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第3話:団長の「特別保護」が重すぎる件について

「……あの、アルドルフ様。ここ、本当に私の部屋ですか?」


 エマが通されたのは、騎士団本部の最上階。豪華な絨毯が敷かれ、大きな窓からは王都が一望できる、貴族のゲストルームのような一室だった。


「ああ。隣は私の執務室兼寝室だ。何かあれば壁を叩いてくれ。一秒で駆けつける」

「一秒……。いえ、でも私のような新入りがこんな……」

「新入りではない。君は、わが騎士団の『最重要保護対象』だ」


 アルドルフは、エマの華奢な手を取り、うっとりと見つめた。


「君のこの手が、さっきの魔狼を鎮めた。……信じられるか? 私たちはあの魔獣一頭を倒すために、毎回数名の犠牲を覚悟していたんだ。君は、私にとって女神も同然だ」


 団長の瞳には、騎士としての敬意を超えた、熱い「執着」が宿っていた。

 エマは顔を赤くして俯く。自分を「不気味」と罵らなかったのは、この人が初めてだった。


「エマ。明日から君には、怪我をした魔獣たちのケアをお願いしたい。……ただし、私の許可なく一人で檻には入らないこと。いいね?」

「はい、わかりました」


 ――ガシャン!!


 その時、本部の玄関ホールで、激しい騒音と怒鳴り声が響き渡った。


「入れろ! 私は『黄金の牙』の次期店主、ヴィルガストだぞ! 騎士団に納品した魔獣が暴走したんだ、責任を取れ!」


 アルドルフの眉が、ピクリと不快そうに跳ねた。


「……騒がしいな。エマ、ここで待っていなさい」

「あ、ヴィルガスト様……」


 エマの不安そうな顔を見たアルドルフは、冷徹な笑みを浮かべた。


「安心しろ。君を捨てたゴミ掃除に、少し行ってくるだけだ」


 一階のロビーでは、泥と返り血にまみれたヴィルガストが、門番の騎士に掴みかかっていた。


「おい! さっき納品したグリフォンが、馬車の中で暴れて街を壊したんだぞ! 檻の強度が足りなかったんじゃないか!? 損害賠償を払え!」


 そこへ、階段からゆっくりとアルドルフが降りてきた。その背後には、彼を案じてついてきてしまったエマの姿もあった。


「ヴィルガスト……だったか」


 アルドルフの声は、凍りつくほど冷たかった。


「おっ、団長! ちょうどいい、この女――エマを連れ戻しに来たぞ。こいつが何か呪いをかけたに違いないんだ。店に戻して、吐き出させてやる!」


 ヴィルガストがエマの腕を掴もうと手を伸ばした、その瞬間。

 アルドルフの抜剣すら見えない速さで、剣の鞘がヴィルガストの喉元に突きつけられた。


「……私の婚約者に、汚い手で触れるな」

「こ、婚約者ぁ!? こいつはただの不気味な飼育員だぞ!」

「彼女は、私が全権を持って招聘した最高位の調教師だ。そして、私の命の恩人。……お前が彼女を路頭に迷わせた事実は、すでに調査済みだ」


 アルドルフはヴィルガストを冷たく見下ろした。


「納品物の暴走は、お前の管理不足だ。騎士団への不実、及び王都の治安を乱した罪――。賠償金を払うのは、お前の方だ。二度と、彼女の前に現れるな」


「な、なんだと……っ!?」


 ヴィルガストは騎士たちに引きずられていった。

 エマは震える肩を、アルドルフの大きな手に抱き寄せられた。


「エマ。あんな男、もう見る価値もない。……さあ、部屋に戻ろう。君のために、最高の茶菓子を用意させたんだ」


 エマは気づいていなかった。

 自分を助けてくれた騎士団長が、ヴィルガストを追い払った後、「彼女が二度と店に戻らなくていいように」、街中の魔獣関連のギルドに手を回し、ヴィルガストを完全に破滅させる手配を終えていたことに。

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