第19話:聖女、死す!? 団長、世界を敵に回す
白い花びらが舞い散る王都の広場。ベヒモスを消し去った代償は、あまりにも大きかった。
アルドルフの腕の中で、エマの体は驚くほど冷たくなっていく。
「……嘘だ。エマ、目を開けてくれ。冗談だろう?」
心音が、聞こえない。
あんなに温かかった「よしよし」の魔力が、霧散していく。
周囲の騎士たちが勝利に沸く中、アルドルフ一人が絶望の底で咆哮した。
「あああああああああッ!!」
その瞬間、アルドルフの髪が漆黒から雪のような銀色へと変色した。限界を超えた悲しみと魔力が、彼の肉体を造り変えてしまったのだ。
「団長、エマ様を聖堂へ……」
「触るな。……彼女に触れていいのは、私だけだ」
アルドルフはエマを横抱きにし、血走った瞳で王宮の方角を睨みつけた。
彼は知っていた。王家の最奥、禁忌の森にある「刻の祭壇」を使えば、魂を呼び戻せる可能性があることを。しかし、そこを起動するには「生者の魂」……それも、強大な魔力を持つ者の命が必要だった。
「アルドルフ、何を考えている! 祭壇は禁忌だ!」
駆けつけた副団長の声も届かない。
「……エマがいない世界を、守る価値などないと言ったはずだ。……国が滅ぼうと、誰が死のうと構わない。私は、エマを連れ戻す」
アルドルフは黒龍を呼び寄せ、エマと共に飛び立った。
向かうは王宮。
自分を信じてくれた部下たち、守ってきた国民たち。そのすべてを敵に回してでも、彼は一人の少女の「鼓動」を求めて、反逆の騎士と化した。
一方、エマの意識は深い闇の中にいた。
そこには、かつて彼女が救ってきた魔獣たちの思念が集まっていた。
『エマ、戻って……』
『まだ、あのおじちゃん(団長)に「よしよし」が足りないよ……』
魔獣たちの声に導かれ、エマの指先が、ほんの少しだけ動いた。
しかし、そのことに、狂乱の真っ只中にいるアルドルフはまだ気づいていなかった。




