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第11話 闇は、あたたかい

宿の食堂から、シチューみたいな煮込みの匂いが漂ってくる。

だいぶ寒くなってきたけど、この匂いで気分はルンルンだ。


今日は仕事が休み。

だから、何をしようか迷ってる。


この前、本屋で見かけた『コロリンは何度も転ぶ』絵が可愛くても気になるし、

カゲインが買ってきてくれた映像魔法の読み取り円盤――

『あっぱれ、あんこ丸』の続きも観たい。


うーん、どうしよう。


でも……配達が休みなら……

振り返りカゲインをまっすぐ見る。

「あっ、だめデス。その顔、いたずらっ子のおねだりデス。

 討伐クエスト行きたいとか、羽出して飛びたいとか言おうとしてましたデス。分かるデス。

 なので、最新のあんこ丸デス」


さすが、出来る部下。

先回りがすごい。


さっそく部屋に戻って、円盤を読み取る。


……ピッ……キ。


一瞬、背中に違和感が走った。

少しだけ痛い。気のせいかな?


とりあえず、あんこ丸を観よう。


円盤に意識を向けて、情報を読み取る。


……ズクン……ズクン……


翼の付け根あたりが、ピンポイントで違和感。

痛みはないけど、なんか変な感じ。


でも、今は何もないから大丈夫!



コンコン。


「これ、この前本屋で見てた本デス。あんこ丸見た後、読んで下さいデス」


欲しいものが用意できる部下は、有能だ。


中盤に差しかかる頃、ちょっと飲み物が欲しくなってきた。

カゲイン呼ぼうかな……


コンコン。


「さっき渡せなかった飲み物と、こちらはコールさんからデス。

 テンチ様の好きな魔界チップスだそうデス」


(今日はお休みデス、と報告したら魔界では大騒ぎになったとのテレッツ様の嘆きデス。

 元お手伝い様たちがこぞって持ってきた数百の品から、コールさんが選んだ物ですとは言えないデス。

 休みの報告は控えるデス)


やっぱり、出来る男たちは共鳴するんだな。

二人とも、カッコいいな。



人間界の物語では、悪魔は「堕落させる存在」として描かれることが多い。

でも、そんなに働かない奴は、偉い人に叱られるんだぞ。

怖いんだぞ、偉い人!


あんこ丸の成敗シーンは好きだけど、

毎回“善と悪”に分けるのは大変そうだな。

見てきた人間界は、その中間や、分けられないことが多いと思う。


……ピクッ……ジリ……ズキン!


痛みが強くなった。こんなこと、初めてだ。


……ズキン!……ズクン……ズキン!


歩くと痛みが広がって、息がしづらい。

我慢しながら、カゲインの部屋へ向かう。


コンコン……ドン……


ドアが開く。

異変に気付き支えられる。

「背中が痛い。翼の付け根だと思う。

 苦しくて、息がしづらい。初めてだよ、こんなの」


カゲインはすぐに僕の服を脱がせて、うつ伏せにする。


「成長期だと翼の生え際が痛むとは聞いてましたが、

 息苦しさは聞いてないデス。ここまで顔が青くなるのは、おかしいデス」


カゲインの手が、翼に触れる。


「……回復を……だめデス……気持ち悪いと言われる……デス」


カヒュー……カヒュー……

息が、どんどん苦しくなってくる。


カゲインは立ち上がり、悪魔の道具を見つめる。


「救援を……も遅い。どうすればいい……デス?」


……ス……ス……ッ……ッ


意識が、遠のいていく。


その中で、カゲインが僕を見ている。

必死で、泣きそうで、手を伸ばしてくる。


「あの時救えなかったけど、今は救えるんデス!

 気持ち悪いかもしれないデス。偽物だと思うかもしれないデス。

 でも治るんデス。自分が治すんデス」


もう一度、翼の付け根に手を添える。


カゲインの手から、温かい何かが流れ込んでくる。

背中に、じんわりと広がる。


息が、少しずつ楽になっていく。


背中では、カゲインの優しい手と同じ温かさを感じる。

翼を撫でられているひと撫でが、マッサージみたいに心地いい。

深い安心感に包まれていく。


「カゲイン……ありがとう……気持ちいい……とっても……

 君の心みたいに……あったかい……」


スンスン……と音が聞こえる。

泣いてる? 返事はない。


数秒後、フー……フー……と天井に向かって息を吐く音が聞こえた。


「初めてデス。感謝……されたの……デス。

 気持ち悪いじゃない……気持ちいいと言われたデス。

 テンチ様に愛称で……役割もらった時より、もっと……嬉しいデス」


(テンチ様に出会えて……部下になれて……そばにいられて……幸せデス。

 こちらこそ、ありがとうデス)


出来る部下は、表現も大げさだ。

演技が上手だ。

でも、感情の出し方が不器用なところは、僕と同じだ。


気持ちよくて、フワフワして、眠くなってきた。


スイー……zzz



「寝てしまったデス。休みだから、テンチ様構文の報告はしないデス。

 でも、今日のことはこちらの業務報告として、お二人に送るデス」


> テンチ様の背中に成長期の兆し確認!

> でも聞いていた内容にプラス、息苦しさあり。至急調べたし!

> 尚、自分の回復(闇)にて看過!この後、経過を見守っていきます!


(この報告で、魔界は今、混乱してるのデス。

 テレッツ様は調べたり、なんだと忙しい中、

 さらに溺愛する元お付きのお手伝い様のお相手――頑張って下さいデス)

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