第4話 派遣判断
――また、雑な報告なのだ。
魔界の執務室で、テレッツは額を押さえた。
> 聖光、刈った!
> 聖なる光が周りを照らすらしい!
> 死にそうになった!
> 助けて!
……以上。
情報が、致命的に足りない。
何が起きたのか。どこで、なぜ、どうなったのか。
順序も理由も、全部抜け落ちている。
「分けて送ればよいだけなのだが……」
応用が利かない。
悪魔としては、まだ未熟。
だが、それで切り捨てるには――惜しい。
「“助けて”と言ってきた以上、放置はできないのだ」
テレッツは資料棚に手を伸ばした。
人族で、こちら側の活動経験あり。
回復(闇)持ち。戦闘も任せられる。
性格は暗く、計画的。
――計画性が良い方向に転べば、優良。
今のところは、可、なのだ。
一枚の資料に指を止める。
「カゲアリ=インゲン。武術家。適任なのだ」
さらに、もう一人。
「……そして、こちらも必要なのだ」
執務室の扉へ声をかける。
「コール、来てくれなのだ」
*
現れたコールは無言で報告書を受け取り、
オールバックを櫛で整えながら目を通す。
数秒後、短く頷いた。
その判断に、感情は挟まれない。
「察しがいいのは助かるのだ」
説明は不要だった。
テンチの報告能力の問題も、補足役が必要な理由も、すでに理解している。
「影有と共に人間界へ行くのだ。
テンチのサポート、諜報、報告補足。
あと、こちらの指令伝達も任せるのだ」
コールは一礼し、静かに去っていった。
(あいつの前で“出来る上司”の雰囲気出すのは、骨が折れるのだ)
テレッツは小さくため息をつく。
「さて……次は魔王殿なのだ」
*
魔王の間へ向かい、衛兵のガーゴイルに挨拶して入室する。
「楽にしろ」
玉座のクッパムは、以前より明らかに疲れていた。
派遣の報告を簡潔に済ませる。
「人間界で異常事例が発生。
部下を二名、追加派遣するのだ」
「……そうか」
短い返答。
その直後、クッパムは一枚の書類を差し出した。
重要書類かと見紛う所作。
だが、直感が告げている。これは――危険だ。
ただの紙が、モヤモヤしたオーラを放つ黒い何かに見える。
「それと、これを処理しておいてくれ」
――休暇申請書。
(……やっぱりなのだ)
最近やけに多い。
しかも、行き先は決まって人間界。
名目は“視察”。実態は――
「教会ですか?」
「……ああ」
否定はしない。
(魔王様の趣味が教会巡りとは……
誰が想像するのだ)
「分かりましたのだ。
各方面への調整は、こちらで行います」
「助かる」
クッパムの声には、かつての威厳よりも
疲弊と諦観が滲んでいた。
(元魔王側近――プラーナさんの件がなければ、
ここまで消耗されることもなかったのだが)
その名は、胸の内に留める。
*
退出し、廊下を進んだ、そのとき。
――スゥー、ウォン。
空気が歪む。
闇魔法最高位、瞬間移動。
「……もう行かれたのだ?」
手元の申請書を見る。
開始日――本日。
「……即日なのだ?」
魔王は、すでに人間界へ消えていた。
「……ずるいのだ」
*
「誰かが休めば、
誰かがその分、働く」
組織とは、そういうものなのだ。
テレッツは書類を抱え直し、
山積みの仕事へと戻っていった。




