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第16話 誰の為でもない光(前)

――いつかの勇者たち④

(ジュンシ視点)


晴れた朝。

風は穏やかで、陽射しは柔らかい。

自然の恵みは全ての生き物に平等なのである。

街は活気に満ちていた。


けれど、僕の心はその正反対だった。


今日は二人が用事で、冒険者の仕事は休み。

目的もなく歩き、気づけば公園のベンチに腰を下ろしていた。


「皆は用事。僕は……何もない」


今日、何度目かの溜息。

考えるべきことは山ほどあるのに、体が動かない。


「……願いの羽、欲しかったな……」


自然と拳を握り、空を見上げる。


僕の願い――それは、強くなりたいということ。


「プラッシーみたいに、いくつもスキルが取れるスキルが欲しい……」


僕には《聖斬》がある。

勇者だけが持つ、特別な力。


すべての障壁を無かったことにし、

纏う聖を一撃に込める。


強い。間違いなく強い。

でも、それは“一撃”にしか使えない。


燃費が悪く、戦闘では扱いづらい。


僕は同い年の子より身体能力の成長が早い。

けれど、それだけだ。


「スキルをたくさん持てるスキルがあれば……」


ありまっす口調で、元彼女がいて、多数スキル持ち。

効率厨で、理屈っぽくて――

それでも「自由」で、「芯があって強い」。


……正直、惹かれる魅力がある。


じゃあ、僕は何だ?


「勇者」

「身体能力が高い」

「愛してはならないが、愛される存在」

「悩み、考えれば強くなる」


言葉にして整理した瞬間、

言いようのない敗北感が胸を刺した。


勇者という肩書きが、ただ重いだけの飾りに思えてしまった。


《完全複製》の複製版は、誰かから貰ったと言っていた。

何度聞いても、とぼけられる。


プラッシーは、もっとスキルを応用すれば輝くのに……。


分かってる。

本当は――羨ましいんだ。


「勇者としての演出……疲れるな……」


背もたれに沈み込み、わずかに指先を震わせる。


もしこのまま、プラッシーの方が“役に立つ”存在になったら?


「プラッシーが魔王を倒せるとしたら、僕は何になるんだろう?」


「僕はただ、強くなりたいだけなのに……

 どうして、こんなにも苦しいんだろう……」


誰もいない静かな公園で、

勇者は飾らない一人の人間として、深く悩んでいた。


これが欲なのか。

それとも、勇者としての運命なのか。


その答えを、まだ誰も知らない。


---


――その頃のテレッツ


「よし、時間なのだ。プラーナさんに会えるのだ。

 今日は上質な《火》が手に入ったから、きっと笑顔が見られるのだ」


(幽閉管理三十年。片思い歴、六十年……)


足取り軽く、塔へ向かう。

淡い恋心を胸に、苦悩の中間管理職は今日も業務をこなす。


「プラーナさん、食事なのだ」


そこは、深海から中層へ浮上する途中のような空間。

薄暗く、重く、圧迫感がある。


深海に入った後悔。

光を求めてもがく苦しみ。

そのすべてが、この塔の空気に染みついている。


食事を見る彼女の瞳は、濁りがない。

けれど、その奥には底知れぬ“餓え”が宿っているように見える。


「《欲》と《火》以外は食べられるけど、反応がイマイチなのだ。

 彼女の好きなものを見つけられるのは、皆さんだけなのだ。お願いするのだ」


お付きの者たちに、料理や会話の工夫を頼み続けて三十年。

成果は――ない。


初恋を拗らせすぎて、いつの間にか目的が分からなくなっていた。


(外に出せれば……《欲》なら、人間から摂取できるのだ)


あれは一目惚れだった。

クッパム様が彼女を側近につけた日。


ミス魔界の美人が同僚になる。

期待しないわけがない。


出会った瞬間、頭に電撃が走った。

目が、離せなくなった。


でも――

「あの時」、気づくべきだったのだ。


彼女の体質、《欲》を食べる異常性と、

魔王クッパム様の変化に。


彼女にとって、「野心」も「支配欲」も、極上の食事。


やがてクッパム様は愚痴をこぼすようになり、

彼女の食欲は制御できなくなった。


そして――

「魔王の欲」は、消えた。


火の魔人、プラーナ。

人間の欲の暴走を止めるために生まれた存在。


だからこそ、唯一の「魔人」なのだと、クッパム様は言っていた。


魔王という食事を失い、

魔界の高位種族の欲を次々と食べ――

結果として、プラーナ鬱を量産。


欲を失った高官たちは、次々と辞職。

魔界は静かに、回らなくなった。


これ以上の離職を防ぐため、彼女は幽閉された。


「ねぇテレッツ。食事、美味しかったわ。ありがとう」


笑顔が見れた。

その笑顔は、美しくも燃える火のように妖しく、

触れてはいけない凛とした危うさを纏っていた。


「でもね……ダイエットしなきゃいけないの。

 あなたが沢山用意してくれるのは嬉しいけど、これじゃ出来ないわ」


どうすればいいのだ?

幽閉では、食事しか娯楽がない。


「分かったのだ。せめて、食事だけでも楽しんで欲しいのだ。

 ダイエットについては……そう、考えておくのだ」


そう言って、部屋を辞する。


解決策を探す。

運動ができて、外に出られて、欲が少ない存在――


……居たのだ。テンチ。


欲が少ない存在。

人間界へ行くなら、本来の役割。

プラーナさんは元魔王側近で有能。役割は、分かっている。


これで解放できる……

否――解放する。


それが正しい選択なのかも分からないまま、一呼吸。


スゥー……はぁ……。


決意と迷い、不安が混じる。


「業務上、テンチは問題が多すぎるだけなのだ。

 だから……プラーナさんを、一度、外に出すのだ」


「……礼を言われたいわけじゃないのだ。

 ただ、覚えていてくれれば……それでいいのだ」


「後は……どこで、解放するかのタイミングだけなのだ」


それが正しいのか、間違っているのか――

テレッツ自身にも、もう分からなかった。


恋という私欲で、

独断専行の計画を動かし始めるテレッツ。


業務はまだ沢山残ってるぞ!

そしてもっと増えるぞ!

頑張れテレッツ。

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