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23話  影で学ぶこと

「おはよぉー。カゲイン、ご飯食べに行こう」


魔界の朝は、人間界より少し暗い。

大きな木が一本そびえ、風も陽射しもほどよく遮ってくれる。

わずかに差し込む光と風が混ざり合い、魔界らしい落ち着いた空気を作っていた。


「おはようデス。魔界の環境は丁度いいデス。今日はモヤを抑える“秘密の特訓”デス」


秘密の特訓。

なんてカッコいい響きなんだろう。

いつか魔王様みたいになれるのかな?


「僕の家の近くの庭でやろう。秘密だからバレちゃいけないでしょ?」


カゲインは首を横に振った。


「秘密だからこそ、テンヤ様が普段行かない場所じゃないといけないデス。コールさんに場所を教えていただいてるデス」


(やっぱりこうなるデス。秘密の特訓と言って正解だったデス。マザーズに知られたら特訓どころじゃないデス)


そっか。秘密だから、知られちゃダメなんだ。


「ここデス。土地勘は無いけど、地図が分かりやすくて助かったデス」


着いてみると、周囲の暗さが一段と濃くなり、どこか来た覚えのある場所だった。


「ここは影が更に濃い……デス」


ここは「召される君」と「怒りん坊ちゃん」がフワフワしやすい場所じゃなかったかな?


「じゃあ、ここで始めるデス。まずはテンヤ様が考えて抑えてみるデス」


僕は頷き、「分からないけどやってみる」と伝えた。


秘密の特訓が始まって数時間。


「テンヤ様、それは何を意識してるデス?」


「トイレで我慢してる時の感じ。漏れそうな時、キュッとすると出なくなるから」


「……収まらないデスね。では、くしゃみを我慢する時に鼻を摘む感じをイメージしてみるデス」


そんなこと、やったことない。

人間って不思議なことをするんだな。

魔法と同じで、イメージが大切なのかもしれない。


「……何も変わらないデスね。少し休むデス」


分からなすぎて、全部無駄に思えてきた。

ぼーっとしていると、「召される君」と「怒りん坊ちゃん」が何かに誘われるようにフワフワと近づいてきて、僕に当たると両方とも消えてしまった。


「……あっ……ゴースト……? ん? リッチ……? 分からないデス。聖に当たりに行ったデスね。墓場やダンジョン以外で湧くのは初めて見たデス」


カゲインがまた複雑そうな顔をしている。


「考えすぎは良くないデス。成果は無いし、考えても無駄デス。魔族や魔界の事を知るほうが大事デス。テンヤ様、散歩行くデス」


僕がカゲインの眉間のシワをじっと見ていたのに気づかれたみたいだ。


「行こう。特訓やっても変わらないから、飽きちゃった」


ゴーストは「召される君」の悪いやつだって聞いたけど、

リッチってなんだろう。

死んでも働くのはすごいけど……ちょっと疲れそうだ。


街へ向かう途中、言い争いの声が聞こえた。


「お前の畑の作物より2センチ成長が早いから、この土地の作物はオラが育てる!」

「いや、成長が早くてもスカスカの物ばかり育つじゃないか! この土地の作物は俺が育てないと売れないだろ!」


言い争いはどんどん激しくなっていく……と思ったら、

急に笑い合って肩を組み始めた。


「お互い仲が良いのに、否定し合うと拗れるのデス」


「月と太陽みたいに、仲良しなのに喧嘩して素直になれないのかな」


カゲインは何か言いたそうな目をしていた。


「……さすがテンヤ様……デス」


(本当に争っているなら、争いを納める方法か、どちらかの力の均衡を崩すしかないデス。とりあえず報告して、お二人の判断を仰ぐデス)


「少し散歩したら、もう一度戻って特訓するデス」


やらなきゃ任務が果たせない。

皆から期待されてるんだから、頑張らなきゃ。


---


ーー テレッツの幽閉解放計画①


悪魔の道具から低い音が鳴る。


「カゲインからの途中経過なのだ?」


カゲインからの報告とヘルプが書かれている。

天井を見上げながら思考を積み上げる。


テンヤは完全に“普通の悪魔”からかけ離れている。


「これは考えても分からんのだ……でも……概念のような存在なら……プラーナさんなのだ」


プラーナなら、制御方法や均衡の崩し方を知っているかもしれない。

淡い期待が胸に灯る。


「よし、プラーナさんに聞いてみよう」


会う理由ができて、心も体も弾む。

計画の一つが動き始めた。

だが慎重さも忘れない。魔王の側近として当然だ。


コンコン……コン……コン。


「そのノックの仕方はテレッツね。入っていいわよ」


相変わらず綺麗な声だ。

テンヤのテンチ時代からの成長を含め、状況を説明する。


「不思議な子ね。実際に会って、状態を見ないと分からないわ」


欲しかった言葉をもらえた。


「では今から行って、テンヤと仲間のカゲインと一緒に訓練を見てあげて欲しいのだ」


プラーナは視線だけをずらし、すぐに了承してくれた。

二人のいる場所の地図を渡す。


「訓練が終わって戻ったら、こちらに報告をお願いします」


幽閉解放に一歩近づいたこと、

そして悪魔の道具で自然にやり取りできるようになったことを、

テレッツは心の中で喜んだ。


職権濫用? 私利私欲?

そんなの関係ないのだ。


クッパム様にも共犯になってもらうのだ。


クッパム様に判断を仰いだ次の日、

玉座に手紙が置かれていたとコールから渡された。


読んでみると、長々と書いてあるが要約すれば――


「言質は取った。判断を仰ぐとは、休暇申請なしで人間界に自由に行っていいという意味だ。魔界の運営判断は任せた」


……と書いてあった。


「こうなったら自由にやってやるのだ」


執務室に戻り、書類の山を片付けて一息つく。

そこへプラーナからの報告が届く。


- 子供の欲は食べられない

- ただし、肥大化した欲は別

- テンヤは成長に必要な欲以上に承認欲が強い

- 聖も闇も“ただある存在”で、支配欲を感知したのかもしれない

- 光の支配欲を“味見”したらコントロールできた


テンヤ本人は制御できないため、

しばらくはプラーナによる制御練習が必須だ。


「あの子可愛かったし、支配欲は美味しかったわ。子供が相手だとコントロールもできるみたい」


最後の一文から、プラーナがとても嬉しそうなのが伝わる。


テレッツは、カゲインとプラーナに指示を出し、

計画を練り直す。


天井を見上げては、悩む。

その繰り返し。


人手不足の原因となるテンヤとプラーナは相性が良い。

だが――決して混ぜてはいけない二人でもある。

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