第20話:反逆の団長vs王国最強騎士団
王都の象徴である白亜の城門が、轟音と共に崩れ落ちた。
黒龍に跨り、銀髪をなびかせるアルドルフの姿は、もはや英雄ではなく「魔王」そのものだった。その腕には、冷たくなったエマが大切に抱かれている。
「団長、止まってください! 陛下への反逆は、死罪ですぞ!」
かつての部下たちが、涙を呑んで剣を抜く。しかし、アルドルフの瞳には彼らの姿など映っていない。
「……どけ。エマの時間が、刻一刻と失われている。……邪魔をするなら、たとえ神であろうと切り伏せる」
アルドルフの一振りが、空間そのものを切り裂くような衝撃波を生む。
最強の魔獣騎士団ですら、愛に狂った彼の前では赤子同然だった。彼は返り血を浴びながら、王宮の最奥、禁忌の森にある「刻の祭壇」へと辿り着いた。
そこには、震えながら立ち尽くす国王と、数人の高位魔導師たちがいた。
「アルドルフ……! 狂ったか! その祭壇を動かすには、膨大な生け贄が必要なのだぞ!」
「……生け贄なら、ここにいる」
アルドルフは自らの胸に剣を向けた。
「私の魔力、私の魂、私のこれまでの全ての功績……。その全てを代償に、エマの魂を繋ぎ止めろ」
「バカな! 貴公が死ねば、この国を誰が守るのだ!」
「エマのいない国など、滅びればいい……!」
アルドルフが祭壇にエマを横たえ、自らの血を儀式の陣へ流し込もうとした、その瞬間。
祭壇の周囲に、奇妙な「光の粒子」が集まり始めた。
「グルルゥ……」
「キュイィィ……」
それは、エマがこれまで救ってきた魔獣たちの魂だった。
オルトロス、サラマンダー、一角獣、そして背後に控える黒龍までもが、自らの魔力を少しずつ分け与え始めたのだ。
「魔獣たちが……エマのために、自発的に代償を……?」
魔導師たちが驚愕する中、エマの胸元にある魔石が、再びトクン、と拍動した。
エマの閉じていた瞼が、微かに震える。
「……あ……。……アルドルフ、さま……?」
消え入りそうな声。
アルドルフは剣を落とし、崩れ落ちるようにエマの体を抱き寄せた。
「エマ……! ああ、エマ……!!」
王宮を半壊させ、世界を敵に回してまで求めたその温もりが、再び彼の手の中に戻ってきた。
しかし、その代償は「アルドルフの死」ではなく、「彼自身の魔力の完全な喪失」という形で現れようとしていた。




