第3話 冒険者登録
この街にも、だいぶ慣れてきた。
魔法書の店、武器屋、道具屋、防具屋、服屋、魔道具屋。
外から眺めただけでも分かる。
人間の生活は、思ったより複雑だ。
「今度、ゆっくり見て回ろう」
そう思いながら歩いていると、視界の端に見覚えのある後ろ姿が映った。
「あっ」
あの眼鏡の子――プラッシーだ。
気づけば、自然と後を追っていた。
別に理由はない。強いて言えば、気になるだけだ。
*
プラッシーが入っていったのは、これまで見たどの建物よりも大きな施設だった。
中に入ると、ざわめきと汗と酒の匂いが混じった空気が鼻を突く。
「冒険者ギルド、か」
そういえば、コールさんが言っていた。
人間界では、ここで金を稼ぐのが手っ取り早いらしい。
中には、いかにも強そうな人間が多かった。
武器を背負った者、傷だらけの者、視線だけで威圧してくる者。
――でも。
「……嫌な感じ、しないな」
あれだけ集まっているのに、教会で感じた“居たくない”って感覚はない。
何人かは、はっきり分かる。
僕より、強い。
「人間って、弱いんじゃなかったっけ」
少し、考えを改める必要がありそうだ。
*
受付の前で、プラッシーが手続きをしている。
途中、後ろにいた大柄な冒険者に頭を軽く叩かれていたけど、そいつからは嫌な感じはしなかった。
……不思議だ。
ギルド内で、試しに《権能調律》を意識してみる。
「……反応、しないのか」
誰にも引っかからない。
刈れない。
つまり、ここにいる人間たちは、少なくとも“簡単には刈れない側”だ。
「僕が弱いのか、人間が思ったより強いのか……
それとも、油断している相手しか刈れていないのか」
考えるのは後だ。
来たついでに、僕も登録しておくことにした。
*
用意していた偽装用の身分を書いて提出する。
受付の――人間が、書類を見て目を細めた。
「まぁ……ご両親が病気で、あなたが大黒柱なのねぇ」
なぜか、頭を撫でられた。
「大黒柱って、強くて偉い大人のことじゃないのか?」
疑問は口に出さず、冒険者カードを受け取る。
E級。
「……下からか」
でも、ここから始めるのが人間界のセオリーなんだ。
目指すはてっぺんだ!
気分はこうだけど、僕にはやらなきゃいけないことがある。
強くならないといけないらしい。
*
ギルドを出て、街を歩く。
昨日出会った“嫌な感じ”を探しながら。
やっぱり、教会の周辺だけだ。
あの感覚があるのは。
しばらくすると、教会の外で神父と話している人間が目に入った。
「……いた」
神父はいつもの通り、嫌な感じがする。
でも、それ以上に気になるのは隣の男だ。
これまでとは違う、嫌な大きな波が押し寄せてくる気配。
身体つきは神父より弱そうなのに。
*
「神父様のお話を聞けて、とても良かったです」
「いえいえ。本当は、あなたのような強いスキルを持った方が、聖職者になるべきなのですが」
「私には家族がいますから。……そういえば、この前の子は奇跡だと」
「ええ、あれも神の御心ですね」
――強いスキル。
なるほど。
弱そうな人間。あいつは、危険だ。
*
隙を伺いついて行く。
男は一人になった。
教会の外の椅子に座り、気を抜いている。
……反応している。
「……今だ」
《権能調律》(闇)
刈り取る。
男は、がくりと前に倒れた。
同時に――
「――っ!?」
何かが、体の中に流れ込んでくる。
闇と聖が反発してるだけじゃない。
身体そのものが、拒絶している。
何かが、体の中を逆流してくる
背中を伝う悪寒が、内側で何かが変わったことを告げていた。
冷や汗。脂汗。
触れてはいけないものを掴んだ感覚。
視界が揺れて、意識が飛びかける。
「……っ、くそ」
数秒後、ようやく呼吸が落ち着いた。
周囲を見る。
刈られた男は、何事もなかったかのように立ち上がり、歩き出していった。
「……死なないし、気づかないのか」
*
スキルを確認する。
《聖光》(聖)
――聖なる光が周囲を照らす
「……使ってみるか」
意識を向ける。
――何も起きない。
「使えないじゃないか!」
それどころか、思い出しただけで気分が悪い。
「嫌な気分を味わっただけじゃないか……でも」
身体の中……かな?
属性の問題……かな?
よく分からないけど、使えなかった。
でも、直感が告げている。
これは、危険だ。
そのままにしてはいけない気がした
「……刈らないと、ダメだ」
*
危ない目には遭ったが、標的ははっきりした。
僕は悪魔の道具を取り出す。
「聖光、刈った!
聖なる光が周りを照らすらしい!
死にそうになった!
助けて!」
……よし。
自分の弱さを知っている僕は、きっと強い。
危ないスキルを刈った報告もした。
テレッツ様の評価も、きっと爆上がりだ。
そう思いながら、僕は街の灯りの中へと溶け込んでいった。




