第22話:平民になった元団長と、最強の聖女のハネムーン!?
王宮での騒動に終止符を打つべく、アルドルフは潔く騎士団長の座を返上した。
魔力を失った彼は、もはや「王国最強」ではない。しかし、彼の隣には、今や国を救った「本物の聖女」として崇められるエマがいた。
「さあ、アルドルフ様。今日からはここで、二人きりで暮らしましょう」
エマが選んだのは、王都から少し離れた湖畔の小さなコテージ。
かつては「不気味な女」と蔑まれていた彼女が、今や「元団長を養う」という驚きの展開に、周囲は騒然としていた。
「……エマ。本当にいいのか? 私にはもう、君に贈る宝も、守るための剣も、何もないんだぞ」
銀髪を揺らし、少し寂しげに笑うアルドルフ。かつての覇気は影を潜め、どこか儚げな美青年といった趣だ。
「いいえ。アルドルフ様がいるだけで、そこが私の宝箱ですから。……ほら、お粥ができましたよ。あーん、してください」
「……っ。……あーん」
屈強な肉体を持つ元団長が、エマにスプーンで食べさせてもらい、耳まで真っ赤にしている。かつての「監禁」が嘘のような、甘やかされ放題の逆転生活。
しかし、二人の「静かな暮らし」を、世界(と魔獣)が放っておくはずがなかった。
「クルルゥ……」
庭先には、エマを慕う黒龍が番犬のように丸まり、
「ヒヒィーン!」
湖には、セドリック王子から逃げ出してきた一角獣が勝手に住み着き、
さらには近隣の村人たちが「聖女様のよしよしを受けたい」と、山のような野菜や肉を貢物として運んでくる。
「……エマ。これは『静かな暮らし』とは言わないのではないか?」
「あら、みんなアルドルフ様のご近所さんですよ」
さらに、そこへ招かれざる客が。
隣国のセドリック王子が、豪華な馬車で乗り込んできた。
「アルドルフ! 無能になったと聞いたぞ! ならばエマ殿を返してもらう! ……と言いたいところだが、今の君、……なんだその、えらく幸せそうな顔は! 毒気が抜けて別人のようじゃないか!」
セドリックは、エマに甘やかされて「ふにゃふにゃ」になったアルドルフを見て、激しい敗北感を味わう。
「セドリック王子。……力で奪うよりも、こうして彼女に『よしよし』される方が、よほど充足感があるぞ。……君も、一度やってみるか?」
「断る!! 団長のプライドはどこへ行ったんだ!」
そんな中、エマのバングルが不気味な黒い光を放った。
アルドルフの魔力は消えたはずなのに、彼の「執念」が、エマへの危機を察知したのだ。
「……エマ。伏せろ」
アルドルフの瞳が、一瞬だけかつての「狂犬」の鋭さを取り戻す。
空から降ってきたのは、ヴィルガストの父親が遺した最後の呪い――「自律型の暗殺魔導具」だった。
魔力のないアルドルフに、エマを守る術はない。……はずだった。
「……私のエマに、……何をする」
アルドルフが素手で暗殺具を掴み取った。魔力はない。だが、エマを守りたいという「愛」だけで、彼は物理的な限界を超えようとしていた。




