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第17話 誰の為でもない光(後)・前半

テンチが走る。

その後ろを、カゲインが追いかける。


微笑ましい光景だった。


けれど、風景は一転する。

晴天の空陰り、風が強く吹き始め、陽射しは柔らかいが、肌の奥にまで刺さってくる。

自然の力には、抗えない。制御もできない。

だからこそ、尊い。


テンチは今、“大人の階段”を登っている途中。

そして、戦略的行動という言葉を、自分なりに応用し始めていた。


「カゲイン! 僕はお小遣いを一人で使うという楽しみをしたい。

 だから、街を一人で歩きたい。後から、僕を守っていて欲しい」


唐突な申し出に、カゲインは少し考え、息を吐く。


「大丈夫デス。見守るのも戦略的行動デス。そこに辿り着いたテンチ様は天才デス」


(この間から“大人”とか“独り立ち”って言葉をよく使うデス。

 大人ぶりたい年頃なのデス。微笑ましいデス)


(でも、初めてなので念のため、コールさんにヘルプだけしておくデス)


テンチの翼がムズムズする。

でも、我慢できる。大人だから。


少しの違和感を抱えながらも、カゲインの了承を得た。


パチクリを使わなくても、風格と威厳で納得させられた。

なんてったって、僕はもう“大人の階段”を登っている。


……踏み外してないよね?

ちょっと不安。


でも、良い上司であり、良い仲間なんだ。

人間の悩みにも応えられた。

だから、僕はちょっとずつ進むんだ。



興奮しながら、あちこち歩き回っていた。

気づけば、公園に着いていた。


仕事ばかりで、人間たちが集う場所に来たのは初めて。

ちょっとここで、何を買うか考えよう。


公園内を歩いていると、

一人、ポツンと項垂れるジュンシの姿が目に入った。


近づくほどに、あの“嫌な感じ”はある。

でも、かなり薄い。


《権能調律》も反応しているけれど、まだ“刈れない”。

けれど、本能とスキルが知らせてくる。


――刈れるタイミングが、近い。


情報だけでも収集しよう。

なんか気になるし、寂しそうだし。


僕はカゲインを観察して、聞き出し方を学んできた。

やるぞ!


「こんにちは、僕はテンチ。一人で悩んでるみたいだったから、話しかけてみた」


ジュンシが訝しげに僕を見る。

でも、その瞳には寂しさや不安、希望や嬉しさもある。


入りとタイミングは良さそうだ。

僕は、良い頃合いに来ることができたのだろう。


運も、実力のうちだ。


「一人で考えても、悩みは繰り返すから。邪魔じゃなければ、話を聞くよ」


訝しげだった目が、一転して縋るような目に変わる。


「こんにちは……その目は、僕のこと……知らないみたいだな……」


「改めて……僕はジュンシ。君の言う通り、悩んでる。悩みは、深いんだ」


一度認めて話し出すと、人間は詰まるまで話し続ける。

パン屋のおじさんもそうだった。


でも、この切り出し方は、“聞いてほしい”から。

切り出し方の温度を探ってるって、僕は知ってる。


ここで、あのコンボ。

頷く → 「どうしたの?」


これだけで、解放される。

僕は、コールさんにこれで解放された。


頷く。


「どうしたの?」


ジュンシの態度が変わる。

偉い人に悩みを話すような、そんな姿勢。


やっぱり、僕は風格と威厳が溢れてるんだ。

これで僕も、偉い人の仲間入り?


「僕の悩み……なんだけど」


一呼吸。一拍の間。

それが、悩みの噴出の入り口。


「冒険者をやっていて、討伐をしてるんだけど、仲間がいつの間にかスキルが増える特別な子なんだ」


あっ、これプラッシーのことだ。


「僕は誰よりも強くならなきゃいけない運命なんだ」


羨ましい気持ちがあるから、プラッシーの話をしたんだ。

分かったけど、どんな運命なんだろう?


もっと話してもらうために、真剣に聞く。


「僕はその特別な子と同じくらい特別で、周りから期待されてるんだ」


周りって、誰?

期待って、どうして?


「だから、僕はすごく悩んでる」


よく分からないところを、聞いてみよう。


「運命とか特別って言葉が気になるけど、なんでそんなに周りから期待されてるの?」


空気が、石材のように重くなる。

時間が経てばどんどん積み上がる。

ジュンシの手が、背筋が――僕を拒むように距離を取る。


人間界特有の、“言ってはいけなかった一言”で流れる空気感。


「濁してたのに、聞いてくるんだね」


積み上がった空気の壁。

でも、まだ隙間がある。


訂正も逃げもしてはいけない。

だって今日は、“聞くこと”が仕事なんだ。


あと、悩んでるのはきっと辛い。


もう一度、あのコンボ。頷く。


「言わないの?」


僕のたった一言。

風が、積み上がった壁の隙間に入り、揺らし、崩していく。


空気が柔らかくなり、張り詰めた緊張が解けていく。


その揺らぎが、ジュンシの口火になった。


「ただ単に、悩みを言えって善意なのが伝わった。そうだね、言わなきゃ伝わらないね」


ここ! パチクリ発動!

もっと聞きたいバージョン!


「はははっ。君は落ち着いてるのかと思ったら、冗談もできるんだ。

 負けたよ。言うよ」


「僕は――勇者の卵なんだ」


……えっ?


そうなんだ。

勇者って、魔王様と戦うやつだ!


だから、強くなりたいのか。

話は、分かったぞ!


