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第4話 派遣判断

――また、雑な報告なのだ。


魔界の執務室で、テレッツは額を押さえた。


> 聖光、刈った!

> 聖なる光が周りを照らすらしい!

> 死にそうになった!

> 助けて!


……以上。


情報が、致命的に足りない。

何が起きたのか。どこで、なぜ、どうなったのか。

順序も理由も、全部抜け落ちている。


「分けて送ればよいだけなのだが……」


応用が利かない。

悪魔としては、まだ未熟。

だが、それで切り捨てるには――惜しい。


「“助けて”と言ってきた以上、放置はできないのだ」


テレッツは資料棚に手を伸ばした。

人族で、こちら側の活動経験あり。

回復(闇)持ち。戦闘も任せられる。

性格は暗く、計画的。

――計画性が良い方向に転べば、優良。

今のところは、可、なのだ。


一枚の資料に指を止める。


「カゲアリ=インゲン。武術家。適任なのだ」


さらに、もう一人。


「……そして、こちらも必要なのだ」


執務室の扉へ声をかける。


「コール、来てくれなのだ」



現れたコールは無言で報告書を受け取り、

オールバックを櫛で整えながら目を通す。

数秒後、短く頷いた。


その判断に、感情は挟まれない。


「察しがいいのは助かるのだ」


説明は不要だった。

テンチの報告能力の問題も、補足役が必要な理由も、すでに理解している。


「影有と共に人間界へ行くのだ。

 テンチのサポート、諜報、報告補足。

 あと、こちらの指令伝達も任せるのだ」


コールは一礼し、静かに去っていった。


(あいつの前で“出来る上司”の雰囲気出すのは、骨が折れるのだ)


テレッツは小さくため息をつく。


「さて……次は魔王殿なのだ」



魔王の間へ向かい、衛兵のガーゴイルに挨拶して入室する。


「楽にしろ」


玉座のクッパムは、以前より明らかに疲れていた。


派遣の報告を簡潔に済ませる。


「人間界で異常事例が発生。

 部下を二名、追加派遣するのだ」


「……そうか」


短い返答。

その直後、クッパムは一枚の書類を差し出した。


重要書類かと見紛う所作。

だが、直感が告げている。これは――危険だ。


ただの紙が、モヤモヤしたオーラを放つ黒い何かに見える。


「それと、これを処理しておいてくれ」


――休暇申請書。


(……やっぱりなのだ)


最近やけに多い。

しかも、行き先は決まって人間界。

名目は“視察”。実態は――


「教会ですか?」


「……ああ」


否定はしない。


(魔王様の趣味が教会巡りとは……

 誰が想像するのだ)


「分かりましたのだ。

 各方面への調整は、こちらで行います」


「助かる」


クッパムの声には、かつての威厳よりも

疲弊と諦観が滲んでいた。


(元魔王側近――プラーナさんの件がなければ、

 ここまで消耗されることもなかったのだが)


その名は、胸の内に留める。



退出し、廊下を進んだ、そのとき。


――スゥー、ウォン。


空気が歪む。

闇魔法最高位、瞬間移動。


「……もう行かれたのだ?」


手元の申請書を見る。

開始日――本日。


「……即日なのだ?」


魔王は、すでに人間界へ消えていた。


「……ずるいのだ」



「誰かが休めば、

 誰かがその分、働く」


組織とは、そういうものなのだ。


テレッツは書類を抱え直し、

山積みの仕事へと戻っていった。

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