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第15話 誰の為でもない光

朝から、体がふわふわしている。

飛びたいなぁ。


だめなのは分かってる。

でも、昨日もっと翼を広げていたら、

こんなにウズウズしなかったのかもしれない。


心も体も、成長期。

卵で言えば、殻にヒビが入った状態らしい。


僕の中身は、卵黄と白身なのかも。

美味しそうだから、悪魔は狙われる。


だから人間は、悪魔を食べたがるのか。

うん、納得。きっと調味料も持ち歩いてる。

これはカゲインに報告だ!

「一周回って天才デス。さすがテンチ様デス」

(卵に例えたのは自分デス。そこから黄身と白身に飛ぶとは……どんな思考回路デス)


さぁ、体も快調! 配達、始めるぞ!


「日に日にスピードが上がってるデス。

 悪魔はこれまで沢山見てきたデスが、テンチ様の成長は異常な気がするデス」


なんだか、僕を見る目が“偉い人”を見る目だ。

きっと、天才で特別だと再認識したんだな。嬉しい。


カゲインは、演技が下手で嘘をつかない。

信頼できる部下で、信用できる仲間だ。



……パカラ……パカラ……ドンッ!


ヒーンッ! ブルブルブル……


馬が止まり、目の前に倒れたのは、さっきまで元気だった男の子。

配達物を渡して、はしゃいでいた子だ。


ほんの一瞬。

次の荷物に目をやった、その間に。


「事故だ! 教会から回復か、近くの魔法医! 早く!」


誰と確認する間もなく、凄惨な現場に息を呑む。

首と目が反応し、心と声が一瞬で放たれる。

体より心は早く行動する。

「カゲイン!」


目が合った瞬間、カゲインは走り出し、男の子に回復を施す。


淡い光を、闇が包む。

仰々しくない、優しくて幻想的な光。


その光が、撫でるように傷へと移動し、

みるみるうちに、怪我が塞がっていく。


「気持ち悪い光ね」

「あれが噂の闇魔法医?」

「受けるのも嫌だわ」

「気持ち悪い。二度手間なんだよな」


周囲から、似たような声が噴き出す。


カゲインは、絶対に聞こえてる。

でも、回復を止めない。

深い傷が塞がり、男の子の意識が戻りかける。


キミは今、迷って、悩んで、傷ついてる。

それくらい、震えから伝わるよ。


初めて会ったときみたいに、背中も曲がってる。


「神官か、聖魔法医はまだなのか?

 心が心配だ。闇魔法医なんて……」


治してるんだ。

カゲインは、治してるんだ!


お前ら人間の子を、助けてるんだ!


叫びたい。

でも、叫べない。


人間界の空気感。分かってる。

学ばなきゃ。馴染まなきゃ。


今ごろ僕は、叫んでる。叱ってる。怒鳴ってる。

でも、それはタブーなんだ。


「カゲイン。自分が正しいことをしてる。

 周りに流されないで……」


ああ、複雑だ。人間は、複雑すぎる。



男の子の息が落ち着き、意識が戻る。


「怪我、お兄さんありがと。でも気持ち悪い。なんか怖い。離れて」


「分かったデス。後は神官や聖魔法医に相談するデス」


周囲の視線が、冷たい。


カゲインが僕の手を引く。

引きずられるように、その場を離れる。


突き放すの? 治してくれた恩人だろ?

おかしいだろ? 周りもおかしい。


治ったあと、心が心配?

じゃあ、最初から助けなきゃよかったの?


言葉が喉まで来て、でも出せなかった。

出したら、何かが壊れてしまいそうで。



現場から離れ、手を振り払い、カゲインと向き合う。


「カゲイン! 君は誰のために、その力を使ったんだ!

 どんな結果にしたかったんだ!」


「悩んでるのは分かった。

 人間界でどんな扱いかも、見た。

 で、同じ状況が起きたら、どうするんだ?」


カゲインは、姿勢を正し、深く息を吸う。


顔に力が入り、まっすぐ僕を見る。

迷いのない、澄んだ目。


「誰のためでもない。

 結果として、誰のためにもなる動きをするデス」


「何度起ころうとも、それが誰であろうとも、救うデス」


ここで逃げない。

その選択だけが、残った。


テンチが変わる。

カゲインが変わる。


お互いに、そして真剣に、心を見つめる。


ここで初めて、二人は――

“偽りの上司と部下”を超えて、

“心で会話する同志”になった。


言葉ではなく、芯でつながる。


その微かな振動は、

世界へと広がる始まりだった。

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