第2話:騎士団寮は、魔獣(と団長)の楽園でした
アルドルフ団長に半ば強引に連れてこられたのは、王都の端にそびえ立つ質実剛健な石造りの建物――【魔獣討伐騎士団】の本部だった。
「……あの、アルドルフ様。私、服も濡れていますし、こんな立派な場所には……」
「アルドルフでいい。それと、君の心配は無用だ」
アルドルフは自分の重厚なマントをエマの肩にかけ、まるでお姫様をエスコートするように廊下を歩く。すれ違う騎士たちが「えっ、あの鉄面の団長が女の子を、しかも自分のマントで包んでる!?」と二度見しているが、彼は一瞥もくれない。
「まず、君の能力を証明してほしい。ここには、怪我をして気が立っている魔獣たちが大勢いるんだ。彼らを……救ってやってほしい」
案内されたのは、広大な訓練場に併設された医療病棟。
そこには、戦場で負傷し、痛みで暴れる巨体な「双頭の鷲」や、毒に冒されて苦しむ「銀光鱗のトカゲ」たちが、鉄格子の向こうで悲痛な叫びをあげていた。
「危ないですから、下がっていてください」
エマは迷わず、最も激しく暴れているオルトロスの檻へ歩み寄った。
騎士たちが「無茶だ! 食い殺されるぞ!」と止めようとするが、アルドルフが手でそれを制止する。
「お疲れ様。痛かったね。……もう、怖くないですよ?」
エマが格子越しに優しく囁き、歌うように魔獣の額を撫でる。
すると、さっきまで狂ったように鉄格子を噛み砕こうとしていた双頭の鷲が、ピタリと動きを止めた。そして――。
「キュ〜……」
二つの頭を交互にエマの手に擦り付け、まるで甘える雛のように丸まったのだ。
騎士団全体に戦慄にも似た衝撃が走る。
魔獣たちは「敵意」を失うどころか、エマを「絶対の安らぎ(聖域)」として認識し始めていた。
「信じられん……あの猛獣が、あんなに……」
「……決まりだ」
アルドルフが、エマの肩を背後から抱き寄せ、耳元で低く囁いた。その声は、安堵と、隠しきれないどろりとした独占欲に濡れていた。
「エマ。君に特別一等調教師の地位を用意する。そして――君の身の安全は、この僕が命を懸けて保証しよう。この場所から、もう二度と逃がさない」
一方、その頃。
エマを追い出したヴィルガストの店『黄金の牙』では、異変が起きていた。
新しく雇った自称「一流調教師」が、エマがいなくなった地下の檻に、無理やり魔獣を従わせるための「毒薬入りの餌」を投げ込んだ。
「ハッ、女の甘っちょろいやり方とは違うんだよ! ほら食え、そして這いつくばれ!」
だが、魔獣たちの反応はヴィルガストの予想とは真逆だった。
エマという「唯一の理解者」を奪われた魔獣たちの瞳に、これまで彼女が抑え込んできた数年分の殺意が宿る。
「……おい、どうした? なぜ食わない! ぎゃああああっ!!」
ガシャァァン! と鉄格子が歪む音が、嵐の夜に響き渡った。




