地底にある天国
「■■■■」。この世の全てを統べる神の名前。あらゆるものの頂点に立つ者の名前だ。まず「■■■■」とはキリストよりも前に生まれた預言者の苗字である。「■■■■」はあらゆる預言をし人々を迷いから救うと共に、争いという概念を無くし皆が協力し合える環境を創った。「■■■■」は4人の仲間と「ヘブンホール」という地下帝国を築き上げ全ての人種を無償で住まわせた。ヘブンホールの構造はバベルの塔を逆さまに取り付けたような形で、分かりやすく例えるならダンテの神曲の地獄篇で出てくる地獄図のような構造だ。ヘブンホールでは既に貨幣経済が構築されており、居住者の中には会社を立ち上げる者もいた。このような環境だと格差が生まれるのは当然で、地下に近ければ近いほど貧困具合が酷くなっていった。しかしこの格差について「■■■■」は変に介入することはなく支援もしなかった。なぜならいくらでも稼げるような環境を作っていたからだ。ヘブンホールの中にある会社は性別年齢関係なく働けるものは雇うので、稼ごうと思えばいつでも稼げるのだ。そんな環境でも稼ごうとしない者は、いくら手を差し伸べても稼ぐために動くことはないので「■■■■」は放置していた。そして40年後「■■■■」は寿命を迎え多くの人間から見守られながら息を引き取った。その後息子の「■■■■2世」がヘブンホールと民を率いることとなった。「■■■■2世」は少し横暴で地上世界からの侵略に備えて軍を創設したり、武器や兵器などの開発にも力を入れた。当初ヘブンホールの民は「■■■■2世」の行動に不信感や不安感を募らせていたがすぐに「■■■■2世」が正しかったと理解する出来事が起こった。なんと外部から他国の兵士が侵入してきたのだ。民は逃げまとったが軍が鉄製武器ですぐに対処し返り討ちにした。この出来事を気に「■■■■」2世は支持率を大きく上げて軍事技術も飛躍的にアップした。22年後「■■■■2世」は地区開発時に起こった落石事故で亡くなってしまい民は突然の出来事に言葉を失った。次の「■■■■3世」は医療を充実させるべく奮闘した。地上世界で入手した薬草について研究し、何度も調合を繰り返し様々な薬品を開発していった。その後「■■■■3世」は貧困層や労働者層に対していつでも利用できる医療施設を設置した。その結果労働者層は労働中の怪我もすぐに治療することができ、貧困層は治したくても治せなかった病を治す事が出来るようになった。しかし医療に関しては軍事以上に莫大な費用がかかるため「■■■■3世」は悩んでいた。すると民の一人が外交を行い資金を調達すればいいのではと提案をしすぐさま「■■■■3世」は準備に取り掛かった。「■■■■3世」は外交という未知の分野に踏み出した。地上世界には、ヘブンホールの存在を神話や噂としてしか認識していない国も多く、地下帝国の技術力や統治能力を正しく理解している者はほとんどいなかった。「■■■■3世」はまず、医療技術と薬品を交渉材料とすることを決めた。疫病や感染症の処置に悩まされていた国々にとって、ヘブンホールの医療は喉から手が出るほど欲しいものだったからだ。数年にわたる交渉の末、複数の国家(ヘリク、ディード、モッコウ、ジェパ、フェン、ワークリオル連合共和国)と不可侵条約および技術交換協定が結ばれた。ヘブンホールは薬品と治療法を提供、更に採掘技術なども提供し代わりに資金と資源、そして地上の最新知識を得た。これにより医療施設はさらに拡張され、平均寿命も大きく伸びていった。ヘブンホールも経済的に潤い始め、民の間では「■■■■3世」を「癒王」と呼ぶ声も広がった。しかし、地上世界との関わりが深まるにつれ、新たな問題が生じた。ヘブンホールの存在を恐れ、神の領域を侵す異端と見なす勢力が現れたのだ。彼らは「■■■■3世」を「偽神」と断じ、地下帝国の殲滅を公然と掲げる同盟を結成する者まで現れ始めた。情報はすぐにヘブンホールにもたらされ、かつて「■■■■2世」が危惧していた外部からの大規模侵略が現実味を帯び始める。「■■■■3世」は選択を迫られた。医療と外交による共存の道を進むのか、それとも更なる軍事力を前面に押し出すのか。彼は悩み抜いた末、先代たちの思想を統合する決断を下す。争いを望まぬ「■■■■」の理念、備えを怠らなかった「■■■■2世」の現実主義、そして自らが築いた医療の力。そのすべてを用い、「戦わずして滅びを防ぐ」新たな体制を作ることを宣言した。こうしてヘブンホールは、軍でも宗教でもない第三の勢力として、地上世界の歴史の表舞台へと姿を現していく。だがそれは同時に、「■■■■」の名が「預言者」としてではなく「試される存在」として語られる時代の始まりでもあった。