22話 祝福と違和感
気分が軽くなって、思わず伸びをした。
やっぱり人間界より魔界のほうが居心地がいい。
人間は仮面をかぶるから、どうしても複雑なんだ。
「報告に呼ばれたんだね。じゃあ行こう! そういえばカゲインは魔界をどれくらい見た?」
退院して通院に変わり、様子を見る期間になったばかりだ。
「コールさんから魔王城を少し案内されたくらいデス。それ以外はまだ見てないデス。コールさんから、一応一人での行動は控えるように言われたデス」
魔界は楽しいのに、もったいない。
でも一人だとすぐに“人間だ”ってバレちゃうから仕方ない。
逆に、皆が興味津々で話しかけてくるかもしれないけど。
そんな話をしていたら、あっという間に魔王様の部屋の前に着いた。
ガーゴイル君が手で「止まれ」と合図して、一礼して扉を開けてくれる。
……もう僕も大人に近づいてるんだ。
昔みたいにはしゃがないぞ。
中に入ると、お母さん達が周りにいて、映像魔法具のレンズで僕が入ってくるところを撮影していた。
奥には魔王様とテレッツ様が立って待っている。
隣のカゲインは状況が掴めず戸惑っている。
僕は報告に来たんだ。
でも、お母さん達は僕の“カッコいいところ”を期待してるはず。
「止まれ。楽にしろ」
重たい空気に、いくつもの変な色が混ざっている。
いつもより、部屋が静かに感じた。
魔王クッパム様も、なんだか疲れているように見える。
でも、それ以上にテレッツ様ははっきり分かるくらい疲れていた。
目の下に、くっきりクマができている。
魔王様もテレッツ様も、魔界のことで忙しいんだろう。
今度、テレッツ様の好きな「元気イン」を差し入れしよう。
できる人は察して動くんだ。
上司にアピールしなきゃ。
「では、報告しろ」
やっぱり魔王様は怖カッコいい。
「僕は羽が光って寝てた。すごく気持ちよかったです」
魔王様がテレッツ様を見る。
テレッツ様はお母さん達を見る。
お母さん達は拍手してくれた。
「……そうか、よくやった……。人間界では勇者のスキルを刈ったとか……気になったのだが、テンチよ……そのモヤはなんだ?」
皆の視線が集まる。
「体の中からドハーっと出てるのは権能調律と、そのスキルです。たぶん喧嘩中だと思います」
お母さん達は喜んでくれている。
これでいいんだ。
初めての魔王様への報告は上手くできてる。
胸を張ろう。
「……分かった……か、テレッツよ。後で話がある……」
テレッツ様は怒られるのかな?
なんだか可哀想になってきた。
あんこ丸も差し入れしよう。
魔王様の視線が僕に戻る。
「……では、テンチよ。新たな指令だ」
ということは、人間界は壊れたのかな?
それとも続き?
分からないから後でカゲインに聞こう。
「もう一度人間界へ行け。
お前が反応したものだけを刈れ。
価値も、善悪も、理由も――考えるな」
今回はちゃんと重要な任務だ。
やることを指定してくれて、期待されているのが分かる。
嬉しくて背筋が伸びる。
テレッツ様から指令書を渡される。
「今回の働きに報奨を渡す」
……何かくれるのかな?
「ありがとうございます」
これを言っておけば間違いないはず。
皆の視線がまた僕に集まる。
なんだか緊張してるみたい。
「テンノン=チマルンを改め、テンノン=モヤルンと名付け、序列を中位悪魔とする。
以降、愛称もテンヤとする」
拍手が一気に起きた。
倒れるお母さん、泣くお母さん。
「以上。行ってよし」
お母さん達の応援の声と拍手がやまない中、誇らしく胸を張って歩く。
コールさんが来て、僕とカゲインはテレッツ様の執務室へ連れて行かれた。
長く待つみたいで、お菓子や飲み物が用意されている。
コールさんがカゲインに耳打ちしていた。
聞き取りにくかったけど、「強い集団」だとか「厄介な種族」とか、そんな言葉が混ざっていた。
どうやら“強い集団の暴走”を抑えに行くのにカゲインが必要らしい。
気のせいか、カゲインの顔が固くなった気がした。
僕は見送ったらお留守番。
きっとすごく強い集団が暴れてるんだ。
だから優秀な僕は避難で、カゲインは回復役で選ばれたんだ。
今度は戦いにも選ばれるように、もっとスキルを刈ろう。
あんこ丸みたいに“成敗スキル”があればカッコいい。
いっぱい刈って見つけよう。
お母さん達に会えて嬉しかったけど、ちゃんと話したかったな。
残念。
怪物のような親達の暴動か。
早かったから、そこまで暴れてはいなかったんだろう。
「お帰り。大変だったんだね。ケガもなくて、二人が戻ってきたのが嬉しいよ」
テレッツ様とコール様は、一瞬だけ目を合わせた。
顔を見合わせ、笑い合う。
コールは笑って去っていった。
「大丈夫デス。暴力とかではないので……」
それなら良かった。
しばらくしてテレッツ様とコールさんが戻ってきた。
「まずは中位悪魔への繰り上げ、おめでとうなのだ」
三人に褒められて嬉しい。
「テンノン=モヤルンです。愛称がテンヤに変わった。魔王様にも期待されてるんだ」
テレッツ様とコール様が目を合わせる。
「テンヤ様が偉い人に近づくのは、カゲインが沢山お手伝いします」
(……マザーズの圧が半端なかったデス。下手に刺激する危険デス……。テレッツ様とコール様の疑念をテンヤ様に気付かれないように配慮せねばデス)
「……カゲイン! 僕はもっと頑張る。もう元気だから、人間界で刈りに行こう」
この一言は全員に止められた。
まだモヤモヤが消えないと、人間界では止められるらしい。
抑えられるように訓練しなきゃ。
四人で今後の話し合いをした。
僕が分からなくても、カゲインが分かってる。
これが“会議”というものなんだ。
分からなくても黙って頷くのが大人の一歩――
パン屋のおじさんが言ってた。
でも、胸の中に違和感が残った。
分からないことを分かったフリをすると、
分からないことが積み重なって、何も言えなくなる。
頷く度に心が反対側に行っちゃう感覚がした。
これはダメだと理解した。
だから帰り道でカゲインに正直に伝えたら、胸の違和感が消えた。
僕のやることは、光と闇のモヤを抑える訓練。
明日から頑張るぞ。




