第14話:腕比べ? いいえ、魔獣たちのファンミーティングです
王都の大広場に、特設の演舞場が設けられた。
詰めかけた観衆の目的はただ一つ。隣国のセドリック王子が連れてきた「伝説の魔獣」を、騎士団の聖女エマがどう手懐けるかだ。
「さあ、エマ殿。これを見たまえ。我が国が誇る、氷の海を統べる一角獣だ!」
セドリックが指を鳴らすと、巨大な水槽の中から、氷の刃のような角を持つ、美しくも獰猛な一角獣が現れた。
この魔獣は極めて気高く、王室の血筋にしか心を開かないと言われている。
「……フシュゥゥッ!!」
一角獣が鋭い冷気を吐き出し、周囲の地面を凍らせる。騎士たちが身構える中、セドリックは得意げに微笑んだ。
「どうかな? 暴力や鎖では、この気高い獣は従わない。さあ、君の『よしよし』とやらを見せて……」
「あら……。あなた、ずっと冷たいところにいて、お腹が冷えちゃったのね?」
エマはセドリックの言葉を遮り、トコトコと一角獣の前に歩み寄った。
彼女が懐から取り出したのは、騎士団の厨房でこっそり作らせた「特製ほかほか蒸し芋(魔力入り)」だった。
「はい、どうぞ。温まるわよ」
瞬間、会場が静まり返った。
氷の海を統べる伝説の獣が、その高潔な鼻筋をフンフンと鳴らし、あろうことかエマの手のひらからハフハフと蒸し芋を食べ始めたのだ。
「……おい、嘘だろ? 氷の一角獣が、芋を食ってる……」
「しかも、あんなに幸せそうな顔をして……」
「キュイィィ〜〜ン!」
一角獣は食べ終わると、冷気をピタリと止め、エマの肩に頭を乗せて「もっと撫でて」と甘え始めた。もはやセドリック王子の命令など、一秒で忘却の彼方だ。
「な、なんだと……!? 十年もかけて手懐けた私の苦労は……!」
セドリックが呆然と立ち尽くす。
そこへ、背後からアルドルフがゆっくりと歩み寄った。
「王子。勝負は決まったな。……彼女の力は、貴公のような『支配』の延長線上にはない。……純粋な、魂の共鳴だ」
アルドルフはエマの腰を引き寄せ、観衆の前で見せつけるように彼女の額にキスをした。
「さあ、約束通り、貴国の『魔獣の聖域』の領土譲渡契約書にサインをしてもらおうか。……それと、二度と彼女を『王妃』などと呼ぶな。彼女は、私の――唯一の安らぎなのだから」
セドリックは膝をつき、完敗を認めた。
「……負けたよ。……だがアルドルフ、君も気をつけた方がいい。彼女を求めるのは、私だけではないぞ……」
その不穏な言葉通り、王都の地下では、ヴィルガストの父親が「さらなる禁忌」の封印を解こうとしていた。




