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「……で、全員合わせて十五人。うち極楽浄土行きが無し」

川のほとりで、懸衣翁が紙切れを読み上げている。

休みも終了時間もないが、区切りとして、一日の終わりは閻魔大王に報告書を提出し、代わりにその日の結果をまとめた書類が渡される。

私は文字がわからないので、報告書を書くのも、閻魔大王からの書類をよみあげるのも、二人のうちのどちらかがやってくれるのである。

この報告が終わると、一日が経過する。

一日、という区切りの概念は便利だ。気の遠くなるような長い時間も、区切りのおかげで流れていく気がする。

「……どうも。やはり、大葉導子も極楽浄土へは行きませんでしたか」

報告を聞き終えて、私は自分の顎をさすった。

極楽浄土行きが無し、ということは、全員が地獄へ行った、ということだ。

相変わらず、基準がわからない。

正直、導子の罪がなんだったのか、話を聞いた限り、私にはわからなかった。

包帯の男を蔑んだことなのか、英子を抱きしめたことなのか、はたまた彼女が自覚していない何かなのか。

「お前、全員を船で送っただろう」

 懸衣翁は不思議そうに首を傾げた。

「稀に、船で渡しても極楽浄土行きの方がいるでしょう。その、彼女はもしかすると見逃されるかも、と思っていたので」

そこまで言うと、懸衣翁は目を吊り上げた。

死者を脅すときと同じ顔をしている。

「お前。あの老婆に情がうつったのではなかろうな」

「私は誰かに肩入れなどしない。懸衣翁さま、よくご存知でしょう」

 間髪入れずに言い返す。

「良いか。情が湧いて誰かに施しを与えるなど、あってはならない」

懸衣翁は舌打ちをして、吐き捨てるように言った。

仕事をする上で、口酸っぱく言われ続けた言葉だ。

 情がうつったとて、誰かに肩入れをするなど、そもそも私にできることではない。私にできることといえば、懸衣翁と奪衣婆が連れてくる死者を船で運ぶことだけである。

 情が湧いて何かをしでかすのはお前の方だ、と言いたいのを飲みこみ、代わりにため息をついた。

「何度も言われずともわかっています。……私にできることなどありませんよ」

「まあいい。ところで、目上の者と話すときくらい、笠を取らんか」

「ええ。次から気をつけます。……ああ、お客様ですね」

 懸衣翁の肩越しに、奪衣婆が死者を連れて来ているのが見えた。

「……子どもだ」

そう呟くと、懸衣翁の眉が分かりやすく歪んだ。

「子どもが死ぬというのは、辛いものだな」

死者に情を抱くな、などと先程まで講釈を垂れていた口が、妙なことを口走っているものである。

奪衣婆も同じような心持ちなのか、俯き、唇を噛み締めている。

 彼らとは対照的に、白い装束を着た少年は、憑き物が落ちたような、晴れやかな表情で歩いていた。

「そうですね。辛いものです」

 共感するような言葉を紡げば、懸衣翁は睨みつけるように私を見た。

 子どもがここへ来るたびに二人は悲しそうな表情をして、どうにかして現へ帰せないか、と話し合いをする。そのたび、閻魔大王からお目玉をくらっているらしい。

 私に情に流されるな、と叱る割には、彼らの方が情に流され、実力を行使しようとする場合が多いのである。

「執行人。船を出せ」

 奪衣婆が私から目を逸らしながら言った。

 彼女がすんなりと子どもを船に乗せようとしたので、珍しいこともあるものだ、と微笑む。

「はい」

 船を出せ、と言われたということは、彼は橋を渡れない、ということだ。

 子どもは、親より先に死ぬこと自体が罪らしい。

 罪を犯した子どもでも親から弔ってもらえるのか、とぼんやりと思った。

 少年に右手を差し出すと素直に手を握ってきた。いやに冷たい。

「おれ、どこ行くの?」

冷たい手の死者はたまに来る。

魂が冷えきっている死者である。

数えられないほど長く働いていても、魂が冷えている死者がどのような人間なのかは分からずにいた。

子ども、若い人間に多い。ように思う。

「……こちらへ」

手を引き、船に座らせる。

懸衣翁と奪衣婆は暗い表情で俯いている。

鬼らしい見た目をしているくせに、ここへ来る老人と似たり寄ったりである。

「出発します」

私も船に乗り込み、腰を下ろした。

水面に櫓を差し入れ、漕ぎ始める。

相変わらず、川には濃い霧がかかっている。


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