しかしそんな志も一部外部勢力からしたらどうでもいいこと。ヘブンホールから南西50㎞ほど離れた場所に「クリオス」という国があった。クリオスは周辺国家と比べ強固な軍事国家であり、建国時も周辺の農村や集落を攻め強制的に合併させることで領土を広げたという。そんなクリオスの王である「ジェネス・デザート」はヘブンホールの高い技術力と潤沢な資源や資金に目を付け自治領にする計画を立て始めた。その動きに気付いたジェパはヘブンホールにこの事を報告し対処を急ぐように警告した。「■■■■3世」は軍事面には疎いため、全軍事担当の「グリッド」に軍事力の強化とヘブンホール周辺の防衛力強化を命じた。そして2か月後クリオス兵105名がヘブンホールに向けて侵攻を開始した。50㎞の移動には馬が使われ遅くとも2時間以内には到達してしまう。グリッドは一部精鋭兵を搔き集め襲撃に備えた。約1時間45分後クリオス兵達を観測しすぐさま防衛トラップを発動した。ジェパの報告で馬で来る事は事前に知っていた為地面に無数の縄を張り、馬がそのポイントに入ってきた瞬間縄を引っ張り足に絡ませる事によって馬の機能を停止させた。すかさずヘブンホール兵は落馬した兵隊に襲い掛かり30分程で89名の兵隊を殺害することに成功し遺体を全て穴に埋めた。残りの16名は落馬時に足と腕の骨が折れたようで13名を殺害後、3名は捕虜としてヘブンホール監視地区に連行した。まずは3名の腕と足を治療すると尋問官による尋問を始めた。4時間の尋問の結果クリオスの兵隊の数と所有している兵器の種類と数を吐いた。クリオスには約400名もの兵隊がおり兵器は超大型カタパルト一台だけだという。捕虜曰く超大型カタパルトの射程距離は最大125㎞で投げられる物の最大重量は12tだという。侵攻時に使わなかった理由は、一回の投擲に4日以上の準備期間が必要で更に成功率もかなり低いためだったらしく今やただの置物と化しているらしい。情報を聞いた後3名を殺害し、軍事部で情報をまとめると共にクリオスへの侵攻をすべきかどうかを話し合った。クリオスは今後何度も侵攻に来る可能性が高く、その度に侵攻を迎え撃つ形ではいずれ限界が来る。しかしだからといってクリオスを滅ぼしに行くのもヘブンホールの理念に反している。だからといって何もしない訳にもいかないため幹部たちは頭を悩ませた。一方「■■■■3世」はクリオスの侵略によって怪我を負った兵士達を見て心を痛め、この状況をどうにかしないといけないという気持ちが強まりジェネス・デザートとの話し合いをジェパ経由で申し込んだ。ジェネスはこれに了承し、4日後ジェパ国内の王宮談話室で「■■■■3世」と「ジェネス・デザート」の対談が始まった。まず「■■■■3世」は驚いた。思い描いていたジェネスの像とは大きくかけ離れた人物がそこにいたのだ。「■■■■3世」はてっきり無精ひげを生やしたガタイの良い将軍のような人物が来るかと思ったのだが、目の前にいるのは自分より10個以上にも年下に見える女児が座っていたのだ。ここからは「■■■■3世」と「ジェネス・デザート」の対話記録を記載する。
王宮談話室は静まり返っていた。白い石柱に囲まれた円形の部屋、その中央に向かい合って置かれた二脚の椅子。片方には深緑の外套をまとった「■■■■3世」。もう片方には、王冠を被りながらも幼い容姿の少女――ジェネス・デザートが腰掛けていた。最初に口を開いたのは、ジェネスだった。
ジェネス「……ずいぶんと驚いた顔をしているわね、地下帝国の王」
■■■■3世「失礼した。だが、正直に言おう。私はあなたを、もっと年長で荒々しい人物だと想像していた」
ジェネス「よく言われるわ。でも“王であること”と“年齢”は関係ないでしょう?」
■■■■3世「確かにその通りだ。本日は話し合いのために来た。互いに無駄な血を流さぬために」
ジェネス「血を流したのは、もう十分でしょう?私の兵が、あなたの国の近くで“消えた”ことについてはどう説明するの?」
■■■■3世「侵攻を受けた。我々は自衛した。それだけだ」
ジェネス「自衛、ね……105人送り、戻った者は一人もいない。それを“自衛”と呼ぶのなら、あなた方は随分と効率がいい」
■■■■3世「効率を求めたわけではない。侵略を止めるため、最小限で済ませただけだ」
ジェネス「最小限?……あなた、本当に“癒王”と呼ばれている人物?」
■■■■3世「だからこそ、ここに来た…私は、あなたの国と戦争を望まない。だが、これ以上の侵攻は許容できない」
ジェネス「ふぅん……ねえ、地下の王。どうしてあなたは、そんなに“争い”を嫌うの?」
■■■■3世「多くを失うからだ。兵士も、民も、そして未来も」
