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第12話 翼が疼く日、世界が静まる

※この先、物語の見え方が少しずつ変わっていきます。

・第1部は20話で一区切りです。

ここまで読んでくれた方、本当にありがとうございます。

朝から、元気が溢れている。

昨日の痛みが嘘みたいだ。


「カゲイン効果! 元気の源カゲイン!」


フン! フン! と体を動かしてみる。

……うん、絶好調。


「昨日の今日で動いちゃだめデス。

 まだ上からの指示も来てないデス。無理しないで下さいデス」


分かってる。分かってるけど、

休んでいられるほど、僕はおとなしくない。


元気アピールのポーズをいくつか披露して、カゲインを説得する。


「……仕方ないデス。仕事をするデス」



ギルドで配達の仕事を受け取る。

でも、体が軽すぎて、あっという間に終わってしまった。


「これ、ホントにいつもと同じ?」


「はいデス。

 ちょっと自分もテンチ様の加速の変化にはびっくりしてるデス。

 あと、荷物もずいぶん軽そうに持ってましたデス」


(可愛かったあの後ろ姿……。

 頭ふりふり、お尻ふりふり歩きじゃなくなったデス。

 寂しいデス)


疲れもない。

ただ――背中が、むずむずする。


羽を広げたい。

飛びたい。どうしても。



午前中で仕事が終わってしまい、カゲインが予定に困っている。

こんなに早く終わったのは初めてらしい。


背中のムズムズが強くなる。

羽を広げたい。脱いでいい?


「自分には羽が無いので感覚が分からないデス。

 とりあえず今の時間だと掃除してるので宿もだめデス」


「どうすればいいデス?」


なら、街の外に行こうよ。

お願い。悪魔を食べる人間に食べられちゃうかもしれないし。


ここで、お母さん達が好きだった“パチクリ攻撃”を発動!


「とても悪質デス。どこで覚えたんデス?

 ……別案も無いデス。折れるデス」


……効いた。

これは、テレッツ様やコールさんには効かなかった。


これが、僕なりの“上司の威厳”ってやつだ。



街の外へ向かう途中、門番の人間に飴をもらった。

ニコニコしてたら、頭を撫でられた。


外に出ると、カゲインが地図を見ながら案内してくれる。

魔物には遭わなかった。


「普段はもっといるデス。運が良かったデス」

運も実力の内だ。

魔界の魔物は強かった。

スライムさん、ゴブリンさん。

あの時の喧嘩は、僕の歴史に残る熱い戦いだった。


蹴っては殴られ、叩いては体当たり。

その後はお菓子を分けて、友情が芽生えた。


でも、お母さん達が来ると、

みんな用事を思い出したみたいに帰っていった。


あれから、誰も出てこなくなった。


人間界の魔物とは、仲良くなれるかな?

会いたいな。


……ムズムズ。

早く、翼を動かしたい。



森の中に入る。

光が葉に当たり、心地よい明るさに調整されている。


「ここなら誰も来ないデス。

 では、上の服を脱いで翼を広げて下さい」


(なんの気配も今は感じないデス)


飛べるん!

翼を広げて、飛べるん!


つい、歌ってしまう。


「声を小さくデス。嬉しくてもデス」


(この気配……集まってきてるデス。

 どうあってもテンチ様は守るデス)


もう、ムズムズが限界。

羽が勝手に開こうとして、服が脱げない!

「ねぇ。カゲイン。服の出口が迷路」

「テンチ様。初めてのお着替えみたいデス」

「服と遊んでるデス? 手伝いは必要デス?」


(もう囲まれてるデス。

 きっと今は魔物同士で牽制し合ってるだけデス)


あっ、脱げた!


