3 剣崎家
深夜、仕事を終えたグラスとタコ松は、繁華街の片隅にあるこじんまりとした酒場にいた。
木のカウンターと昭和風の照明が落ち着きを与える、常連しか来なさそうな雰囲気の店だ。
タコ松はビールを豪快に飲み干し、げっぷ混じりに笑う。
「は〜〜っ、毒使いのサトシ、意外とあっさりだったな。もっとド派手に暴れるかと思ったぜ」
「だな」
グラスは日本酒を静かに傾けながら呟く。
そのとき、背後から女性の声がした。
「一緒に飲みませんか?」
振り向いた二人の前に立っていたのは、茶色のロングコートを羽織り黒い髪を後ろでまとめた若い女性だった。
「えっ?」
グラスは断ろうとした。
「すまな……」
「いいね!飲もう!」
だがタコ松が言葉を遮るように立ち上がり、にかっと笑った。
「わたし、剣崎千冬っていいます。一人で飲むのも寂しくて……」
(剣崎――?)
グラスの目がわずかに鋭くなった。
その後、三人はそのまま酒を酌み交わした。
酒が進むにつれて、千冬は柔らかい笑みを浮かべながら言った。
「この近くに、、、私のオススメの料理屋があるんです。よければご一緒しませんか?」
「行く行く!」
タコ松は二つ返事で答える。
グラスは黙ったままなにも言わなかった。
夜の街を少し外れた細い路地。
提灯がぽつりと揺れる、古風な料亭が現れた。
「どうぞ、こちらです」
千冬がにこやかにのれんをくぐる。
タコ松は遠慮なく入っていく。
「腹減った〜!」
グラスは数秒遅れて、最後に足を踏み入れた。
二人は奥の部屋に案内された。
タコ松「てかここ高そうだけど大丈夫?」
千冬「意外と安いんですよ、、、」
千冬の声は震えているような気がした。
机に料理が続々と運ばれてくる。
グラスはその料理をじっと見つめる。
タコ松はすぐに箸を持ち料理を食べ始める。
「ごめんなさい、、、」
千冬は誰にも聞こえない声で謝った。
グラスは料理を食べているタコ松に話しかけた。
「おい、それ毒入ってるぞ」
タコ松は吹き出した。
「え?なんだって!」
グラスは千冬を見つめる。
「お前、あの剣崎家の人間だろ」
千冬は冷や汗をかいていた。
タコ松も千冬を見た。
「剣崎家?なんだよそれ」
「剣崎家は裏社会じゃ有名な殺し屋一家だ」
グラスはタコ松に説明する。
千冬は涙を流す。
「ごめんなさい、、、」
タコ松は目を見開く。
「おいおいまじかよ」
グラスは立ち上がり部屋を見渡した。
「そろそろ出てこいよ」
すると床下から5人ほど出てきた。
そいつらは全員仮面をつけている。
「よく気づいたな殺し屋狩り」
5人の中のひとりがグラスに話しかける。
グラスはポケットに手を突っ込みながら話す。
「最初にそこの女が剣崎って名乗ったからなぁ。まさかと思ったが、ここへ来て確信したよ。殺意がダダ漏れだぜ」
「それでここから生きて帰れるとでも思っているのか?」
仮面の5人はナイフを取り出す。
グラスはポケットから手を出す。
「あぁ、思ってるさ」