ジェネス「それは“弱者の論理”よ。世界はね、奪う者と奪われる者でできている。技術も、資源も、土地も……力のない者は、ただ奪われるだけ」
■■■■3世「だから、あなたは奪いに来たのか」
ジェネス「ええ…あなた方は強すぎる。地下に眠る技術、資源、人口……放っておけば、いずれ地上の秩序を壊す存在になる」
■■■■3世「我々は、秩序を壊すために存在していない」
ジェネス「でも、“壊せる力”を持っている。それだけで、脅威なのよ」
■■■■3世「ならば、取引をしよう」
ジェネス「取引?」
■■■■3世「クリオスは、これ以上ヘブンホールへ侵攻しない。その代わり我々は、あなたの国に“医療”を提供する」
ジェネス「……ほう?」
■■■■3世「戦争で傷ついた兵。疫病に倒れる民。それらを救う技術を、無償で提供しよう」
ジェネス「無償、ね……」
■■■■3世「その代わり、不可侵を誓ってほしい」
ジェネス「あなた、本当に変わってるわ」
■■■■3世「そうかもしれない」
ジェネス「普通の王なら、私を殺すか、脅すかの二択よ」
■■■■3世「私は一国の王であり預言者の末裔だ…殺すより、救うことを選ぶ」
ジェネス「……面白い。いいわ。その取引、受けましょう。ただし一つ条件がある」
■■■■3世「条件?」
ジェネス「あなた自身が、クリオスに来なさい」
■■■■3世「私が?」
ジェネス「ええ。あなたの国の医療が“本物”かどうか、この目で確かめたいの」
■■■■3世「分かった」
ジェネス「決まりね、癒王。……さあ、ここからが本当の“試練”よ」
この対話の後ヘブンホールとクリオスの関係は戦争でも同盟でもない、極めて危うい均衡へと踏み出していった。3日後「■■■■3世」と15名の医療班を連れてクリオスへと赴いた。ジェネスは快く迎え入れ気付いた兵士や民が置かれている患者棟へと向かった。着くとそこは想像を絶するほど杜撰な環境だった。籠りきった悪臭、そこら辺を自由に飛び回る虫、窓もないため日の光も当たらない。「■■■■3世」はまず患者棟の土壁に穴を空け空気の逃げ道を確保した。その後柑橘系の香を焚き虫を遠ざけると患者達の治療に当たった。患者達の傷に巻いてある布は何日も変えていないようだったのですぐさま変え、置いてある物品もすべて変えた。約4時間の治療後「■■■■3世」はクリオス医療班に医療技術と薬品の作り方を教えると共に環境改善を促した。この姿を見たジェネスは「■■■■3世」の医療に対する本気具合に胸を打たれた。3日間の訪問を終えてジェネスは「■■■■3世」に対し、ヘブンホールへの侵攻を止めることを誓うと共に技術交換協定を結びこの一件は何とか収まった。ヘブンホールに帰還後■■■■3世は再び研究室で薬品の開発研究に勤しんだのだった。その後の15年間は何事もなく大きな争いも小さな争いも起こることはなかった。とある日一人の研究員が薬品の分量を間違えてしまい薬品をダメにしてしまった。研究員は廃棄しようと外の廃棄場へ行き薬品を流そうとしたところ、誤って一滴落としてしまいそれを通りがかったネズミが舐めた。するとそのネズミは痙攣を起こし血を吐いて死に、研究員は薬品を流すのをやめ勤務後密かに持ち帰ると自室に保存したのだった。そんな事を知らない「■■■■3世」や他の研究員は新たな薬品開発に勤しんでいた。21年後「■■■■3世」は病により死亡し後を「■■■■4世」が引き継いだ。「■■■■4世」はなかなかに奇抜な人物でヘブンホール内を鮮やかな装飾を施したり、年に何回かヘブンホール全体でイベントを行ったりなど芸術や祭りごとに注力した。「■■■■4世」の企画したイベントはどれも好評でヘブンホール内が活気に包まれた。更に新たに芸術部も創設し様々な人々が自らの思いや考えを作品として残した。「■■■■4世」は政治や軍事には特に興味がなくそれらは別の人間達に任せていた。自分は工房に立て籠りずっと絵を描いていた。幹部達はたまには顔を見せるように促すも「■■■■4世」はそれに応じることはなかった。そのため民からも支持率が落ち信用度も下がり始めた。しかし3年後ヘブンホールには莫大な金が流れ込み始めた。突然増えた資金の出所を巡り、幹部たちは動揺した。調査の末に判明したのは、思いもよらぬ事実だった。収入の正体は、「■■■■4世」が描いた絵画の売上金。つまりは彼は芸術に没頭するだけではなく、それを価値へと変えてヘブンホールの利益にしていたのだ。すぐさま幹部は工房へ向かい「■■■■4世」に感謝と謝罪をし顔を見せるように泣きながら懇願した。流石にそれが効いたのか「■■■■4世」は工房から姿を現し幹部を宥め謝罪をした。その後はヘブンホール内の装飾や店の看板製作に勤しみ、民も「■■■■4世」を再び理解し始め支持率も上がり始めのだった。




