第4話:魔獣たちがエマを奪い合って大乱闘!?
翌朝。エマが騎士団の訓練場へ足を踏み入れると、そこには異様な光景が広がっていた。
「グルルゥ……」
「ギャウッ! ギャウ!」
昨日まで怪我で伏せっていたはずの魔獣たちが、一列に並んでエマを待っていたのだ。いや、正確には「並ぼうとして、小突き合いの喧嘩」を始めていた。
「あらあら、みんな。おはようございます。喧嘩はめっ、ですよ?」
エマが困ったように笑いながら近づくと、昨日救った「双頭の鷲」が、巨体を生かして他の魔獣を蹴散らし、一番乗りでエマの前に首を差し出した。
「キュ〜ン、キュイ」
「はいはい、今日もいい子ね。傷口は……あ、もう塞がってる。すごいわ」
エマが優しく喉元を撫でると、オルトロスはうっとりと目を細め、二つの頭で交互にエマの頬を舐め回す。
それを見た他の魔獣たち――炎を吐くサラマンダーや、鋼の毛皮を持つ重戦車のような猪も、「次は俺だ!」と言わんばかりにエマに突進してきた。
「わわっ、みんな一度に押さないで……!」
もみくちゃにされるエマ。しかし、そこには悲鳴ではなく、幸せそうな笑い声が響いていた。
遠巻きに見ていた騎士たちは、腰を抜かさんばかりに驚愕している。
「おい、見ろよ……。あの気性の荒いサラマンダーが、尻尾を振って腹を見せてるぞ……」
「信じられん。我々があんなに苦労して手懐けようとしていたのが馬鹿みたいだ」
だが、その微笑ましい光景を、一番面白くなさそうな顔で見つめている男がいた。
「……そこまでだ」
冷気を纏った声と共に、アルドルフが歩み寄る。
彼はエマを囲んでいた魔獣たちを鋭い眼光で威圧し、強引にその輪を割った。
「アルドルフ様! おはようございます」
「……おはよう、エマ。だが、魔獣たちとあまり密着しすぎるのは感心しないな。怪我をしたらどうする」
そう言いながら、アルドルフはエマの腰を引き寄せ、魔獣たちから引き離すように抱きしめた。
驚いたのは魔獣たちだ。
「ガウッ!?(俺たちの聖域を奪うな!)」
オルトロスがアルドルフに向かって低く唸る。
「……静かにしろ。彼女は今、私の護衛下にある。……順番を待てと言ったはずだ」
アルドルフは魔獣相手に本気で火花を散らしている。
エマは目を丸くした。
「あの、アルドルフ様? 順番って、何の……?」
「私の分だ」
アルドルフはエマの耳元で、騎士たちにも聞こえないような低い声で囁いた。
「魔獣たちを癒やすのも仕事だが、私の心の平穏も君にかかっている。……今夜、執務室に来てくれるか? 君の淹れた茶を飲まないと、どうにも仕事が手につかなくてね」
それは、ただの依頼ではない。「私だけを見てほしい」という、不器用な男の精一杯の独占欲だった。
その頃、街の片隅。
エマを追い出したヴィルガストは、騎士団から突きつけられた莫大な賠償金の請求書を前に、震えていた。
「クソッ、何が賠償金だ! 全部あの不気味な女が仕組んだことに決まっている! ……こうなれば、闇ギルドに頼んで、無理やり連れ戻してやる……!」
彼はまだ、自分がどれほど「最強の騎士」を敵に回したのか、分かっていなかった。




