第14話 森の異変②
今日は配達の仕事が休み。
テンチは鏡の前で、真剣な表情を浮かべていた。
「パチクリ……パチクリ……」
威圧スキルの練習中。
この“パチクリ”は、たくさんの人に効く。
だから、磨いておかなきゃいけない。
上司は、強くなきゃいけない。
一つを極めれば、魔王様にもお願いが通じるかもしれない。
目素振り。目筋トレ。パチクリ百回。
……よし、完了。
*
「カゲイン! 暇すぎて意味のないことをし続けるな、ということを、僕はこの休みから学んだ。
だからご褒美だ。最近、願いが叶うって噂の鳥がいるだろ?
その光る鳥の、光る羽を取りに行こう!」
「……光る鳥、デス?」
今だ。
威圧スキル、パチクリ発動。
「ねぇ、いいでしょ?」
「……何をしてたのかは気になるデス。
まぁ、それもいいデス。ご褒美デス。
光る鳥には会えないと思いますが、用意して行くデス」
(ここ最近、テレッツ様から「テンチ様案件の報告は、緊急時以外は溜めろ」と言われてるデス。
テンチ様の変化をまとめる、良い機会デス。魔物達の動きも、調べるデス)
(それに……またテンチ様のパチクリを見られたのは、役得デス。役得?……まぁ、良かったデス)
やっぱり、カゲインには効いた。
このスキルは、タイミングが大事だ。
*
外に出ると、また飴をもらった。
なんか、いろんな人から。
人間って、どうしてこんなに僕に好意的なんだろう。
そんなことを考えているうちに、森に入った。
空気が、重い。
何かが、こちらを窺っているような気配。
カゲインからの反応はない。
僕にしか感じないのかな?
「魔物は、やはり出ませんでしたね。
テンチ様、背中の感じは大丈夫デス?
ここから先は魔物が多いので、気をつけて下さいデス」
親指を立てて応える。
この前の“元気満々ポーズ”も含めて、きっと伝わる。
「やっぱり魔物の動きがおかしいデス。
ここまで気配がないのが、逆に気になりますデス」
森の茂みが深くなる。
昼なのに、うすら暗い。
その違和感が、心に影を落とす。
「何かいるデス。テンチ様は後ろに来るか、翼でいつでも逃げる準備をお願いしますデス」
ガサッ……ガサ……。
「……誰か……たすけ……て……」
羽が見えた。
悪魔だ。
怪我が、ひどい。
「カゲイン、助けてあげて」
僕の部下は、回復持ちだ。
きっと治せる。
カゲインが手をかざす。
淡い光を、闇が包む。
仰々しくて派手な光じゃない。
優しくて、幻想的な発光。
その光が、撫でるように傷へと移動し、
みるみるうちに、怪我が塞がっていく。
「ありがとう……。
すごく温かくて……楽になった。
本当に、感謝します」
(……この違和感は、なんデス?
悪魔と人間の身体構造は、翼の有無と寿命の差だけで、ほぼ同じ。
それなのに……闇と聖の回復は、何が違うデス?)
しばらくして、仲間と思われるリーダー格の悪魔が現れた。
僕を見て理解し、カゲインを見て察し、深く頭を下げる。
「訓練中の事故で、ご迷惑おかけしました、コール様の第二部隊です。では、私達は続きに戻ります」
……やはり、コールさんの部下だ。
判断が早い。
*
帰り道。
カゲインは、ずっと悩んでいるようだった。
会話もあまり弾まず、どこか上の空。
人間は、複雑だな。
悪魔は、単純だと思う。
……そっか。
カゲインは、複雑に考えてるんだ。
ちょっと、分かってきた。
これは、今言わなきゃいけない。
立ち止まり、空気を吸う。
「……まだ、いい伝え方が分からなくて、ごめん」
カゲインが、歩みを止めてこちらを見る。
「カゲインの悩みは、分からない。
でも、結果として、誰の為にもなってると思う」
「僕は、たくさん悩んだ。
悩んだ分、近づけてると思う。
……でも、まだちゃんと伝えられないし、分かってもいない」
「でも、近いことは……今、言えたと思う」
一拍。
空気を吸う感覚すら伝わる、静かな緊張。
「そう。僕が伝えたいのは――
結果として、誰の為にもなるってこと」
「だから、自信を持ってほしい。
カゲインの回復、僕は大好きだから」
二人の間に、一本の線が絡み、熱を帯びる。
その温かさは広がり、周囲の温度さえ上げていく。
「……悩んでくれている。
だから、近づいてくれている。
結果として、誰の為にもなってるデス」
「伝わってますデス。
嬉しいデスし……少し、悩みも晴れましたデス」
やっぱり、カゲインは笑顔がいい。
*
光る鳥は、見つけられなかった!
でも、願いは叶った!
元気の源、カゲイン !
僕、嬉しい!
いつもより、布団が温かい。
心は、ほんのり紅を増す。




