第12話 翼が疼く日、世界が静まる
※この先、物語の見え方が少しずつ変わっていきます。
・第1部は20話で一区切りです。
ここまで読んでくれた方、本当にありがとうございます。
朝から、元気が溢れている。
昨日の痛みが嘘みたいだ。
「カゲイン効果! 元気の源カゲイン!」
フン! フン! と体を動かしてみる。
……うん、絶好調。
「昨日の今日で動いちゃだめデス。
まだ上からの指示も来てないデス。無理しないで下さいデス」
分かってる。分かってるけど、
休んでいられるほど、僕はおとなしくない。
元気アピールのポーズをいくつか披露して、カゲインを説得する。
「……仕方ないデス。仕事をするデス」
*
ギルドで配達の仕事を受け取る。
でも、体が軽すぎて、あっという間に終わってしまった。
「これ、ホントにいつもと同じ?」
「はいデス。
ちょっと自分もテンチ様の加速の変化にはびっくりしてるデス。
あと、荷物もずいぶん軽そうに持ってましたデス」
(可愛かったあの後ろ姿……。
頭ふりふり、お尻ふりふり歩きじゃなくなったデス。
寂しいデス)
疲れもない。
ただ――背中が、むずむずする。
羽を広げたい。
飛びたい。どうしても。
*
午前中で仕事が終わってしまい、カゲインが予定に困っている。
こんなに早く終わったのは初めてらしい。
背中のムズムズが強くなる。
羽を広げたい。脱いでいい?
「自分には羽が無いので感覚が分からないデス。
とりあえず今の時間だと掃除してるので宿もだめデス」
「どうすればいいデス?」
なら、街の外に行こうよ。
お願い。悪魔を食べる人間に食べられちゃうかもしれないし。
ここで、お母さん達が好きだった“パチクリ攻撃”を発動!
「とても悪質デス。どこで覚えたんデス?
……別案も無いデス。折れるデス」
……効いた。
これは、テレッツ様やコールさんには効かなかった。
これが、僕なりの“上司の威厳”ってやつだ。
*
街の外へ向かう途中、門番の人間に飴をもらった。
ニコニコしてたら、頭を撫でられた。
外に出ると、カゲインが地図を見ながら案内してくれる。
魔物には遭わなかった。
「普段はもっといるデス。運が良かったデス」
運も実力の内だ。
魔界の魔物は強かった。
スライムさん、ゴブリンさん。
あの時の喧嘩は、僕の歴史に残る熱い戦いだった。
蹴っては殴られ、叩いては体当たり。
その後はお菓子を分けて、友情が芽生えた。
でも、お母さん達が来ると、
みんな用事を思い出したみたいに帰っていった。
あれから、誰も出てこなくなった。
人間界の魔物とは、仲良くなれるかな?
会いたいな。
……ムズムズ。
早く、翼を動かしたい。
*
森の中に入る。
光が葉に当たり、心地よい明るさに調整されている。
「ここなら誰も来ないデス。
では、上の服を脱いで翼を広げて下さい」
(なんの気配も今は感じないデス)
飛べるん!
翼を広げて、飛べるん!
つい、歌ってしまう。
「声を小さくデス。嬉しくてもデス」
(この気配……集まってきてるデス。
どうあってもテンチ様は守るデス)
もう、ムズムズが限界。
羽が勝手に開こうとして、服が脱げない!
「ねぇ。カゲイン。服の出口が迷路」
「テンチ様。初めてのお着替えみたいデス」
「服と遊んでるデス? 手伝いは必要デス?」
(もう囲まれてるデス。
きっと今は魔物同士で牽制し合ってるだけデス)
あっ、脱げた!
スゥー……(羽をゆっくり降ろす)
バッ……(羽を伸ばす)
バサーッ!(飛ぶために完全解放)
ああ、気持ちいい。
言葉にならない解放感が、全身を包む。
何かが、足先から頭へ抜けて、広がっていく。
森のすべてが、違和感を持つ。
木々、草、風、空気――すべてが震える。
音は聞こえているのに、止まっているように感じる。
「ねぇカゲイン! 風、止まった?」
「分からないデス。ちなみに脱げました?
今はちょっと手伝えないデス。
だから翼を広げたら教えて下さいデス」
(……? 魔物の気配が散ったデス?
というより、消えたデス)
「分かった! まぁ飛べるからいいや! 脱げたよ!」
カゲインが僕を見る。
目は驚いたように大きく開き、口も閉じられない。
「その翼は……なんデス?
……いや、ご成長、おめでとうございますデス」
(悪魔の翼は光るデス?
拝みたくなる光デス。
さっきまでのギャップが天と地デス。
さすがテンチ様デス)
カゲインは慌てて、悪魔の道具で誰かと通信する。
僕は、翼を広げたついでに、少しだけ飛んだ。
久しぶりで、気持ちいい。
遠くで、人間が何かを持って喜んでいるのが見えた。
囲まれていた魔物たちが、一斉に散っていったらしい。
少し遊んで、満足した。
「そろそろ戻りますデス」
*
宿に戻り、一息ついて報告。
> カゲインの回復、すごい!
> 元気満々! 仕事が早い!
> 翼、大きくなった!
> 僕、成長期!
――その頃のテレッツ。
「勇者の卵とプラッシーという異物に、ナノという謎の女の子」
「闇教会と接触」
「成長痛+窒息寸前の息苦しさ」
「回復(闇)でテンチ様に異変?」
「全能力向上の可能性。経過観察中」
「翼の反応。大きいだけではない」
「魔物の消失を確認」
「テンチ様の分類不能。悪魔でも天使でもない、別の種族では?」
――カゲインの報告、連続着弾中。
「ちょっと、テンチ案件が過多なのだ。なんなのだ」
机の上には報告書が山積み。
床には活力ポーション《ゲンキイン!》の空き瓶が転がっている。
「これは……陰謀なのだ?
カゲインの知的暗殺者説、浮上なのだ。
過労死を狙ってるかの報告量なのだ」
勇者たちはまだいい。
闇教会も、少し前の話。
それ以外は――ここ二日間の出来事。
頭を抱え、出た答えは――
「休暇申請書、なのだ」
僕が事務に行くと、受付の目がいつもヤバいのだ。
でも、もう限界なのだ。
「理由は……クッパム様を探しに行きます。期間は未定、なのだ。よし」
提出しようとした、その瞬間――
……スゥー……ウォン……すたっ。
「貴方を監視してました。そろそろだと」
オールバックを整え、闇魔法の瞬間移動で現れたのは、コール。
「上司の休みは、部下の休みを奪う。
クッパム様を探すなら、帰還後にして下さい。断固拒否」
「それと、貴方の休暇申請書で魔界が動きました」
「テンチの元お付きのお手伝い――通称が、
“テンチの本物の母親は私です”という休暇申請書を、ざっと百枚超えで提出しました」
「休む=テンチに会いに行く=同行、という誤解です。処理をお願いします」
……これは、なんなのだ。
元お付きのお手伝い達、マザーズ。
聞いたこともないが、恐ろしさだけは伝わってくるのだ。
お手伝いが“お母さんポジション”を争う。
魔王への求婚でもなく、ただただ“母性の暴走”。
カゲインはやはり、暗殺者説が濃厚なのだ。
コールも監視してたなら、共犯なのだ。
「テンチの報告書だけの時が懐かしいのだ……
クッパム様、早く帰ってこいなのだーーーー!」
「ただ平穏な一日と、休暇が欲しいのだーーーー!」
今日も今日とて、テレッツの叫びがこだます、魔界の一日。
頑張れ、テレッツ。




