第21話 目覚めと、争うもの
「……気持ちいい……スッキリ……」
誰にも届かない、小さな独り言が零れた。
腕や胸に残る違和感。
何かが起きた――それだけは、はっきり分かる。
目を動かすと、周囲で医療魔道具が低い音を立てている。
そして、それらが自分の身体に繋がれている感触に気づき、ハッとした。
……あっ。
断片的に、記憶が浮かぶ。
勇者のスキルを刈ったこと。
翼が勝手に飛び出したこと。
召される君を思い出したこと。
一つずつ、確認するように辿っていく。
結論――よく分からない。
まあいい。
忘れることは、人生を楽しくするコツだ。
……ここ、どこだ?
「……っ! まさか……あんこ丸で見た、改造される研究所?」
その瞬間、隣のカーテンがシャッと開いた。
そこにいたのは、衣服を畳んでいるカゲインだった。
「起きたデス! 良かったデス!」
「ここは魔界の医務室デス。自分が誰だか、分かりますか?」
良かった。
改造されてなかった。
魔界にいるのも、正直ちょっと嬉しい。
……でも、なんでそんなことを聞くんだろう。
「魔界の下位悪魔、テンノン=チマルン。10歳です」
その答えを聞いた瞬間、カゲインの表情が明らかに緩んだ。
深く息を吐き、肩の力が抜ける。
医療魔道具に繋がれている自分より、ずっと疲れているように見えた。
「色々確認したいことがあるので……
あんこ丸に改造されたと思った話は置いといて、
何が起きて、こうなったか、覚えてるデス?」
起きてすぐ、思い出したことは伝えた。
でも、ここに運ばれた理由までは分からない。
「……5日間、眠ってました。
医療魔道具が鳴ってるのが、安心の一つでした……
本当に、心配したデス」
寝る子は育つ。
5日も寝たんだ。
きっと、僕はすごく成長したはずだ。
「そんなに寝て成長したなら、お母さんたちに報告しなきゃ!」
カゲインの肩が跳ねた。
手足をばたつかせながら、必死に説明してくる。
「そっか。
じゃあ、先にテレッツ様と魔王様に報告しろってことね。分かった」
カゲインは悪魔の道具を操作し始める。
動きは早くて、長くて、正確だ。
報告の仕方を教えようと思ってたけど……
これなら大丈夫そうだ。
「ちなみに、気づいてるか分からないデスが……
なんか、モヤモヤと動いている闇と光は、何なんデス?」
唐突に言われて、すぐには思い当たらなかった。
「……あっ。言われると、分かる」
身体の中から溢れている。
何かが外側で、暴れている感覚。
魔力とは違う。
意識を持った“何か”が、争っている。
「……ありますデス。はいデス」
渡された鏡を覗くと、闇が光を押さえつけているように見えた。
自分の感覚と、映ったものを重ね合わせる。
「……多分、権能調律と……
あの時のスキルが、喧嘩してる」
合っているかは分からない。
でも、そう感じたから、そう言った。
「あの時というと……
勇者スキルを刈れた時、デスね……」
(争っている……
勇者スキルを刈れたのは事実デス。
でも“争っている”という表現は、そのまま受け取れないデス。
偉い人や、マザーズのこともある……慎重に判断するデス)
……また、考えすぎている時の顔だ。
人間は、考えて複雑にするのか。
それとも、複雑だから考えるのか。
……あれ?
分からなくなってきた。
「考えてることは分からないけど、眉間に皺はよくないよ」
これだから、カゲインは疲れるんだ。
せっかく元気の源なのに、もったいない。
「僕、もう少し休むから。
カゲインも、ゆっくりしてきていいよ。
ずっと見ててくれて、ありがと。
心配かけて、ごめん」
謝罪と感謝は同じにしちゃいけないって、
お母さんたちに言われてる。
でも、早く寝て、元気になってほしかったから――
言っちゃった。
ごめんね、お母さんたち。
「分かったデス。
意識が戻って、本当に良かったデス。
謝らなくていいんデス。
じゃあ、また明日来るデス」
名残惜しそうにしながら、手を振るカゲインを見送る。
静かになった医務室で、鏡をもう一度覗き込む。
「モヤは、なんで争ってるの?」
返事がないことは、分かっている。
それでも――
「仲良しが、一番楽しいよ」
争いは、悲しい。
そう感じてしまったから、
言わずにはいられなかった。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
更新ペースについてですが、今回から週一ペースに変えさせていただきます。
理由としては、現在もう一つの物語を執筆しているためです。
「守る」というテーマを、
権能調律とは全く違う形で描いた作品になります。
もし興味を持っていただけたら、
そちらも覗いていただけると嬉しいです。
これからも、権能調律をよろしくお願いいたします。