スゥー……(羽をゆっくり降ろす)

バッ……(羽を伸ばす)

バサーッ!(飛ぶために完全解放)


ああ、気持ちいい。


言葉にならない解放感が、全身を包む。

何かが、足先から頭へ抜けて、広がっていく。


森のすべてが、違和感を持つ。

木々、草、風、空気――すべてが震える。


音は聞こえているのに、止まっているように感じる。


「ねぇカゲイン! 風、止まった?」


「分からないデス。ちなみに脱げました?

 今はちょっと手伝えないデス。

 だから翼を広げたら教えて下さいデス」


(……? 魔物の気配が散ったデス?

 というより、消えたデス)


「分かった! まぁ飛べるからいいや! 脱げたよ!」


カゲインが僕を見る。

目は驚いたように大きく開き、口も閉じられない。


「その翼は……なんデス?

 ……いや、ご成長、おめでとうございますデス」


(悪魔の翼は光るデス?

 拝みたくなる光デス。

 さっきまでのギャップが天と地デス。

 さすがテンチ様デス)


カゲインは慌てて、悪魔の道具で誰かと通信する。


僕は、翼を広げたついでに、少しだけ飛んだ。

久しぶりで、気持ちいい。


遠くで、人間が何かを持って喜んでいるのが見えた。

囲まれていた魔物たちが、一斉に散っていったらしい。


少し遊んで、満足した。


「そろそろ戻りますデス」



宿に戻り、一息ついて報告。


> カゲインの回復、すごい!

> 元気満々! 仕事が早い!

> 翼、大きくなった!

> 僕、成長期!


――その頃のテレッツ。


「勇者の卵とプラッシーという異物に、ナノという謎の女の子」

「闇教会と接触」

「成長痛+窒息寸前の息苦しさ」

「回復(闇)でテンチ様に異変?」

「全能力向上の可能性。経過観察中」

「翼の反応。大きいだけではない」

「魔物の消失を確認」

「テンチ様の分類不能。悪魔でも天使でもない、別の種族では?」


――カゲインの報告、連続着弾中。


「ちょっと、テンチ案件が過多なのだ。なんなのだ」


机の上には報告書が山積み。

床には活力ポーション《ゲンキイン!》の空き瓶が転がっている。


「これは……陰謀なのだ?

 カゲインの知的暗殺者説、浮上なのだ。

 過労死を狙ってるかの報告量なのだ」


勇者たちはまだいい。

闇教会も、少し前の話。


それ以外は――ここ二日間の出来事。


頭を抱え、出た答えは――


「休暇申請書、なのだ」


僕が事務に行くと、受付の目がいつもヤバいのだ。

でも、もう限界なのだ。


「理由は……クッパム様を探しに行きます。期間は未定、なのだ。よし」


提出しようとした、その瞬間――


……スゥー……ウォン……すたっ。


「貴方を監視してました。そろそろだと」


オールバックを整え、闇魔法の瞬間移動で現れたのは、コール。


「上司の休みは、部下の休みを奪う。

 クッパム様を探すなら、帰還後にして下さい。断固拒否」


「それと、貴方の休暇申請書で魔界が動きました」


「テンチの元お付きのお手伝い――通称マザーズが、

 “テンチの本物の母親は私です”という休暇申請書を、ざっと百枚超えで提出しました」


「休む=テンチに会いに行く=同行、という誤解です。処理をお願いします」


……これは、なんなのだ。


元お付きのお手伝い達、マザーズ。

聞いたこともないが、恐ろしさだけは伝わってくるのだ。


お手伝いが“お母さんポジション”を争う。

魔王への求婚でもなく、ただただ“母性の暴走”。


カゲインはやはり、暗殺者説が濃厚なのだ。

コールも監視してたなら、共犯なのだ。


「テンチの報告書だけの時が懐かしいのだ……

 クッパム様、早く帰ってこいなのだーーーー!」


「ただ平穏な一日と、休暇が欲しいのだーーーー!」


今日も今日とて、テレッツの叫びがこだます、魔界の一日。


頑張れ、テレッツ。

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