第15話:エマ、実家へ帰る(強制的に)
「母が危篤です。一度でいいから顔を見せておくれ」
届いた手紙は、かつてエマを「不気味な子」としてヴィルガストの店へ二束三文で売り払った、実家の両親からのものだった。
「アルドルフ様、少しだけ行ってきます。……あんな親でも、最後くらいは……」
「……嫌な予感がする。私も同行しよう」
「いえ、騎士団のお仕事がありますし、すぐに戻りますから!」
エマの健気な決意に、アルドルフは苦渋の決断で「銀の鎖」の感度を最大にし、影の護衛を付けて送り出した。
しかし、辿り着いた実家に「病の母」などいなかった。
待っていたのは、借金まみれで肥え太った父親と、ヴィルガストの父親だった。
「よう、エマ。ずいぶん出世したらしいじゃないか」
「お父様……お母様は?」
「あんな女の嘘に決まってるだろ! さあ、大人しくしろ。お前のその『よしよし』の力を、今度は俺たちの新しい商売のために使ってもらうぞ!」
エマの背後から、魔力を封じる特殊な網が投げかけられた。
「……っ! 体が動かない……!」
「ははは! 騎士団長も、まさか実家の親が罠を張るとは思うまい。さあ、隣国の闇オークションへ運ぶぞ。聖女様には、数億の価値がつくからな!」
その瞬間。
騎士団の執務室で書類を検分していたアルドルフの、左手首にある「対のバングル」が、真っ赤に発光し、パリンと弾け飛んだ。
エマの魔力が、異常な手段で遮断された。
「…………殺す」
アルドルフから放たれたプレッシャーで、執務室の窓ガラスがすべて粉々に砕け散った。
彼は無言で席を立ち、訓練場へ向かう。
「全軍、武装。魔獣騎士団、出撃準備」
「だ、団長!? 何が起きたのですか?」
「……害虫を駆除しに行く。一匹も、肉片すら残すな」
アルドルフの瞳は完全に光を失い、ただ「愛する者を奪われた獣」のそれへと変貌していた。
エマが連れ去られようとしたその時、実家の屋根が轟音と共に吹き飛んだ。
空を覆い尽くしたのは、漆黒の鱗を持つ黒龍。そしてその背には、抜剣した「死神」が立っていた。
「ひっ、ひぃいっ! 騎士団長!? なぜここが……!」
「……エマの涙一滴につき、お前たちの指を一本ずつ削いでやろうと思っていたが……気が変わった」
アルドルフは龍の背から飛び降り、地面を爆ぜさせて着地した。
「……そんな手間をかける時間すら、エマがいないと私は狂ってしまうからな」
アルドルフの剣が閃く。それは、かつてないほど無慈悲な「裁き」の始まりだった。




