第10話 いつかの勇者達②/偉いという認定
――いつかの勇者たち②
「こっちは終わったでありまっす。
ジュンシ、そっちを倒したら上がりでありまっす」
ナノの指示が飛ぶ。
「前に出て!」
「後ろに地面のぬかるみ!」
魔物に囲まれ、押し切られそうになっていた僕は、その一言で状況を立て直す。
プラッシーが、いつの間にか得ていたスキルを使う。
ナノは即座にそれを戦況に組み込み、指示を飛ばす。
ナノは魔物戦闘学と支援魔法を学び、戦場の流れを読む力に長けている。
一方でプラッシーは、スキルの数は増えているのに、使い方は相変わらず雑だ。
もっと工夫できるのに。
そう思うけれど、言葉にはしない。
「いつ! どこで! どんなスキルを取ったのか!
私たちにちゃんと教えろって言ってるの!」
「うるさいでありまっす! 使えば分かるでありまっす!」
また始まった。
口喧嘩なのか、叱責なのか、もはや境界が曖昧だ。
「二人とも、分かったから。スキルのホウレンソウ、大切だよね」
僕が止めないと、火の粉はあちこちに飛び火する。
「僕は、何かあったらナノにもプラッシーにも報告するよ。
だから二人も、ちゃんと共有して」
しぶしぶ、という空気で二人は矛を収めた。
……勇者は大変だ。
「誰にも愛され、そして誰も愛してはいけない」
「苦悩し、考え、勇者は磨かれ、真の勇者とならん」
枢機卿に言われた二つの言葉が、頭をよぎる。
何を悩んでも、何を考えても、
すべて“勇者の演出”として処理されてしまう。
だから僕は、
どちらの言い分も完全には分からなくても、
場を納めなきゃいけない。
皆を理解し、導いていくんだ。
「じゃあ、いつも通り。配分は等分。
仲間の活動費はギルドに預けるから。文句は言わないでよね」
「もう前の話はやめるでありまっす。根に持つタイプでありまっす。
ナノはやはり小さいでありまっす」
「まぁ、ナノは小さくて凛々しいってことで。
僕はこの名前、好きですよ」
そう言って視線を送ると、ナノの耳先が少し赤くなる。
……この反応は可愛いのに、
なんでいつも喧嘩腰なんだろう。
プラッシーも、なんであんなに噛みつくんだろう。
ふと気づくと、喫茶店の奥に座っている女の子たちがこちらを見ていた。
黄色い声。ピンク色の視線。
ああ、これが“勇者”なんだ。
合っているのかは分からない。
でも、認定されてしまった以上、やるしかない。
この悩みすら、演出なのだろう。
「何を浸ってるでありまっすか。そんなだから自分より弱いでありまっす」
プラッシーが鼻を鳴らす。
「勇者は勇者として、周りに愛想を振りまいて、
なぜだか見えるキラキラのエフェクトみたいなオーラを
増やしていけばいいでありまっす」
「時々、僕にはナノにそれが見えるよ」
「なんでそういつもジュンシは歯が浮くようなことばかり言うのよ!」
返す言葉が分からず言ってはみたが、
正直、何のことだか分からない。
でも、ナノの恥ずかしそうな顔と、
内心嬉しそうな気配は、ちゃんと伝わってきた。
今日も勇者は、
たくさんの「はてな」を抱えながら、
オーラを増していく。
歪んだ世界が正しいのか、という問いを持ちながら。
記録として、評価は高く、問題はないとされた。
−−テンチ視点に戻る
あっ。
プラッシーとジュンシだ。
今度は、女の子と一緒にいる。
……仲間? なのかな?
話を聞いていると、仲間かどうかはちょっと分からない。
でも、すごいところを見てしまった。
名付けって、人間界でもやるんだ。
あの二人は、ナノって子に名前をつけていた。
しかも、ナノはその名前をちゃんと受け入れていた。
さすがプラッシーだ。
僕が目をかけているだけはある。
ということは――
見つけた僕は、もっと偉いのかな?
カゲインに聞いてみる。
「愛称は仲の良い関係としてですが、
立場が強い方が決めるのは変わらないデス」
「でも、お互いに名付け合うのが、人間界では普通なんデス」
なるほど。
ナノは一方的につけられてたから、二人は偉い人なんだな。
二つも役割を任されてるなんて、ナノは優秀なんだな。
……ちゃんと見ておかないと。
人間界は、複雑だ。
「テンチ様は、元々偉い立場なのデス。
見つけたとかは、関係ないデス」
(可愛いので、勘違いさせておくデス)
じゃあ、カゲインはちゃんと
僕の立場が上だと思ってるんだな。エッヘン。
でも、ナノは二人に役割を決められてたな。
今度見かけたら、大変そうだから応援しよう。
あっ。
仕事の途中だった。
カゲインが呼んでるし、戻ろう。
*
報告。
> プラッシーとジュンシが名付けしてた!
> あいつらは偉い!
> 見つけた僕は、きっともっと偉い!
> ナノは大変そうだから応援!
仕事を終え、
疲れて宿に先に戻った僕は、そのまま眠ってしまった。
テンチの寝息が静かに響く。
視線で愛で心で褒める。
(会ってから毎日楽しいデス。)
その寝顔を見守りながら、
カゲインは音を立てないように、静かに報告をしている。




