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第14話 森の異変②

今日は配達の仕事が休み。

テンチは鏡の前で、真剣な表情を浮かべていた。


「パチクリ……パチクリ……」


威圧スキルの練習中。

この“パチクリ”は、たくさんの人に効く。

だから、磨いておかなきゃいけない。


上司は、強くなきゃいけない。

一つを極めれば、魔王様にもお願いが通じるかもしれない。


目素振り。目筋トレ。パチクリ百回。

……よし、完了。



「カゲイン! 暇すぎて意味のないことをし続けるな、ということを、僕はこの休みから学んだ。

 だからご褒美だ。最近、願いが叶うって噂の鳥がいるだろ?

 その光る鳥の、光る羽を取りに行こう!」


「……光る鳥、デス?」


今だ。

威圧スキル、パチクリ発動。


「ねぇ、いいでしょ?」


「……何をしてたのかは気になるデス。

 まぁ、それもいいデス。ご褒美デス。

 光る鳥には会えないと思いますが、用意して行くデス」


(ここ最近、テレッツ様から「テンチ様案件の報告は、緊急時以外は溜めろ」と言われてるデス。

 テンチ様の変化をまとめる、良い機会デス。魔物達の動きも、調べるデス)


(それに……またテンチ様のパチクリを見られたのは、役得デス。役得?……まぁ、良かったデス)


やっぱり、カゲインには効いた。

このスキルは、タイミングが大事だ。



外に出ると、また飴をもらった。

なんか、いろんな人から。


人間って、どうしてこんなに僕に好意的なんだろう。

そんなことを考えているうちに、森に入った。


空気が、重い。

何かが、こちらを窺っているような気配。


カゲインからの反応はない。

僕にしか感じないのかな?


「魔物は、やはり出ませんでしたね。

 テンチ様、背中の感じは大丈夫デス?

 ここから先は魔物が多いので、気をつけて下さいデス」


親指を立てて応える。

この前の“元気満々ポーズ”も含めて、きっと伝わる。


「やっぱり魔物の動きがおかしいデス。

 ここまで気配がないのが、逆に気になりますデス」


森の茂みが深くなる。

昼なのに、うすら暗い。

その違和感が、心に影を落とす。


「何かいるデス。テンチ様は後ろに来るか、翼でいつでも逃げる準備をお願いしますデス」


ガサッ……ガサ……。


「……誰か……たすけ……て……」


羽が見えた。

悪魔だ。

怪我が、ひどい。


「カゲイン、助けてあげて」


僕の部下は、回復持ちだ。

きっと治せる。


カゲインが手をかざす。

淡い光を、闇が包む。


仰々しくて派手な光じゃない。

優しくて、幻想的な発光。


その光が、撫でるように傷へと移動し、

みるみるうちに、怪我が塞がっていく。


「ありがとう……。

 すごく温かくて……楽になった。

 本当に、感謝します」


(……この違和感は、なんデス?

 悪魔と人間の身体構造は、翼の有無と寿命の差だけで、ほぼ同じ。

 それなのに……闇と聖の回復は、何が違うデス?)


しばらくして、仲間と思われるリーダー格の悪魔が現れた。

僕を見て理解し、カゲインを見て察し、深く頭を下げる。

「訓練中の事故で、ご迷惑おかけしました、コール様の第二部隊です。では、私達は続きに戻ります」

……やはり、コールさんの部下だ。

判断が早い。



帰り道。

カゲインは、ずっと悩んでいるようだった。

会話もあまり弾まず、どこか上の空。


人間は、複雑だな。

悪魔は、単純だと思う。


……そっか。

カゲインは、複雑に考えてるんだ。


ちょっと、分かってきた。


これは、今言わなきゃいけない。


立ち止まり、空気を吸う。


「……まだ、いい伝え方が分からなくて、ごめん」


カゲインが、歩みを止めてこちらを見る。


「カゲインの悩みは、分からない。

 でも、結果として、誰の為にもなってると思う」


「僕は、たくさん悩んだ。

 悩んだ分、近づけてると思う。

 ……でも、まだちゃんと伝えられないし、分かってもいない」


「でも、近いことは……今、言えたと思う」


一拍。

空気を吸う感覚すら伝わる、静かな緊張。


「そう。僕が伝えたいのは――

 結果として、誰の為にもなるってこと」


「だから、自信を持ってほしい。

 カゲインの回復、僕は大好きだから」


二人の間に、一本の線が絡み、熱を帯びる。

その温かさは広がり、周囲の温度さえ上げていく。


「……悩んでくれている。

 だから、近づいてくれている。

 結果として、誰の為にもなってるデス」


「伝わってますデス。

 嬉しいデスし……少し、悩みも晴れましたデス」


やっぱり、カゲインは笑顔がいい。



光る鳥は、見つけられなかった!

でも、願いは叶った!

元気の源、カゲイン !

僕、嬉しい!


いつもより、布団が温かい。

心は、ほんのり紅を増す。

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