「……勇者の卵……か。聞きたいんだけど、どうすれば、君が思う“強さ”になるの?」


ジュンシが、祈るように空を見上げる。

まるで、雛鳥が母鳥の帰りを待つように。


「プラッシーは、スキルを誰かから貰ったんだ。

 でも誰に貰ったか、何度聞いても、分からないって、いつもはぐらかすんだ」


「どんどん強くなっていく。

 僕は、どんな人より強くなる運命なんだ。

 でも、近くに僕より効率的に強くなれる“化け物”がいる。

 勇者は、それを越えていかなきゃいけない。

 ……そんなの、無理だろ!」


そこからは、ほとんど同じ言葉の繰り返しだった。

ジュンシの中に溜まっていた“叫び”が、堰を切ったように溢れ出す。


僕は、知っている。

これは“解放”だ。


僕がコールさんに打ち明けたときと、同じ。

分からないから止まらない。


……そうだ。

元々、プラッシーのスキルを戻したのは、僕だった。


なんか、違和感がある。

でも、今は後回しにしよう。


ジュンシの心を、少しでも軽くしたい。


神父を見て僕は学んだ。

「神と奇跡を混ぜて話せば、人間は感動する」と。


なら、目の前にいる“偉い人”が言う言葉は、もっと響くはず。


「そうなんだ。はぐらかすってことは、いつの間にかそのスキルを手に入れたのかもね」


ジュンシは、もう聞いていない。

鬱憤が溜まりすぎて、言葉が届かない。


「誰なんだよ! 貰えないなら、勇者を辞めさせてくれ!」


……あっ、来た。


体の産毛が逆立ち、肌がピリピリする。

その反応が、翼の根元に集まり、背骨を伝っていく。


意識しなくても、分かる。


――もう、刈れる。


でも、発動の前にやることがある。


前みたいに、死にそうになる前に。

少しでも、君を楽にしてあげたい。


「きっとそれは、神の奇跡。

 だから、勇者になる君なら、奇跡はきっと君にも起こるはず」


(完全複製はあげられない)

(今、複製して分配できるのは《聖光》だけ)

(魔王様は……無理だと思う)

(でも、少しでも強くなって、君の気持ちが楽になるといいな)


《完全複製》

→《聖光》を複製

→《権能調律》

→《聖光》をジュンシに分配


これで、準備は整った。


(ごめんね)

(でも……僕は、これしか思いつかなかった)


その瞬間――


ジュンシのスキル《聖斬》が、僕の中に流れ込む。


神は、人間が魔王に抗うために、

“善意の心”を持つ者に力を与えた。


ジッ……ビリリリ……バサーッ!


僕の身体から、翼が暴走気味に広がる。

服を突き破り、空へと解き放たれる。


翼が広がり、僕の身体がふわりと浮かぶ。

人の身長分、宙に浮いた。


「あっ……僕……死ぬのかな?」

魔界で見かけるフワフワ浮いてる存在。

いつも話しかけてみると、光に当たって消えちゃうんだ。

お母さん達から「召される」君と呼ばれてたな。

消える時、とても気持ち良さそうに見えた。


痛いのは、嫌だ。

苦しいのも、嫌だ。


でも――

「あっ……ちょっと……」


言葉にならない。

でも、身体が拒んでいない。


制御できず、フワフワと浮かび、翼が光る。


「あっ、ちょっと気持ちイィ……」


思考が止まりかける。

声だけが漏れる。


「あっぁー……ヤバい、拒めない……ヤツだ……」


意識が、段々と途切れていく。


自然と、視線が空へと向かう。


「僕……溶ける………溶けちゃう……」


目が、白く染まる。


「……カゲ……タスケ……」


そのまま、宙に浮いたまま、完全に意識が飛んだ。


――世界は、静かにそれを見ていた。

名も、意図も、まだ与えられていない光を。


その場にいた者たちは、目を奪われた。

悪魔の翼は、黒い。

けれど、テンチの翼は違った。


不思議な光を放つ翼に、畏怖と敬意が混ざる。

本能が、それを“特別”と感じ取る。


その光は、昼間の陽射しにも負けない温かさで、

その場の空気を支配していた。


ジュンシは、意識が戻る。

目の前の光景に、戸惑いよりも先に――


「感謝」の二文字が、脳に浮かんだ。


説明はできない。

でも、何かが変わったと感じた。


誰にも届かなかった想いを、初めて受け取ってくれた存在に。

ジュンシは、手を合わせた。


「テンチ……様……これは……」


カゲインが、我に返る。

状況は飲み込めない。

けれど、今できることは一つ。


――テンチを、救うこと。



同時刻。

コールがテンチを抱き上げ、状態を確認する。


カゲインの腕を掴み、瞬間移動。

魔界へ。


カゲインは、状況を飲み込めず、うろうろする。


「なんデス? テンチ様を、コールさんが……」


そこにいたはずのコールは、もういない。


テンチを医務室に運び、状況を説明し、

その足でテレッツへ報告。


報告内容をまとめ、クッパムへ提出。


流れるように処理を終え、

再びカゲインのもとへ戻る。


「医務室へ。今は、それが最優先です」


カゲインは、何が起きたのか分からないまま、

言われた通りに、医務室へ向かうしかなかった。



解き放たれた翼。

因果を結ぶ出来事。


勇者は、その後どうなったのか。

あの場に、誰がいたのか。

あるいは、誰が“見ていた”のか。


それは、まだ誰にも分からない。


ただ一つだけ確かなのは――

運命は、ここから本格的に、

予想もできない方向へと動き出す。

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