第18話:最強の騎士vs終焉の獣、そしてエマの決意
王都の広場を埋め尽くすほどの巨体。終焉の獣『ベヒモス』は、ただ存在しているだけで周囲の魔力を吸い取り、騎士たちの剣を錆びつかせていた。
「ハァ……ハァ……っ! 貴様……どこまで、しぶとい……!」
アルドルフの漆黒の甲冑は砕け、額からは血が流れていた。
彼の剣術は間違いなく大陸最強だが、相手は「生物」ではなく「虚無」そのもの。斬っても斬っても霧のように再生し、逆にアルドルフの体力を削り取っていく。
「団長、危ない!」
ベヒモスの巨大な触手がアルドルフを叩き潰そうとした、その時。
パリィィィィン!!
騎士団本部の最上階から、凄まじい光の柱が立ち昇り、三重の結界を内側から粉砕した。
空から舞い降りてきたのは、光り輝く『銀の鎖』を解き放ち、伝説の黒龍の背に乗ったエマだった。
「エマ!? 部屋にいろと言ったはずだ!」
「アルドルフ様、ごめんなさい! でも……私がこの子を止めないと、貴方が死んでしまいます!」
エマの瞳は、これまでの「守られる少女」のものではなかった。
彼女は黒龍の背から飛び降りると、巨大な怪物の鼻先に直接着地した。
「……悲しいね。貴方は誰にも愛されず、ただ壊すためだけに作られたのね」
ベヒモスの虚無の瞳がエマを捉える。
エマは、毒気に肌を焼かれながらも、その巨大な質量を「抱きしめる」ように両手を広げた。
「お喋りができないなら、私の心を全部あげる。……だから、もう消えていいんだよ。おやすみなさい」
エマが全魔力を解き放った「究極のよしよし(聖域の抱擁)」。
それは破壊の衝動さえも塗り替える、圧倒的な光の濁流だった。
ベヒモスの泥のような体が、エマの光に触れた瞬間に白い花びらへと変わり、王都に降り注ぐ。
「……あ……」
怪物が消え去り、静寂が訪れる。
光の中で力尽き、地上へ落下していくエマ。
それを、アルドルフが狂ったように駆け寄って、地を這うような勢いでスライディングしながらその腕に収めた。
「エマ! エマ!! 返事をしてくれ!」
「……アルドルフ、様……。……約束、破っちゃって……ごめんな……」
エマの意識が遠のく中、アルドルフは彼女を離さないよう、骨が軋むほど強く抱きしめた。
彼の目からは、初めて後悔と恐怖の涙が零れ落ちていた。




