることになったのだが……。


「……あの、アルドルフ様。このドレス、少し……いえ、かなり個性的ではありませんか?」


 用意された部屋で鏡を見たエマは、困惑していた。

 ドレス自体は、最高級のシルクと魔力を秘めた銀糸で編まれた、この世のものとは思えないほど美しい逸品だ。しかし、デザインが極端だった。


 首元は詰まったハイネックで、袖は手首までしっかり隠れるロングスリーブ。さらに背中も一切露出がなく、足元まで重厚なフレアが広がっている。

 肌が見えているのは、顔と指先だけだった。


「何が不満だ? 君の肌に触れていいのは私だけだ。他の男たちに、君の鎖骨一つ見せるつもりはない」


 背後から現れたアルドルフは、完璧な夜会服タキシードに身を包んでいた。彼は満足げにエマの腰を引き寄せ、彼女の長い髪を丁寧に整える。


「……でも、他の令嬢方はもっと、こう、デコルテが開いた華やかなものを……」

「必要ない。君の美しさは、私が知っていればいい。それに――」


 アルドルフは、エマの首筋に、騎士団の紋章が刻まれた重厚なエメラルドのペンダントをかけた。


「これを着けている限り、君が『誰の所有物か』、一目でわかるようになっている」


 それはもはや、装飾品という名の「首輪」に近かった。エマは顔を赤くしながらも、彼の独占欲が心地よく、大人しくエスコートされることにした。


 夜会場。

 扉が開いた瞬間、会場中の視線が二人に注がれた。

 「不気味な女」という噂はどこへやら。そこにいたのは、威風堂々とした最強の騎士に守られ、凛とした美しさを放つ一人の淑女だった。


「まあ、あの方が……。なんて神秘的な美しさなの」

「あの冷徹な団長が、片時もそばを離れないなんて」


 若い貴族たちが、エマの珍しい美しさに惹かれ、挨拶をしようと近づいてくる。しかし、彼らが一歩踏み出すたびに、アルドルフから「近づけば斬る」と言わんばかりの凄まじい殺気が放たれた。


「エマ殿、素晴らしい功績でした。よろしければ一曲……」

「断る。彼女の最初のダンスは私が予約している。……二曲目以降も、だ」


 アルドルフは、誘いに来た伯爵息子の言葉を冷たく遮り、エマを抱きしめるようにしてダンスホールの中央へと連れ出した。

 音楽が始まり、二人はゆっくりと回り出す。


「アルドルフ様、皆さん怖がっていますよ……」

「構わない。……エマ、私を見ろ。他の男を見なくていい。君を捨てた世界など忘れて、私の腕の中だけが、君の居場所だ」


 アルドルフの強引で、けれど壊れ物を扱うような優しいリードに、エマは身を任せた。


 その時。

 会場の隅で、没落してボロボロの服を着たヴィルガストの父親(元店主)が、エマに縋り付こうと隙を伺っていたのだが……。


「グルルゥ……」


 会場のテラスの影から、忍び込んでいた小型の魔獣(エマの信奉者たち)が、元店主に向かって牙を剥いた。


「ひ、ひぃぃぃ! ここにも化け物が!」


 もはやエマを守るのは、アルドルフだけではなかった。

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