第21話:最強から無能へ、そして始まる『逆・溺愛』
王宮の祭壇で、エマは奇跡的に目を覚ました。
しかし、その代償としてアルドルフを覆っていた圧倒的な覇気と魔力は、露のように消え去っていた。彼の髪は銀色のまま、その手は剣を握る力さえ失い、微かに震えている。
「……エマ。生きていて……本当によかった」
アルドルフは弱々しく微笑むと、そのままエマの肩に崩れ落ちた。
一週間後。騎士団本部の、かつてエマが「監禁」されていたあの部屋。
今、ベッドに横たわっているのはアルドルフだった。
「……エマ。もういいんだ。今の私には、君を守る力も、王宮の追及から君を庇う権力もない。……この隙に、どこか遠くへ逃げなさい」
自虐的に笑い、顔を背けるアルドルフ。
魔力を失い、王宮を半壊させた責任を問われ、彼は団長の座を追われようとしていた。そんな「無能」になった自分に、エマを縛り付ける資格はないと思い詰めていたのだ。
だが、エマは一歩も引かなかった。
彼女はアルドルフの頬を両手で包み込み、そのままベッドに押し倒すようにして顔を近づけた。
「……逃げません。アルドルフ様、私の話をよく聞いてください」
「エマ……?」
「貴方は今まで、私を『守る』と言って閉じ込めてきました。……でも、これからは私が貴方を『守る』番です。魔獣たちも、みんな私の味方ですから。王宮が文句を言うなら、黒龍と一緒に私が説得してきます!」
エマの瞳には、かつてないほど強い意志が宿っていた。
彼女はアルドルフの胸に耳を当て、トクン、トクンと刻まれる鼓動を確かめる。
「魔力なんてなくても、アルドルフ様はアルドルフ様です。……これからは、私が貴方を一生『よしよし』して、甘やかしてあげますから。覚悟してくださいね?」
エマはそう言うと、真っ赤になりながらも、アルドルフの額に優しく口づけをした。
「……っ、エマ……。君という人は……」
アルドルフの目から、一筋の涙が零れる。
最強の騎士団長という鎧を脱ぎ捨てた彼は、初めて「一人の男」として、エマの愛に溺れることを許したのだった。
その頃。
王宮では、魔力を失ったアルドルフを「処刑」すべきだという声と、エマの「聖女」としての力を恐れる声が激しく対立していた。
そこへ、一通の親書が届く。差出人は、あのサンクレイ王国のセドリック王子だった。
「アルドルフが隠居するなら、私がエマ殿を正式に引き取ろう。……ただし、反対する者は我が国の全戦力をもって叩き潰すがな」




