第25話 違和感は、驕りを暴く
「今日は前に見た報告書を振り返るのだ」
誰もいない執務室で、テレッツは自分に気合を入れるように声を出した。
前回読んだ報告書に、どうしても引っかかる箇所があった。
何が違和感なのかは分からない。
だが――直感が告げている。
あれほど人間界を混乱させた“異物”が、
魔界を少し騒がせただけで終わるはずがない、と。
「テンヤ案件は注意悪魔に序列が上がったのだ……」
見落とせば、魔界も人間界の二の舞いになる。
クッパム様に任された以上、その責任は負わねばならない。
ただの直感。
されど直感なのだ。
何度読み返しても内容は正しい。
だが、同じ箇所で必ず引っかかる。
「……あっ……もしかして……」
テレッツは魔界の歴史書を開いた。
魔界で一度だけ、人間界の闇教会から“神の道具”を借りたことがあった。
普通の悪魔は触れることすらできなかった代物だ。
だが幼いクッパム様は、それを雑に扱って遊んでいた。
幼心に“魔王は別格なのだ”と理解した瞬間だった。
……巻き添えで怒られた記憶もあるが。
「関係のない話は置いておくのだ」
頭を振り、考察を積み直す。
あの時――能力のない魔族にも“スキルがあった”と言っていた気がする。
「まさかなぁ……ここに繋がるのだ……」
報告書、記録、記憶。
三つが一本の線になった。
「テンチ時代に刈った最初の聖光……。
後にカゲインが“使えないスキルだった”と報告していたのを、
整理の際に先入観で弾いていたのだ……」
無意識の差別意識。
スキルの無い魔族や魔物は弱い。
序列の低い者の管理の優先順位は低い。
気づけば、テレッツの体に力が入っていた。
危なかったのだ。
直感は、経験が驕りに変わった時ほど冴えわたる。
まだある……
ここにも違和感の種があるのだ。
「あいつ……完全複製を……噂が……繋がってしまったのだ……」
もう、事態は動き出している。
取り返しのつかない形で。
「……あ〜……天井の模様がいつもより歪んで見えるのだ……」
現実逃避。
だが、ぼんやりしている時ほど、嫌な予感は反芻する。
魔界の前提を覆す――
“スキルのない魔族や魔物は、聖を宿している可能性”。
テンチ時代の報告ミスは、悪意がないことは分かっている。
だから怒れない。
怒れないが……怒りたい衝動は確かにある。
報告をしなかったテンチ。
そして、それを見落とした自分。
怒りとも後悔ともつかない感情は、
いつの間にか、止めようのない世界の流れそのものへ向かっていた。
「これは、早めに動かねばならん案件なのだ……」
焦りと緊張からもう一度机に向かう。
頭と理性は繋がらない。
抑え込んだ感情が膝に出て、わずかに震えていた。




