第17話:監禁生活は意外と快適? 団長が専属執事に大変身
「守るため」という名目で、アルドルフの私室(要塞)に閉じ込められたエマ。しかし、そこでの生活は「地獄」とは程遠い、「甘すぎる監禁」だった。
「エマ、朝食だ。今日は君の好きな小鳥の形のパンを焼かせてみた。……あ、熱いから私がフーフーしてあげよう」
「あ、アルドルフ様!? 団長様がそんなことをなさらなくても、私、自分で食べられますっ」
かつて戦場で「鬼神」と恐れられた男が、今はエマの口元に丁寧にスプーンを運んでいる。
それだけではない。
「髪が少し乱れているな。……じっとしていろ」
アルドルフは、宝石が散りばめられたブラシを手に、エマの長い髪を梳かし始めた。その手つきは驚くほど優しく、熟練の侍女よりも丁寧だ。
「……あの、アルドルフ様。お仕事はよろしいのですか?」
「書類はすべてここに持ち込んだ。君の姿が見える場所でないと、文字が滑って読めないんだ」
エマの視線の先には、山積みにされた騎士団の公文書。アルドルフはエマの膝を枕にしながら、片手でサインを書き進めている。
エマの「よしよし」の魔力が常に供給されるこの部屋は、アルドルフにとって最強のバフ(強化)空間であり、同時に彼を狂わせる甘い檻でもあった。
しかし、そんな平和な室内とは裏腹に、王都の地下では「最悪の事態」が進行していた。
「……出でよ、すべての魔獣の祖。絶望を食らう【終焉の獣・ベヒモス】!!」
ヴィルガストの父が、自らの命を捧げる禁忌の儀式を完遂した。
王都の中心部に巨大な亀裂が走り、そこから溢れ出したのは、エマが今まで鎮めてきたどの魔獣とも違う、「意思を持たない破壊の衝動」そのものだった。
ズゥゥゥゥゥン!!
騎士団本部が大きく揺れる。
エマの胸元にある魔石が、かつてないほど激しく明滅した。
「……アルドルフ様、この子……この子は、お喋りができません……!」
エマの顔から血の気が引く。
彼女の「対話」が通じない、ただ世界を飲み込むためだけの怪物が、ついに目覚めてしまったのだ。
アルドルフはエマを強く抱き寄せ、冷徹な瞳を窓の外へ向けた。
「……案ずるな。お喋りができないなら、ただの『肉塊』に戻すだけだ。……エマ、ここで待っていなさい。今度こそ、君を脅かす芽を根絶やしにしてくる」
アルドルフはエマの額に深くキスを残すと、漆黒の甲冑を纏い、部屋に三重の結界を張って戦場へと向かった。




