第2話 観測対象者(プラッシー)
第2話 観測対象者
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今日は、昨日の子を探してみよう。
会えるかな?
そんな気持ちで、僕は街へ出た。
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色んな道があって、色んな店があって、所狭しと並んでいる。
魔界も人間界も、基本はそう変わらない。
でも――ひとつだけ、大きく違うところがある。
人間界の街は、建物がやけに密集しているのだ。
魔界では、種族の違いが大きい。
大型種や翼を持つ者も多いから、建物の間には余白がある。
でもここは、違う。
建物がぎゅうぎゅうに詰まっていて、空が狭い。
その違いが、なんだか面白く感じる。
僕は胸を躍らせながら、街を歩いた。
*
ふいに、鼻が空気の変化を捉える。
……スンスン。……スンスン。
焼いた肉の匂い。
甘い油の香り。
これは、きっと――
人間界のごはんの匂いだ。
美味しそう。
よだれが出そう。
人間界で一番楽しみなのは、きっと食事だ。
作物の種類は魔界と似ているけど、調理の仕方が違う。
お母さん達が言っていた。
「人間界の料理は、魔界のより美味しいかもしれないよ」って。
人間は工夫を沢山するらしい。
正直、まだよく分からない。
でも、なんとなく――期待してる。
……あ、そうだ。宿に行かなきゃ。
*
さっき見つけておいた場所へ向かうと、すぐに辿り着いた。
宿は、ここだ。
中に入って、話をして、お金を払う。
それだけなのに、妙に長く感じた。
「両親はどうしたの?」
「お金は持ってる?」
「遠くから来たの?」
いろいろ聞かれたけど、全部テレッツ様から教わった通りに答えた。
すると、朝ごはんのサービスが付いた。
「僕は家族の大黒柱だよ」って言ったら、さらに優しくなった。
……なんでだろう?
人間界は、魔界と違う。
*
宿も確保できたし、まだお日様は眠っていない。
もう一度、街を回ってみようかな。
テレッツ様は言っていた。
「人間界に溶け込み。
スキルを、たくさん集めてくるのだ」
直属の部下であるコールさんから、集め方と溶け込み方は教わっている。
ただ、難しいことはあまり覚えていない。
「羽を出すな」
「目立つ行動を取るな」
「空を飛ぶな」
これは覚えている。だから、きっと大丈夫だ。
最初の危機も、閃きで回避したんだ。
……ただ、偉い人に怒られたくないだけだけど。
*
そんなことを考えていたら、目の前に見知った背中があった。
あっ。プラッシーだ。
今日はどこへ行くんだろう。
少し、後を追ってみる。
プラッシーは屋台で食べ歩きをしていた。
店主と楽しそうに話している。
僕は片手に飲み物と、屋台の串焼き。
美味しくて、いくつも食べられそうだ。
魔界の料理とは変わらないけどタレが食欲を刺激する。
美味しく食べて健康を保とう。
一石二鳥だ。
*
何を話しているのか気になって、少し近づいて耳を澄ませた。
「今朝、教会で“効果不明だけど二つのスキルを持つ特別な子が出た”らしいね」
「あと勇者の卵がこの年で現れたそうだよ。仲間になっておくと出世できそうでうらやましい」
……特別な子として、自分の噂を聞きに来たんだな。
こういう話は、どんどん尾ひれがついて、勝手に変わっていく。
魔界でも僕の噂は沢山追加されて、別の噂になったかと思ったくらいだ。
キミは今しか聞けない、楽しい時間だ。
うん、お互い、情報収集は大切だ。
*
「これからも見てるよ」
「最初にスキルを使った、君のこと」
相手は見ていない。
でも、僕は手をふる。
君の動きに、注目してくよ。
不安。
興味。
いろんな気持ちが、この行為に込められていた。
*
魔界から人間界へ飛んできて、今日一日。
さすがに、疲れた。
宿に戻ろう。
重くなった足取りで歩きながら、ふと思い出す。
「やったことは、全部報告するのだ」
テレッツ様の声が脳裏に響いて、背筋が伸びた。
……でも、あんまり細かくは覚えてないや。
忘れることは、人生を楽しく生きるコツだ。
悪魔の道具を取り出し、意識を流し込む。
潜入成功!
宿確保!
ご飯美味しい!
お金、もっと欲しい!
今日一日、街を歩いて、見て、食べて、ちゃんと報告もした。
「完璧だ」
満足して、布団に潜り込む。
「明日は、何をしようかな……zzz」




